漢方つぼ物語  (124)
肩井(けんせい)

〈 脊柱側弯についての一考察 〉

 幼稚園年長組の6才の少女が母親に連れられて私の治療院を訪れたのは11月のかかりだった。事前にその母親の実家の父、つまり少女からすると母方の祖父から問い合わせの電話があった。
 「先生、子供の側弯は治りますか?」
 私はこう答えた。
 「骨は自分勝手には曲がりません。骨にくっついている筋肉がアンバランスに縮むために曲がるのです。筋肉の緊張を解いてやればきっと治りますよ。」

 ***

 少女はあどけなく、母親は思い詰めた表情だった。
 「先生、この子、『背骨がゲクゲクに曲がっていて、治しようがない』って、お医者様に言われたんです。」
 見ると立った姿勢で右肩が約3p下がっている。うつぶせに寝かせて左右の骨盤の高さを比べると右が約1p高い(これは左右の肩井のツボをゆるめると難なく揃った)。人差し指と中指で背骨を挟むようにして、脊柱の左右の歪みを上から下へと調べる。なるほど背骨が右に左に曲がっている。「ゲクゲク」とは一方的に右又は左に曲がっているのではなく、ある高さで右、別の高さでは左に曲がっている状態を言っているらしい。詳しく言うと肩甲骨の高さでは右に、背中の中央部では左に、そして腰の高さでは再び右に側弯しているのだった。

 ***

 「お母さん、わが子を気づかう母心に免じて特別に背骨の側弯をやわらげるやり方をお教えします。一週間、毎日2度、やってみてあげて下さい。ただし、くれぐれも功を焦って強くやりすぎないように。痛いと子供さんはいやがって逃げ回りますから、自分からしてほしがるくらいソフトに、心地よい刺激で。」
 そう前置きして私は両手の親指を子供の背骨の際に指の腹を外に向けて置き、外側に押し広げるようにして筋張ったこりをほぐす方法を伝授した。

***

 その翌日はたまたま、定期的に保育園で小児鍼の施術をする日だった。私は早い目に行き園児の背骨を調べることにした。その結果は驚くべきものだった。
なんと対象とする園児の3人に2人の割合で昨日の少女と同じく「右・左・右」の側弯が見られたのだ。残り3分の1の園児は側弯が認められなかった。なお、「左・右・左」などという逆パターンの側弯の子供は1人もいなかった!

***

 1週間後、例の親子が再びわが治療院を訪れた。母親の表情が明るい。
 「先生、まず立った姿勢で左右の肩の高さを見て下さい。」
 「わあ、ぴったり揃っているじゃないですか!」
 「でしょう。今度はうつぶせで背骨を見て下さい。」
 「うーむ、真っ直ぐになっていますね。お母さん、やりましたね!」
 すると母親は少し照れながら、
 「でもね、感覚を研ぎ澄まして背骨を挟んだ指を降ろしてゆくと、挟んだ指は左右には揺れないものの、背骨を人差し指の内側に感じたり中指の内側に感じたりするのは、厳密にはわずかな歪(ゆが)みがあるということですよね?」
 「それはもはやプロの領域です。素人はそこまで立ち入らなくて結構!」

***

 この間、私は治療室に来られる患者さんは言うに及ばず、夜、ホテルで宿泊マッサージを施す客人についても背骨の状態を逐一調べた。そこから導き出された一応の仮説は次の通りだ。
 @ 大人の脊柱はたいてい左右に側弯している。
 A 側弯の典型的パターンは背中を上・中・下に3分割して「右・左・右」もしくは「左・右・左」である。
 B 身体を使い痛めている人は「右・左・右」、一日中パソコンに向かい運動不足など、眼や頭ないし神経的な疲れの勝っている人は「左・右・左」の側弯。

***

 また、幼稚園児・保育園児についてはその後、意外な発見があった。というのは、12月に再び小児鍼の機会に保育園児の背骨を調べると、前月とはうってかわって、ほぼすべての園児の背骨の弯曲が消えていたのだ。前月は3人に2人が「右・左・右」に曲がっていたのに!
 私の出した一応の結論(というか推理)はこうだ。
 10月に運動会があった。運動会は幼稚園・保育園でのふだんの取り組みをおうちの人に披露する絶好の機会だ。そのため練習にはかなり力が入り、園児はよく身体を動かす。11月初めにはまだその余韻が残っていた。しかし子供は自然治癒力が強いので、次第に快復した…。
 以上、識者並びに同業諸先生方のご意見・ご批評を乞う次第である。

〔肩井(けんせい)〕心身の慢性化した疲れに効果的な足の少陽胆経の第36穴。
 取穴:頸の後ろの出っ張りと腕の付け根後方のくぼみを結ぶ線の中央に取る。
 治効:背骨の両側の筋肉の緊張のバランスを調え左右の骨盤の高さを揃える。

《作者から一言》今回の作品は誇張も脚色も一切ないノンフィクションです。写真は介護予防の研修で上京のおり、新幹線から見た富士山です。(宮本)





上は肩井の図・脊柱側弯の調べ方 富士山の写真

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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