漢方つぼ物語  (104)
豊(ほう) 隆(りゅう)
〈和歌山県立桐蔭高等学校卒業式〉

 卒業生の皆さん、そして保護者の皆様に、桐蔭PTAからお祝いを申し上げます。
 保護者の皆様には、様々な形でPTA活動にご尽力を賜りました。ほんとうにありがとうございました。昨年、あの猛暑の中で、バザーのお手伝いをして下さった皆様、 あの時は冷たい飲み物もお出しせず、申し訳ありませんでした。また親睦ソフトボール大会に選手として参加してくださったお父さま方、応援して下さった皆様、今一歩のところで勝利を逃し、残念でした。来年度こそは雪辱を果たしたいと存じます。
 さて、晴れて卒業の日を迎えられた皆さん、桐蔭高校在籍中、皆さんは本業である勉学に、クラブ活動に、また学校行事にと、若い力を存分に発揮されました。体育祭での、文化祭での、またつい先日の校内研究演奏発表会での、エネルギッシュな姿や、桐蔭展に出品した「青春のモニュメント」と呼ぶにふさわしい作品の数々は、今も私たちの脳裏に爽やかな印象を留めています。
 成し遂げようとして、いまだ果たせない夢もあるでしょう。胸にあふれて、ついに伝えることのなかった思いもあるかもしれません。それぞれの感慨を心に秘めて、今日、君たちは、想い出の尽きない母校桐蔭を巣立っていくのです。
 そんな皆さんへの餞(はなむけ)に、二人の歴史上の人物からのメッセージを、お伝えします。
 一人は福沢諭吉です。福沢諭吉は自ら出版した「学問のすゝめ」という本の中で「これからは学問がものを言う時代だ!」と明治の若者達を激励しました。もう一人は聖徳太子です。聖徳太子が制定したとされる十七条の憲法は「和を以て貴しと為す」で始まります。仲良くすることが大切だ、ということです。そしてそのためには、立場の違いを越えて話し合いを尽くすことが大事で、充分に論議した上で行うなら、物事は必ずうまくいく、と記されています。
 「学ぼう」と説く福沢諭吉と、「話し合い」を諭す聖徳太子。この新旧一万円札コンビの主張、「学び」と「話し合い」をミックスすると、「学び・合い」が大切、となりますよね。  
 ここに「学び合い」とは、単に「共に学ぶ」ことでも、「競って学ぶ」ことでもなく、ひとりひとりの智慧と人格を結集して、互いに学び、補い合うことで、物事を解決する最善の方法を模索することを意味します。社会問題が国際化し、環境問題が地球規模で提起される今この時代こそ、経験や知識を共有し、意見を交換し、「学び合う」ことが、これまでにも増して、必要になってきています。
 皆さんの行く手には、たくさんの困難や試練が待ちかまえていることでしょう。その困難や試練が、心身を強くし、人生の味わいを深めることを、心から祈っています。
 春からの新しい生活が、わくわくする喜びに溢れますように!
 本日はご卒業、まことにおめでとうございます。

***

 PTA会長祝辞を述べた私に次ぎ、戸村達公(たつまさ)同窓会長が登壇した。戸村氏とはご縁が深く、桐蔭高校の先輩であるだけでなく、関西鍼灸柔整専門学校の先輩でもある。さらに氏の母堂である戸村緑先生は中学校時代の音楽の恩師であった。氏の祝辞に耳を傾けているとき、卒然とかつての音楽の授業の一こまが鮮明によみがえった。
 戸村先生が生徒に順番に音楽の理論的な項目について質問していた。一人の生徒が返答に窮していた。戸村先生は叱り始めた。その矛先は比較的基礎的な質問に答えられない生徒に対してではなく、その周囲の生徒に向けられていた。
 「友達が困っているのにどうして助け船を出さないの? あなたたちは学ぶ仲間でしょう! 仲間だったら助け合うのが当たり前でしょう!」
 戸村先生の叱責の言葉は私にとっては実に予想外であった。私は先生が生徒に順に質問している状況で、横から口出ししてはいけないものだと思っていたからだ。しかし戸村先生はあのとき、助け船を出せ、学ぶ仲間として助け合うべきだ、とおっしゃった…。

***

 40年以上前の想い出を反芻(はんすう)する内に、私はハッと気がついた。
(今日の私の祝辞は「学び合う」ことを主題にしているが、この発想の原点は中学校時代の音楽教室にあったかもしれない…。)
 人はそれぞれ自分の意見を持ち人格を形成していく。その時、それを自覚しなくとも、多くの恩師や出会った人々からずいぶんと大きな影響を頂いているものなのだ! ― 母校の卒業式の来賓席で、私は心地よい感慨に浸っていた。

〔豊隆(ほうりゅう)〕顔面から足先に行く胃経全45穴中の40番目のツボ。
 取穴: 外くるぶしと膝のちょうど中間の高さで正面の少し外側の筋肉中に。
 治効:慢性的体質的な胃腸症状全般に。また心身症的な消化器の不調にも。

 巣立っていく卒業生たちが心身共に「豊」穣で「隆」盛な人生を歩んでくれるよう祈りを込めて「豊隆」のツボを選んだ。祝辞の中で触れた聖徳太子ゆかりの「法隆」寺にもかけている。

《作者から一言》 次作は入学式のご挨拶を紹介する。お楽しみに。(宮本)



上は新旧一万円札の図



上は豊隆の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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