漢方つぼ物語  (112)
百《ひゃく》 会《え》
〈子どもが幸せに育つ3つのツボ〉

ただいま校長先生から過分のご紹介を賜りました宮本年起です。和歌山市立雄湊小学校の保護者のみなさんに親しくお話しする機会を与えて頂き感謝しております。本日、私が用意しました教育講演の演題は「子どもが幸せに育つ3つのツボ」です。私が鍼灸指圧師でありますことから、なにかこのツボをおしたらいっぺんに頭がよくなるツボ、かけっこの苦手な子がたちまち早く走れるツボ、丈夫になるツボみたいなものを教えてもらえるじゃないかと期待されている方もあるかもしれませんので、まずはそれに近いツボをお伝えしましょう。
頭のてっぺん百会のツボ。頭痛・めまいや鼻づまりが治って頭がスッキリ。おなじみ足の三里。足を丈夫にし、胃腸を整え、免疫力を高めてがんも退治!足の土踏まず湧泉のツボ。おせば命の泉湧く!冷えを取り生命力を高めます。
頭と足とくれば「頭寒足熱」という言葉を思い出しますよね。この言葉、いかにも漢方由来のようですが中国の古典には出てこないようです。むしろ西洋に起源があるらしく意味するところは「頭は冷静に、足はよく動かして温かく」つまり「感情を高ぶらせず、歩くことを中心に運動を心掛けよ!」との戒めのようです。氷点下20度以下の極寒の地に赴任した日本人が冬場、防寒帽をかぶらず頭痛を発症するのは「頭寒足熱」を信奉し過ぎての失敗かも知れません。

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本題に参りましょう。初めて育児に挑む新米の親がベテランの親に、子育ての極意を教わりに行きました。子育ての名人は、端的にこう言ったそうです。
「子どもは親の言うことは聞かない、親のすることはそっくりに真似をする」
子どもは親と別人格だから親の言うことは聞かない。しかし同時に子は父母のDNAつまり遺伝的素質を受け継いできているから親のすることはまねる。
安部譲二という作家は何不自由ない家庭に育ちながら、どこをどう間違えたのか刑務所に出たり入ったりする境遇に陥っていました。ある日、面会に来た母親が帰りがけに言った言葉が息子を更生に導いたといいます。その一言とは、
「あなたを生んでごめんね…」
この言葉を耳にして、安部譲二は(母は私のような出来そこないの息子の全てに責任を負おうとしている。母にこれ以上、重荷を負わせてはいけない)とつくづく反省・改心して、刑務所に舞い戻ることはありませんでした。子どもについて全責任を負おうとする心意気が、子を悪の道から引き戻したのです。

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 本日の話のサブタイトル「親が子に伝えられること」というお話に入ります。
宗教学者・木野一義先生は広島の寺の息子として生まれました。寺のトイレは母屋から遠く、長い廊下を渡った向こう側にあるため夜、尿意を催すと母を起こすのが常でした。6歳のある夜、いつものように母を起こして、トイレについてきてくれるよう頼むと、母は布団の上に正座してこう言ったのでした。
「かずちゃん、一人でトイレに行きなさい。お母さん、見ていてあげるから」
子供心に(今日は金輪際一緒に行ってくれないな)と観念したといいます。おずおずと長い廊下を歩き始めました。ところが不思議に恐くないのです。母のまなざしを背中に感じて温かい…。木野先生は二十の時、原爆で家族をいっぺんに失いひとりぼっちになりますが、6歳の夜に背中に感じた母のまなざしの温かさに生涯、守られ続けて、宗教学者として輝かしい業績を残されました。
 独特の書体で描かれた心打つ言葉で世に知られる相田みつをさんはときおり、
「なんて美しい夕日なんだ。まるで心が洗われるようじゃないか!」
と幼い子息の手を取って言ったのだそうです。父の感動は握られた手を通してじんじんと伝わってきた、とご子息・一人(かずひと)さんは述懐しています。
 和歌山が世界に誇る脳外科医・板倉徹先生の母は子どもの適性を見抜き板倉先生が小学校5年生の時に野口英世博士の物語を聞かせたのだそうです。それによって医師になることを決意した徹少年に、母は言って聞かせました。
「人には優しくしなさい。弱い者いじめをしてはいけません。自分の意見をきちんと持ち、正しいと思ったことは何千人の前でも堂々と発表するのですよ」
そのお母様について板倉先生のおっしゃった言葉です。
「私は16歳で最愛の母を亡くしました。…16歳での母の死は、私の人生でもっとも悲しいものです。しかし母はいつも私の胸の中にいて、迷ったときの道標(みちしるべ)になっています。…」

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 木野一義先生のお母様は「自立」を教え、相田みつをさんは「感動」を伝え、そして板倉徹先生の母堂は「人として生きる姿勢」を諭したのでした。自立と感動と生きる姿勢。これらをしっかりと伝えることが出来たなら、子は決して道を踏み外すことはないでしょう。愛情を持って、子育てに励みましょう!

〔百会(ひゃくえ)〕背の中心線を上り頭頂から上歯茎に至る督脈の第19穴。
取穴:両耳をタテに折った線を頭のてっぺんに向けて延長し交わる点が百会。
治効:頭部の血行を促し気分を爽快にするほか痔の痛みをやわらげる効果も。

《作者から一言》 度々機会を頂く教育講演の素材は和歌山市の東山行男さん提供の、相田みつをさんの生前の講演の録音CD等から多く頂戴しています。まことにありがたいことです。ここに心からの感謝を捧げます。(宮本)



上は百会の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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