漢方つぼ物語  (118)
失眠(しつみん)

〈平成21年度初夏、和歌山盲学校3つのエピソード〉


 エピソード1:弁論大会

 今年も全国盲学校弁論大会に向けての最初の予選と言うべき校内弁論大会が各校で開催されている。和歌山県立和歌山盲学校でも6月10日に17名の弁士が壇上に登り、自分の歩んだ道や将来の夢などを盛り込んだ弁論を展開した。
 私の教え子の一人である炭 征人(すみ・ゆきひと)さん31歳の弁論がとりわけ私の心を打った。弁論のタイトルは「心の桜」。
 炭さんは一本釣りの名手。その腕を活かして漁師として生きていこうと決心した。23歳で釣り船を購入し、自宅をリフォームし、大好きな女性と結婚。仕事場である大海原の如く前途は洋々としていた。27歳の時、片方の眼の見え方がおかしいので眼科を受診した。既に失明していた。もう一方の眼も視力を失うだろうと宣告されるに至り、船と家を換金して妻に与えて妻には新しい人生を選ばせようと決心した。
「別れよう」という炭さんに妻は「いやや、別れへん。あんたと一緒に生きる」と言った。その時、炭さんの胸に卒然と春の風が吹き込み、心の中に満開の桜が咲いたという。
「心の中に咲き誇る満開の桜を妻に見せ続けたい」という言葉で締めくくられた炭さんの弁論に、いたく感銘した私は帰宅後、妻に弁論の要旨を告げて尋ねた。
「君も炭さんの妻の立場なら『別れへん、一緒に生きる』とゆうてくれるよな?」
妻はちょっと考えてからこう答えた。
「船と家を処分したお金の額次第やな。」
 どうやら私の妻は炭さんの奥さんと違って「桜の花」より「銭(ぜに)の花」のほうだ、と生徒達に報告すると私の教え子で最年少である19歳になったばかりの三栖寛晋(みす・ひろゆき)君が私を慰めてくれた。
「先生、夫婦の間でそんなふうに言えるのは仲のいい証拠ですよ!」

 ***
 エピソード2:野球大会

 校内弁論大会のすこし前の6月4日、私が今年担当する生徒14人の半数に近い6名の教え子が、私の授業を集団欠席した。しかしこれは出席扱いとなる「公欠」である。大阪で盲学校対抗の野球大会に参加したためだ。そして見事3年連続の優勝を果たし、8月20日に岩手で開催される全国大会の出場権を得た。
特別ルールの野球は一層チームワークを必要とする。悲願の全国優勝を祈って、私も心ばかりのカンパをさせてもらった。フレーフレー、和盲!

 ***

 エピソード3:新校長就任祝賀会

 私が非常勤講師に採用された6年前の平成15年に教頭となられた宮本克二先生がこの度、はれて校長に昇任された。100名近い人々が集まって、去る6月28日に祝賀の宴がもたれた。
 「盲学校高等部および理療科出身の宮本克二先生の校長就任をお祝いして、『校長を好調につとめるため智慧』をお伝え申し上げたく存じます。
 わたくし、非常勤講師の宮本年起でございます。名字から分かりますように宮本克二先生の腹違い・種違い(!)の弟にあたるものでございます。
 さて、校長になりますと雑用は教頭時代よりは経るものの、肩肘の張る席でスピーチをする機会が増えるのではないかと存じます。その時に、上がらない方法をご紹介申し上げましょう。頭の中に滝を思い浮かべるのでございます。日本一の那智の滝もいいのですが、ここはいっそ世界一のナイアガラが、とうとうと水を落としている様を思い浮かべて頂き、その滝の名前を連呼します。
『ナイアガラ、ナイアガラ、…、アガラナイ、アガラナイ』ハイお粗末でした。
 それから校長ともなりますと気苦労が多く、精力を消耗するのではないかと懸念しております。精力を保つためには座り方が大事。正座を心がけましょう。あぐらは最もいけません。この際、思い切ってあぐらとはおさらばしましょう。
『バイバイあぐら、バイアグラ』っと。おっと、これまた失礼を致しました。
 なんといっても健康第一。とりあえずかかってはいけないのが今話題の新型インフルエンザです。新型インフルエンザには知られざる特徴がございます。咳が出る前に鼻がピクンと広がります。なにしろ豚インフルエンザですから。鼻の穴が広がり咳をしてしまったら、ここで大事なおまじない、胸の前で十字を切るのです。すると咳がピタリと止まります。『せき・じゅうじ(赤十字)』
ここまでは冗談。これからが校長を好調につとめるための3つのアドバイス。ひとつ、夜はすべてを忘れてぐっすり眠る。
 ふたつ、なにごとも明るく前向きに考える。
 みっつ、周りの人々、とりわけ非常勤講師には優しく接する。以上です。
 このたびは校長ご就任、まことにおめでとうございます!」

〔失眠(しつみん)〕「失眠」とは不眠症のこと。「ぐっすり眠る」ための奇穴。
 取穴:足の裏。かかとの最も盛り上がったところに取る。お灸が効くツボ。
 治効:不眠に。米粒大のお灸を熱く感じるまでどんどん重ねてすえてゆく。

《作者から一言》エピソード2でお伝えした全国盲学校野球大会、近畿ブロック代表の和歌山盲学校チームは予選リーグで北海道に2対4で破れ北信越連合に7対0で勝利、ブロック2位となった。
他のブロックで同じく2位となった香川・岩手との抽選にもれて決勝進出はできず残念。でもよくやった!(宮本)



上は失眠の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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