漢方つぼ物語  (116)
石 門(せきもん)

〈卒業式・入学式〉

 ご卒業おめでとうございます。今日を期して桐蔭は皆さんの母校となりました。
ところで、なぜ自分の出た学校を称して「母校」といって「父の学校」とはいわないのでしょう? 私が思案するところ、これには二つの理由があります。
まず一つの理由は「父の学校」とすると「ぼこう」でなく「父校(ふこう)」となって、まるで不幸せの「不幸」みたいで語呂が悪いからです。やはり「母校」でなければなりません。
もう一つの理由、それは皆さんが3年間、土日や長期の休みを除いて1日の約3分の1を桐蔭で過ごしたとすると、それは正味10ヶ月ほどの時間になります。10ヶ月といえば胎児が母の子宮の中で過ごす時間に相当します。そう皆さんは今、母なる桐蔭から産声を上げて生み出される赤ん坊なのです。
3年前、皆さん方が母なる桐蔭の胎内に宿った入学式で、赴任されたばかりの小川校長先生が式辞の中で述べられた言葉が、今も耳元に残っています。
それはフランスの教育者ルイ・アラゴンのこんな言葉でした。「教えるとは希望を語ることであり、学ぶとは誠実を心に刻むことである。」
それから3年。先生方は皆さんに日々希望を語り続け、皆さんはひたすら誠実を心に刻み続け、今日ここに晴れの卒業の日を迎えられました。
禅宗の言葉に「きりの中を行けば覚えざるに衣(ころも)ぬれる」ということばがあります。この「きり」とは「桐の葉」の桐ではなくて、「霧が立ちこめる」の霧です。つまり濃い霧の中を長い時間歩いていると、いつのまにか衣服がびっしょりと濡れていたよ、という意味です。
皆さんは3年間、桐蔭という霧の中で、桐蔭の気風に身を浸して過ごされました。その気風は皆さんの内面に深く浸透しているに違いありません。そしてそれは和中・桐蔭130年の歴史に裏打ちされた誇るべき気風であります。
勉強をも団体戦と捉えて、互いに励まし合い磨き合う和中・桐蔭精神が真価を発揮するのは、まさにこれからだと確信します。
 人は「しあわせになるため」に生まれてきたのだと思います。「幸せ」は元々、仕事の「仕」に「合わせる」と書きます。社会を構成する一人一人がその個性を磨いて、いい仕事をする。それらが合わさって「仕合わせな社会」が実現するのです。
皆さんが個性に磨きをかけて、学問研究の場で、職業の場で、いい「仕事」をされますことを願ってやみません。
本日は晴れの門出、誠におめでとうございます。
 (平成21年3月2日和歌山県立桐蔭高等学校卒業式)

 ***

 みなさん、ようこそ桐蔭へご入学されました。心からお祝い申し上げます。
 さて、アフガニスタンという国があります。永年にわたって戦火の絶えない国です。その国に取材に赴いた外国人記者が、この国のこども達に尋ねました。
「今、一番の願いは何ですか?」
 一日も早く戦争が終わってほしい、おなかいっぱいおいしいものを食べたい、…そんな答を予想して発した質問でした。でもアフガニスタンのこどもは少し予想とは違った答をしました。それはこんな答でした。
「みんなと一緒に学校へ行きたい!」
 また、熊本県にユウスケ君という若者がいます。みなさんと同じ世代の中学校3年生です。でもユウスケ君は学校へ行ったことがありません。ずっと家にいます。一見「ひきこもり」のようですが、実はそうではないのです。
彼は、生まれた時から一つの病気を持っています。それは「先天性免疫不全症候群」という病気です。生まれつき病原菌に対する抵抗力が極度に弱いのです。どうしても外出したい時はガスマスクのような防備をしないと、すぐに病気に感染してしまうのです。
 ひるがえってみなさんは、この平和な国に生まれ育ち、ここから拝見しますところ外出をはばかるほどの持病もなくこの学校に入学されました。まことに幸せなこととお慶び申し上げます。
恵まれたみなさんは、幸福であるがゆえにこそ、戦争のない世界を実現し、病気や障害を持つ人々が、さらにそれ以上の社会的不利益を受けることのない社会を築くために、一定の使命を担っていると私は思うのですが、みなさんはどう感じられるでしょうか。
 ここに透明の瓶があります。瓶に石を詰めます。石はいにしえより人の思いを託するものでした。そういえば、気持ちや考えのことを「意思」って言いますよね。
さて瓶がいっぱいになりました。これ以上、石は一個も入りません。でも水は入りますよ。(水を注ぎながら)はい、これで本当にいっぱいになりました。
石は「思い」、水は「知識」です。どうか桐蔭の門をくぐろうとする今、自分の思いと真剣に向き合って、確かな知識をわがものにしていって下さい。
     これから桐蔭で3年間もしくは6年間、日々身につけてゆく知識の一つ一つが、みなさんの夢を天空に大きく羽ばたかせる翼の、羽毛の一本一本となってゆくことを心から願っています。
 (平成21年4月8日桐蔭中学・高校入学式)

〔石門(せきもん)〕体の前面中心を腹・胸・のど・顎と上がる任脈の第5穴。
 取穴:ヘソからその直下の骨の上のへりまでを5寸として、ヘソの下2寸。
 治効:通りがたい狭い門を通し、エネルギーの流通をよくし、冷えを取る。

《作者から一言》石を用いて、狭き門をくぐる入学式の祝辞としたのでこの穴としました。平成21年5月12日の総会で、PTA会長の任を終えます。(宮本)



上は石門の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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