漢方つぼ物語(136)
天 容(てんよう)

〈 和歌山県腹話術協会30周年 〉

 昭和55年12月15日、和歌山という地方都市に、ひとつのボランティア団体が誕生した。団体名は「和歌山県腹話術協会」。その名の通り、腹話術で笑顔のボランティアをしようという人々の集まりである。初代会長は坂口全彦(まさひこ)。当時、和歌山市教育委員会の保健体育科主事。のちに和歌山市の教育長にまでのぼりつめることになる。初代副会長は浦 恭將(やすまさ)。当時は和歌山市消防局の消防士であった。発足メンバーはほかに、養護学校の教諭や保育園園長、交通指導員(後に婦人警察官となる)と多彩で、職業の場で腹話術を活かすために腹話術を志した人々が大半であった。
 最初の会合の映像が残っている。
 「私に腹話術ができるでしょうか?」
不安げに尋ねるメンバーに、
 「大丈夫、きっとできますよ。」
と笑顔で応える女性こそ、この団体の「生みの親」と呼ぶべき人物で事務局をつとめる西嶋悦子であった。当時、和歌山市立名草小学校の家庭科教諭で給食教育も担当していた。
 (なぜこんなに食べ残すのだろう。好き嫌いも多いし。次の時代をしょって立つこどもたちがこんなでは日本の未来があやぶまれる。なんとかしなくては。といっても、頭ごなしに言うだけでは効果がないだろう。こどもの目線で自覚を促すにはどうしたらいいだろうか。そうだ、腹話術! 腹話術を使って指導すれば、こどもたちもきっと関心を持つにちがいない。)
 思いたったら行動の早い西嶋は新聞社に電話した。
 「川上のぼるさんの住所を教えて下さい!」

***

 川上のぼる。わが国における腹話術の草分け的存在。高校時代、映画で俳優のエドガー・バーゲンが腹話術をするシーンに大いに触発され、手作りの人形でそれを真似たところ大受け。京都学芸大学(今の京都教育大学)在学中に、学生タレント第1号としてデビューした。ラジオ番組の「ハリスクイズ」で、スポンサーのキャラクターである“ハリス坊や”の掛け声は全国に知れ渡った。「イットーショー(一等賞)! ハリスのチューインガムをどうぞ!」
 その川上のぼるから西嶋悦子に返事の電話が来たのだ。  「お手紙の趣旨、よくわかりました。私はラジオ放送で全国の小学校を廻りました。その小学校の教育のお手伝いができるなら何よりの恩返しになります。手ほどき致しましょう。」
 川上のぼる直伝の腹話術を給食教育に活用し始めた西嶋の周りに、お人形とのおしゃべりを楽しむ人の輪が広がっていった。

 
***

 そして30年の時が流れた。その間に、毎月一度のおけいこ会が330回、毎年の腹話術発表会も30回を重ね、老人施設や幼稚園・保育園などで会員が手分けして行う笑顔のボランティアは年間200ヶ所を超えるまでになった。
 平成22年11月27日の午後1時。和歌山県庁正面の和歌山県民文化会館小ホールは観客であふれかえった。補助のパイプ椅子をいくら出しても足りないほどの大勢の人々が「腹話術の祭典」に詰めかけた。会員21人が出演し、腹話術や余技の落語を披露して喝采を浴びた。ゲスト出演のフラメンコと和風マジック、そして「尺八一つで演じる腹話術」が花を添えた。
 新人会員のひとりが翌年の干支であるうさぎの人形を用いて食育をテーマとした腹話術を演じた。翌日の新聞は「食育を伝えた30年」という見出しで、こう報じた 【和歌山県腹話術協会の創立30周年を記念した「腹話術の祭典」(同協会主催)が27日、和歌山市小松原通1の和歌山県民文化会館であり、大勢の家族連れなどが来場した。同協会は80年12月に発足した。小学校で給食指導をしていた西嶋悦子教諭が、子供らの食べ残しや偏食をなくすため、腹話術で食の大切さなどを教えることを提案。賛同した消防士や交通指導員なども加わり、メンバー9人で結成した。以後は、介護施設や幼稚園・保育所、小学校などを年間約200カ所、ボランティアで訪問し、食の大切さなどを腹話術で紹介している。この日は、同協会の木村敦夫会長が「皆様の支援と協力で30周年を迎えることができました。まだまだ未熟な私たちですが、初心に戻って頑張るので、日頃の練習の成果をご覧ください」とあいさつした。会場には終始、笑い声がわき起こっていた。】(毎日新聞和歌山版平成22年11月28日より引用)

〔天容(てんよう)〕小指から腕・肩・頸を経て耳前に至る小腸経の第17穴。
取穴:下顎(あご)の角、いわゆる「えら」の後ろで“胸鎖乳突筋”との間。
治効:頸周辺のこりをやわらげ、発声をよくする。腹話術師にピッタリのツボ。
《作者から一言》和歌山県腹話術協会に私が入会したのは昭和57年4月。私の腹話術歴も今年の春から30年目に入ります。小学生の時に母に連れられて大阪で見た川上のぼるさんの鮮やかな芸にあこがれて、ようやく29歳にして巡り会えたのです。今回の「腹話術の祭典」は私にとっては29回目の発表会の舞台。写真はその時に演じた「笑いのヨガ」の1シーンです。(宮本)



上は笑いのヨガの写真と、天容の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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