漢方つぼ物語  (117)
湧 泉(ゆうせん)

〈紀三井寺の寺報「霊場紀三井寺」への寄稿文〉

 二年前にも「霊場紀三井寺」に寄稿致しました。ちょうど桐蔭中学校・高等学校のPTA会長をお引き受けした直後でございました。今ぶじにその役職をお引き継ぎして肩の荷をおろさせていただいたところです。
 この二年間に、世の中では大きな変化がありました。わが国では総理大臣が二度交代し、アメリカでは史上初の黒人大統領が誕生しました。百年に一度と言われる不況が世界を襲い、新型インフルエンザの流行が恐怖をあおり立てています。そんな時代であればこそ、「なにも畏れることはない、安心しなさい」と私たちを優しく包んでくれる存在への有り難さが身にしみます。

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 私は紀三井寺様に幾つもの大きなご恩がございます。
28年前のこと、私は思いを寄せる女性がおりましたが色よい返事をもらえないで悶々としておりました。当時、和歌山城近くの三年坂に「萌え木」という文人墨客の寄り集う、伝説の酒房がございました。そこでたまたま同席させていただいた紀三井寺の前田貫主様に苦しい胸の内を打ち明けましたところ、「よろしい、私から説得してあげよう」とおっしゃって、くだんの女性の家に電話して下さったのです!生来信仰深い彼女は、西国二番の貫主様からの直々のお電話にいたく恐縮し、たちまち私への態度を一変しました。そして翌々年の昭和58年1月に私どもはゴールインしたのです。
 昭和59年の秋に、その「萌え木」の店主・中島綾子さんのご子息が大病を患い、観音様のご守護で見事全快したお礼を申しに紀三井寺へ行かれる際に、私ども夫婦も同行させていただきました。その時、妻は身重でした。応接室に通していただいた折、ぶしつけにもお願いを申し上げました。
 「ご覧の通り、私どもはまもなく初めての子を授かります。どうか子の親となるにあたり、その心構えについてお諭しを賜りたく存じます。」
 貫主様はこう言われました。
 「子どもというものは泣くものです。大声で泣いても、気持ちを荒らげずに優しい気持ちで接してあげてください。」

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 翌昭和60年の年明けに子どもは生まれました。生まれた子は大声で泣きはしませんでした。園子と命名した私どもの子は、ダウン症候群という先天性の病気を持っていることが分かりました。思いがけなくハンディキャップをもつ子の親となり、私どもはうろたえました。そのときに脳裏によみがえったのが貫主様のお諭しのおことばでした。
 「僕らは貫主様のおことばに『よし、どんなに大声で子どもが泣いても優しい気持ちで育てよう』って強く心に誓ったよね。だから、もう一段上の試練を与えて下さったのだと思う。」
 そう私が言うと、妻も深くうなずきました。知的障害を持ち、発育の緩慢なダウン症児の子育ては辛いこともありましたが、周りの人々の手助けと励ましを得て園子は伸び伸びと成長させていただくことができました。
園子が11歳、小学校6年生の時にお誘いを頂いて、幼稚園年長の次女・知佳と共に、お稚児まつりに参加させていただきました。お稚児まつりは、弘法大師様のお誕生をお祝いする行事で、こどもたちが特別の衣装をつけさせて頂いてお渡りをするのです。おりしもその年は第40回記念のおまつりでした。園子が神妙な面持ちで前田貫主様から「智慧の水」を授けて頂くのを眺め、深い感慨を覚えました。写真はそのときに撮ったものです。
 有難いご縁を頂戴して、その翌年の第41回お稚児まつりから毎年、腹話術とマジックのアトラクションをさせていただいております。妻と知り合った頃に始めた腹話術も28年目。仲間達とボランティアに励むと共に、昨秋からはカルチャースクールで教えさて頂いています。
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 私の本業は鍼灸マッサージ師です。永年にわたるご恩の一端に報いるよう、紀三井寺のイメージにピッタリで、なおかつ皆様の健康を増進する漢方のツボを一つだけ紹介致します。
そのツボの名前は「湧泉」です。「湧く泉」と書いて「ゆうせん」と読みます。
紀三井寺に三井水が湧き出るように、私たちの身体には常に生命のエネルギーが湧き出て巡っております。その源と言われるツボが湧泉なのです。
かつて指圧師の浪越徳治郎さんが唱えた「指圧の心、母心。圧せば命の泉湧く。わっはっは!」という言葉は、このツボから来ています。 
 ツボのある場所は足の裏。土踏まずの少し前で、おすとこたえるところです。青竹踏みも良し、お互いに踏みっこするも良し。生命力を高める名穴です。
 これからも湧泉を刺激しつつ、足元をしっかりと踏みしめて歩んで参りたいと思います。ありがとうございました。
 (平成21年5月12日、桐蔭中学校・高等学校PTA会長退任の日に)

〔湧泉(ゆうせん)〕泌尿器系・生殖器系・内分泌器系を司る腎経の第1穴。
 取穴:足指を曲げ第2・3指間のみずかきと踵を結ぶ線のみずかきから1/3。
 治効:冷え(とりわけ下半身の)をとり、老化を遅らせ、抵抗力をつける。

《作者から一言》観音霊場を巡る西国参り。その2番が紀三井寺です。因みに私ども夫婦の新婚旅行先は西国1番青岸渡寺。26年半前のことです。(宮本)



上は湧泉の図とお稚児まつりの写真です

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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