漢方つぼ物語(126)
労宮(ろうきゅう)

〈 スーパーマンの子育て・オンリーワンの子育て 〉

 鹿児島県志布志市に女子プロゴルファーの横峯さくらさんの伯父さんが園長をつとめる3つの保育園があります。3年保育の間に全園児が、10段の跳び箱が跳べるようになり、逆立ち歩きを自在にこなし、小学4年生男子の50m走の平均を上回る速さで走れるようになるのだそうです。運動能力だけではありません。音楽面では「絶対音階」、すなわち音を耳にしたときにその音程を正確に言い当てる能力を身につけ、小学校2年生までの漢字を効率的に教え込み、卒園時には一人平均1,500冊の本を読破しているとか。いやはやこの園を「スーパーマンの子育てを実践する保育園」と申しても言い過ぎではない
 横峯吉文園長はその秘密が「4つのやる気のスイッチ」にある、と言います。
 第一のスイッチ、「こどもは競いたがる」。横峯おじさんの保育園では毎朝、8時半から10時まで徒競走を行います。何人かが一緒に走って、上位3人の子どもが「1番!」「2番!」「3番!」と肩を叩いてもらえるのだそうです。これだけでやる気のスイッチは入ります。「明日こそ肩を叩いてもらうぞ!」と。
 第2のスイッチ、「こどもは真似したがる」。先生がオルガンである音を出し、こどもたちは手元のピアニカ(鍵盤ハーモニカ)で同じ音程の音を出します。何度も繰り返しているうちに、どの子も正確に当てるようになるのだそうです。
 第3のスイッチ、「こどもはほめてもらいたがる」。文字を習い覚えるとこどもは自発的に本を読むようになる。読み終えた本を持参して先生に「申告」すると、先生はこどもの連絡帳と先生の台帳に書名と日にちを記録してくれます。これが励みとなって、こどもはどんどん本を読む習慣が身に付くと言います。
 第4のスイッチ、「こどもはちょっと難しいことに挑戦したがる」。だれにも簡単にできることはやってもつまらない。かといって到底できそうにないことはやる気がしません。「う〜ん、むずかしそうだけどがんばったらできるかな」ということにこどもはチャレンジしたがります。一段一段、段階を追って跳び箱をクリアしていくうちに、ついには10段を見事に跳んでしまうのです!

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 さて、今ご紹介した保育園とある意味で対極にある幼稚園があります。この園のモットーは「一人ひとりの園児が自分の遊びを見いだすこと」「自分の遊びのできるこどもを育てること」だと言います。この幼稚園は12年前に新しい園舎を建てました。それを契機に「オープン保育」に着手したのでした。
 新入園児120名(30名のクラスが4つ)を広いフロアで、さまざまな遊び道具を用いて存分に遊ばせようとしました。ところが意図した通りにはいかなかったのです。せっかくの広いフロアなのに散らばることなく、その4隅に各クラスがかたまってしまったのです。クラスメートたちが容易にちりぢりにならなかったのです。それは先生方にも責任の一端があったのかも知れません。自分が担任するこどもたちを手元に集めて守ろうとする気持ちもあったのです。
 それならいっそのことフロアを区切ってしまおうということになりました。物置を仕切りにしてフロアを4等分しました。この物置はこどもたちの背丈より高く先生方より低いので、先生は部屋全体を見渡すことができ、園児たちにとっては仕切られた部屋の外は見えない状態です。
 次の段階として、おりを見計らって仕切りを物置から物掛け(かばんなどを掛けておくもの)に換えました。高さはほぼ同じなのですが、物掛けのほうは向こうが素通しで見えます。仕切り越しに他のクラスの様子をチラチラと興味深く眺めるこどもたち。タイミングを見計らって仕切りを取っ払ったときに、オープン保育はようやく完成しました。120人の園児たちがそれぞれの遊びを模索する体制はここに整ったのでした。
 と、こう説明するといかにもスムーズに進行したように聞こえますが、実際は新入園児が卒園するまでくらいの期間、つまりおよそ3年の歳月を要する、試行錯誤の末の産物であったようです。
 ところで「自分の遊びを見つける」ことがなぜそんなに重要なのでしょう? こどもの遊びの延長上にはその子の人生があります。押しつけられたのでない、自分で選び取った遊びの向こうにはきっと、自分の感性を輝かせる、わくわくするような人生が続いているはずです! この幼稚園がめざしているものを「オンリーワンの子育て」と私は呼びたいと思います。

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 さあ「スーパーマンの子育て」と「オンリーワンの子育て」。あなたはどちらの方針でこどもを育てたいですか? スーパーマンの子育ての基盤となっている「やる気のスイッチ」には人間の本質に触れるものがあって捨てがたいです。一方、オンリーワンの子育てには、生きることの意義に迫るものを感じます。
 最後に書家で詩人の相田みつをさんがご子息に捧げた短歌をご紹介します。
 "どのような道を どのように歩くとも いのちいっぱいに 歩けばいいぞ"

〔労宮(ろうきゅう)〕愛しいわが子を抱きしめ撫でる掌の中にあるツボ。
 取穴:手を握ったとき、人差し指と中指(中指と薬指、との説も)の先の間。
 治効:興奮をしずめる。感情で子を叱りそうなときにこのツボをもむとよい。
《作者から一言》ここ最近、小学校や幼稚園で教育講演させて頂いている内容のエッセンスです。こどもたちに感動ある人生を、と心より祈ります。(宮本)



上は労宮の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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