漢方つぼ物語(133)
水突(すいとつ)

〈 堀氏藍綬褒章受章祝賀会 〉

 「皆様、本日はご多忙の中、堀昌弘氏の藍綬褒章受章記念祝賀会にご列席賜りましてまことにありがとうございます。本日の主役であります堀昌弘ご夫妻のご入場に先立ちまして、民謡歌手・斎藤東村様が“津軽よされ”を披露されます。“津軽よされ”の“よされ”とは、“イヤな世よ去れ、みんなが笑い合う良い世の中よ来い”という意味だそうです。歌の途中で、堀ご夫妻が入場されます。どうか盛大な拍手でお迎え下さいますよう、お願い申し上げます。」
 女性司会者がオープニングの口笛を切った。二百名近い列席者が耳を傾ける中、三味線・尺八の音色にのせて“津軽よされ”の歌声が心地よく響き渡る。2節目末尾の“…津軽富士”というフレーズで歌は最大の盛り上がりを示した。やがて3節目を歌い終えるタイミングで入口の扉が開かれ主役の夫妻が入場、場内は大きな拍手で包まれた。ときに平成22年8月1日の昼下がりである。

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 祝賀会の準備は受章の内示を得た4月から開始された。4月17日に最初の発起人会がもたれている。受賞者の堀氏とその後を引き継いで社団法人和歌山県鍼灸マッサージ師会の会長に就任予定の現会長代行の井畑邦彦氏、同会副会長4人、そして会場となるホテルグランヴィア和歌山の担当・下脇さんを加えた7名で祝賀会の概略を描いた。司会はラジオの和歌山放送を中心に活躍中のフリーアナウンサー・上林君江さんにお願いすることを決め後日、快諾を得た。
 発起人会を重ね、列席者も定まり、祝賀会の全体像が浮かび上がってくる中で、オープニングの演出について、受賞者本人と発起人会の「意見の対立」が生じた。堀氏の義兄にあたるプロ民謡歌手に冒頭、歌って頂いて、その歌にのせて入場することに双方、異存はないのだが、「拍手はいらないから歌に聴き入ってほしい」とする堀氏と、「主役の入場を目一杯の拍手で迎えたい」と主張する発起人たちの意見が一致しなかったのである。しかしこの対立は妥協点を見いだすことができた。ある程度、歌に聴き入ってもらったところで入場することにしたのである。しかしながら、具体的にどこに入場のタイミングを取るかは、当日のリハーサルに委ねざるを得なかった。そしてその民謡歌手は神奈川県から駆けつけて頂く“遠来の客”であったために、リハーサルは本番の1時間前に、ようやく実現したのだった。
 民謡歌手は伴奏のオーディオテープを持参していた。その伴奏に合わせて、本番通りに歌ってもらうことにした。受賞者夫妻が入場して壇上へ到着するまでの時間を逆算して、歌の第3節と第4節の合間に入場するのがベストと判断した。リハーサルと最終の打合せを終えたとき、列席者に着席してもらう定刻が迫っていた。
 歌に聴き入ってほしいとの主役の願いと、冒頭でしっかり盛り上げたいという発起人会の思いは共に満たされて、祝賀会は盛会かつスムーズに進行した。
 祝宴がお開きになってから「入場のタイミングについて、こんなせめぎ合いがあったのですよ」と内輪話を伝えると、この高齢の民謡歌手は微笑みながらこう言われた。
 「いやあ寄る年波で、さびの部分を唄った辺りでちょいと息が苦しくなって。そこへ妹夫婦が拍手と共に入場してきてくれたので、実は助かりました!」

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 祝賀式の締めくくりで受章者が、今しがた3人の孫娘達から贈られたばかりのブーケの一つを手にして、お礼の言葉を述べた。
 「視覚障害者を多数雇用する治療院を立ち上げた当初、多額の借財ゆえに“親戚さえよりつかぬ”状況だった。そんな中、『何か困ったことがあれば言ってくれ、力になるから』と申し出てくれた友人がいた。それがこの人です。」
 堀氏は手に持ったブーケを列席者の一人に差し出した。二人は男泣きしながら抱き合った。場内は感動に包まれた。
 乾杯後の祝宴で、インタビューのマイクは受賞者の奥様に及んだ。
 「多額の借金で苦しかったとき、どんなことを思われましたか?」
 「もう離婚しようと思いました!」

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 藍綬褒章は教育・医療・福祉などの分野で他の模範となる業績をなしとげた者に贈られるご褒美である。晴れの受章記念祝賀会が巧まずして映し出したのは、大きな成功を陰に陽に支えた人々の姿であった。

〔水突(すいとつ)〕顔面から頸・胸・腹を下りて足先に至る胃経の第10穴。
取穴:喉仏の高さより少し下、指2本分左右にある。指で軽く挟むように刺激。
治効:民謡を朗々と歌うとき、かすれず張りのある声が出せるようにするツボ。
《作者から一言》発起人の一人として私は祝賀会当日、二つの役割をもたされていた。一つは受賞者の業績を簡潔に紹介すること、もう一つは祝宴でマイクを持って何人かの来賓から祝辞を頂戴することだった。既にお酒の入った状況で場内を祝辞に集中してもらえるか不安だったが、受賞者に傍らに居てもらって直接、面と向かってスピーチをして頂く工夫が功を奏した。受賞者の奥様やお孫さんにマイクを向けたのは型破りであったが、会場は大いに和んだ。(宮本)



上は水突の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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