漢方つぼ物語(129)
大椎(だいつい)

〈 がん検診が毎年必要な理由 〉

 突然ながら最初にクイズを出します。
 月の初めに、お父さんが上機嫌で二人の子どもたちに言いました。
 「今月だけ特別に、お父さんからおまえたちに、毎日お小遣いをあげよう。いくらほしいか言ってごらん。」
 兄が言いました。
 「ぼく、毎日、百円ほしい!」
 お父さんはにこにこして、
 「いいとも、いいとも。」
 こんどは弟が言いました。
 「ぼく、今日は1円でいい。でも明日は2円、あさっては4円、しあさっては8円、と毎日、倍々に増やしていってほしいな。」
 お父さんはにこにこして、
 「それはおもしろい。」
 さて、この月が大の月であったとして、31日に弟はお父さんから何円もらうことになるでしょう?

***

 お分かりでしょうか? これは2の累乗の問題です。ついたちは1円、二日は2円、三日は2の2乗で4円、四日は2の3乗で8円。すると31日は2の30乗となります。2を30回掛けるといくつになるか、という問題なのです。 あせらずにこつこつと順番に参りましょう。さっきの続きで2の4乗は16、2の5乗で32、2の6乗は64、まだ大丈夫ですよね。2の7乗が128、2の8乗は256。もうひとがんばりです。2の9乗が512で2の10乗は、これを更に2倍して1024です。これは、ほぼ千です。2の10乗はほぼ千。求めたいのは2の30乗ですが、これは2の10乗を3回掛け合わしたものなのです。すなわち千かける千かける千。千かける千は百万、それにさらに千をかけると、千万・1億・10億。なんと約10億円が正解! お父さん、月末が近づくにつれて、さぞかし青くなったことでしょう。

***

 さて、がんのお話をするのになぜこんなクイズから始めたかというと、がんは細胞分裂によって限りなく増殖することを最大の特徴とするからです。標準的ながん細胞は、ほぼ半年ごとに2倍、2倍と増えていきます。
 健康な人で毎日およそ50個のがん細胞ができるといいます。それらのがん細胞はすべて、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)という免疫細胞によってやっつけられるはずなのですが、たまたまストレスのために免疫機能が十分に働かずに、そのうちのたった一個のがん細胞を壊しそこねると、さあ大変なことになります。そのがん細胞は15年の間に30回の細胞分裂を繰り返し、10億個のがん組織に成長します。これは大きさで言うと約1pのがん組織です。
 1pのがん組織は通常のがん検診で発見できます。より精度の高い検査装置だともっと小さいものも発見できる可能性がありますが、通常はこの大きさにならないと発見がむずかしいのだそうです。
 1pのがん組織は初期のがんです。あちこちに転位でもしていない限りは、まず間違いなく手術で取り除いて完治可能です。

***

 それでは2pのがん組織だとどうでしょうか? 
 これはもはや「初期のがん」とは言えないのだそうです。必ず完治するとは言えない大きさなのです。
 それでは1pのがん、すなわち初期で完治可能ながんが、2pのがん、すなわちもはや初期とは言えない、完治を約束できないがんに成長するのに、一体どれくらいの年月がかかるのでしょうか?
 大きさが2倍になるということは、容積、もしくはがん細胞の数が2の3乗、すなわち8倍になるということです。半年ごとに細胞分裂が起こるなら、これは3回分。はい、1年半というのが正解です。

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 もうお分かり頂けたことと思います。そうです。毎年がん検診を受けていれば2pにならないうちにがんを見つけることができます。これが2年に1回だと、前回は発見されなかったのに今回は2pのがんが見つかった、ということになりかねない、ということなのです。
 結論。毎年、がん検診を受けましょう!

〔大椎(だいつい)〕後ろ中心線(後正中線)を上行する督脈28穴中第14穴。
 取穴:指先で頸の後ろをなで下ろすとき、最も飛び出している骨のすぐ下。
 治効:身体の後側(陰陽の陽)の全経絡をリラックスするストレス解消の穴。
《作者から一言》 大椎のツボについては興味深い説があります。うん、うん、とうなずくとこのツボに理想的な刺激が加わり、ストレス解消、免疫力は増強。逆にイヤ、イヤ、と首を横に振ると、その効果が薄れるというのです。物事を肯定的に受けとめることで最高の効果を発揮するのが大椎のツボ、ということになりましょうか…。本文の内容は、東大病院のがん専門医・中川惠一先生が毎日新聞に連載された記事を元にして、私がアレンジさせて頂きました。(宮本)

添付ポスターの説明:私のボランティア芸は腹話術。でもその原点は落語なのです。高校時代に数人の仲間とオチケン(落語研究会)を創設、もっぱらオリジナルの新作を披露しておりました。この夏、ダイワロイネットホテル和歌山で催す400人規模の落語会で、漢方つぼ物語中の漢方落語のひとつを演じることになりました。どうなりますことやら…。





上は大椎の図・下は落語会ポスター

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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