漢方つぼ物語  (101)
大(だい) 敦(とん)

 銀行勤めの僕にとってこの年末年始はラッキーだった。大晦日の前に土曜・日曜が重なったお陰で、めったにない年末三連休が実現したのだ。さらにその上、めでたいお正月にもう一つおめでたが重なった。取引先のお嬢さんが新年早々ゴールイン、担当の僕が支店長と一緒にその結婚披露宴に招待されたのだ。まだ相手がいないながらも、そろそろ身を固めようかと思っている年の初めに何とも縁起のいいことではないか!

***

 それにしても趣向に満ちた豪華な披露宴だった。今売り出し中のシンガー・ソングライターのミニライブ付き。たまたま新郎の友人なのだそうだ。持つべきものはよき友だ。それよりも私が感心したのは料理。すべてのレシピを花嫁が作ったという「創作家庭料理のフルコース」。その味たるや半端じゃないのだ。花婿をにらんで思わず心の中で、(この幸せ者めが!)とつぶやいてしまった。これまた新郎の親友だという司会者が満面に笑みを浮かべて言った。
「どうか今日のお料理の数々は、お二人の新居に招かれた気分でお召し上がり頂きたいと存じます。」

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 そしていよいよ披露宴がクライマックスに近づいた。司会者がまた言った。
「花嫁創作レシピもいよいよデザートを残すのみとなりました。今日の二人と同じ上品な甘さいっぱいのマンゴープリンでございます。このプリン、蓋付きの容器に入って出て参りますが、皆様にひとつお願いがあります。どうか私が合図をするまで、蓋を開けないで頂きたいのでございます。と申しますのは、今日ご列席の皆様の中で3名さまにだけ、プリンの上にピンクのハート形のチョコレートが載せてあります。その3名さまが大当たりでございます。生涯でこのチャンスを逃せば決して手にはいることのない、素晴らしいプレゼントが用意されています。心のご準備はよろしいでしょうか? すこし時間をさし上げましょうか? … 」

***

 司会者がひとしきり、勿体ぶってじらしている間に、僕は一つの決心をしていた。そしてその「決心」を実行に移した。傍らにいる支店長に僕は確信を持ってこう言ったのだ。
「支店長、僕、きっと当たりますよ。それを支店長に差し上げます。きっと差し上げますからね!」
 支店長は笑っていった。
「心優しい部下をもって私は幸せだよ。」
 そして司会者の合図で列席者は一斉にマンゴープリンの蓋を開けた。果たして僕のプリンの上にはピンクのハートが…。一番驚いたのは支店長だった。
「君、ど、どうして!?」
 支店長は僕の「予言」を冗談だと思っていたのだ。
 ではなぜ僕が当たりを確信したのか。僕は今までよく似た状況で2,3度、めったにない当たりくじを引いたことがあった。いずれも、当たったら、人にあげようと思い、そのことをあげようとする人に前もって伝えたのだ。今回もそうすれば必ず当たるという確信があった…。

 ***

 それよりも素晴らしいプレゼントの内容だ。これがまたまた驚きだった。
「3名さまには本日、新郎新婦の真っ正面で、二人にお祝いのスピーチをするという最高の栄誉を、プレゼントとしてお与え致します。」
 支店長は、このプレゼントは謹んで君にお返しするよ、と言った。
 当選者の権利行使の一人目は新郎の友人だった。これ、わざとこの人に当てたんじゃないか、と思うくらいの流暢な、しかも心のこもったスピーチだった。
しかし二人目のスピーチで抽選がアトランダムであったことが分かった。脳性麻痺を患い言葉の発声に不自由のある親族のお一人。ふりしぼるように一言、「おめでとう・ございます」とだけ言った。僕はこの日、繰り返し告げられたどの「おめでとう」よりも、この「スピーチ」が強く印象に残った。
 そしていよいよ僕の番。おずおずと晴れやかなカップルの前に進み出た。
「僕は自分が当たると確信していました。当たったら人にあげると決めてそう相手に伝えておくと不思議に大当たりするのです。ただ今回は、さしあげると約束した人が、僕の上司なんですが、こんな栄光を取り上げるには忍びないと、そうおっしゃるので…」
 会場は明るい笑いに包まれた。司会者が絶妙のフォローをしてくれた。
「ただいまのスピーチは新郎新婦に幸福な未来を約束する素晴らしいヒントを含んでいるように思われます。互いに幸せを相手に譲ろうとするときにこそ、大きな幸運がほほえみかける。それが幸福の法則なのではないでしょうか?」

〔大敦(だいとん)〕足の先〜内腿を経て肋骨の下に至る肝経の出発点のツボ。
 取穴: 足親指の爪の付け根で隣の指寄り。指で挟み、強めにもんで刺激する。
治効:お正月や結婚披露宴の美酒を飲み過ぎての二日酔の症状をやわらげる。

《作者から一言》 コピーライターのひすいこたろうさんのブログに紹介されたエピソードを元に脚色しました。(宮本)



上は大敦の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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