漢方つぼ物語(134)
天井(てんせい)

〈 厚生労働省と協議 〉

 平成22年の七夕の夜、午後10時すぎの新大阪駅。私は必死の形相をして予約してある東京行き夜行バスを探していた。発車時刻は刻々と迫っている。ない、バスはどこにもいない! JR新大阪駅1階中央口を出たところに停車して待っているはずのバスの姿はどうしても見つからなかった。問い合わせ先に電話してもかからない。絶体絶命だ。ああ、発車予定の10時10分を過ぎた。このバスに乗れないとなると他にどんな手段があるだろう? 確か夜行寝台列車があるぞ、大阪駅発東京行きの。寝台特急は寝台料金を結構高く取られるが、この際だ仕方ない。待てよ、空きはあるものだろうか? 寝台車がダメなら、待ち合わせ場所の都営地下鉄丸ノ内線、霞ヶ関駅に明日9時40分に着くためにはどうしたらいいのだ?

***

 問い合わせのための電話番号に何度コールしても相変わらずつながらない。万事休す、と観念した時に私の携帯が鳴った。そうだ、夜行バス予約の際に、こちらの携帯番号を伝えてあったのだ。
 「今、どこにおられますか?」
 さすがに向こうも息せき切って尋ねた。
 「新大阪駅の中央口です。バスをどうにも見つけることができません!」
 「今いるところが1階かどうか確かめて下さい。」
(1階かどうか?そんなの見ればわかる。景色を見ても1階に決まっている。)そう思いながらも近くにいたおじさんに一応確かめた。
 「ここ、1階ですよね!?」
 すると、思わぬ答えが返ってきた。
 「ここは2階ですよ!」
 なんということだ、景色を見れば1階としか思えないこの場所が、2階だったとは! どうりでいくら探しても見つからないはずだ。私はあわてて階段を駆け下りて「1階の」中央口を出た。果たしてそこに目指すバスはあった。
 申し訳ありません、と心から詫びると、運転手さんは言ったものだ。
 「いやいや、こんなことはちょいちょいありますよ!」

***

 バスはなんと私一人のために15分遅れで新大阪駅を発車した。
(やれやれ、焦ったけれど、バスに乗ってしまえばこっちのもんだ。)
とようやく一息ついて、かけずり回った疲れで寝入ってしまった。午前2時頃、運転手さん(ワンマンだから車掌も兼ねている)がやや抑えた口調で言った。
「土山インターでございます。ここで10分間、トイレ休憩をいたします。」
バスにはちゃんとトイレが付いているのに、と思ったが、体を伸ばして外の空気を吸うのもいいか、と寝ぼけまなこで車外に出た。何も考えずに用を足して、元のバスに戻ろうとして、さて困った。このインターチェンジはトイレの周りに放射状に何重にも駐車位置があり。バスに戻ろうにも方向自体、見当が付かないのだ。
(ああ、まだ乗るバスが見つからない方がましだった。上着も荷物も、バスの中だ。これでバスに戻れなかったら、どこへも行けないし帰れもしない!)
 私は真夜中であることも忘れて妻に電話した。妻はすぐ受話器を取った。
「どうしよう? トイレへ行ってバスを見失った。」
「そんなの、私に言ってもどうしようもないでしょう(確かに!)。でも、見回して見あたらないのなら一列目にはないということだから、とりあえず2列目を1台ずつ順番に見ていけば?」
 なるほど、理にかなっている。仰せの通りに2列目を順番に見ていくと、果たして懐かしのバスと巡り会った! 運転手さんが入口のところに立ってくれていた。また、お宅ですか、と言わんばかりに…。

***

 15分のロスを取りもどして、バスは定刻の翌日午前7時に東京駅八重洲口に到着した。先に到着していた同僚委員に案内してもらって24時間サウナに入湯、汗を流しさっぱりして、地下鉄霞ヶ関駅でほかの役員・委員の先生方と落ち合った。そして午前10時、厚生労働省医政局医事課の会議室の椅子に座ることができた。そう、紆余曲折の末、私は無免許行為対策について国の担当官と協議するテーブルについたのだ。忘れがたい「厚労省デビュー」である。

〔天井(てんせい)〕腕の陽側、すなわち手の甲の側を上る三焦経の第10穴。
取穴:ひじ鉄砲(肘頭という)の上1寸にある。反対側の指でもむとよい。
治効:駆けずり回って動悸や息切れが起こったとき、これを正常に戻すツボ。
《作者から一言》はり・灸は言うに及ばず、あん摩・マッサージ・指圧もまた厚生労働大臣免許の国家資格だ。ところがこの業界、無免許行為があふれている。免許制度をアピールしながら、取締りについて監督官庁である厚生労働省(とくに医政局医事課)と協議に当たるのが全日本鍼灸マッサージ師会法制局無資格無免許対策委員会のメンバーである私の職務である。(宮本)



上は天井の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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