漢方つぼ物語(137)
十宣(じゅっせん)

〈 人権フェスティバル2011 〉

 幕が上がった。舞台上に紅白二つのついたて。観客に演者が語りかける。
「雪の降り積もる中、ようこそ人権フェスティバルに足をお運び頂きました。さて、人権社会を実現するために必要なものは2つあると思うのです。差別や偏見を許さない正義感、これが第一の条件です。正義を白のついたてで表現しました。しかし、頭の中で理解していても、現実の不条理な差別を見過ごしたり人権侵害にストップをかけられなかったりでは人権社会の実現は絵に描いた餅となってしまいます。正義を実現する情熱を赤いついたてであらわしてみました。ここで私が現在、小学校で手品と腹話術を指導している教え子の一人にお手伝いをお願いしましょう。永原君! 出てきてくれるかな?」
 名前を呼ばれて、少年が登場。「皆さん、今日は!」と挨拶する。
「さて、永原君、正義の白か、情熱の赤か、君はどちらを選びますか?」
 少年は腕組みして考えます。
「う〜ん、正義の白もすてきだけれど…僕は情熱の赤を選びます。」
「はい、いいですよ。それでは赤のついたての後ろに入ってもらいましょう。さあ、これよりイリュージョンです。今こそ情熱の赤は正義の白と一つになります。目をこらして、よくご覧下さい。ワン、ツー、スリー!」
 演者は白のついたてをひっくり返す。するとそこにはたった今、赤のついたての後ろに入ったはずの少年が現れたのだ。観客は一斉に驚きの声を上げた。
「えーっ、どうして?」「なぜこうなるの?」「自分の目が信じられな〜い!」

***

 人権フェスティバルは和歌山市・和歌山市教育委員会・和歌山市人権委員会の主催で毎年2月に開催される。人権劇や映画上映、講演にまじって、初めて私にお呼びがかかったのは6年前の人権フェスティバル2005のときだった。そのおり、私はインターネット上で「星影のワルツの真の作詞者は被差別地区の青年」との情報を得て、これを中心にすえて台本を作った。共演する兄弟子の千田やすしさんに「それは事実じゃない、ガセネタ!」と前もって教えてもらわなければ、公的な催しで真実に反する情報を流してしまうところだった。
 その教訓から、今回は早い目に台本を確定して、主催者はもとより腹話術・マジックの仲間に至るまで、多くの人にアドバイスを求めた。
 全体を4つの部分で構成した。まずはイリュージョンで観客の目を惹きつけ、次に数体の人形を用いて様々な人権のジャンルを取り上げる。それぞれの人形が「差別(虐待、人権侵害)は鬼だ! 鬼は外、腹話術。」といいつつ、可愛くくびをかしげるという決めのポーズで統一した。これは大受け。いっこく堂が法務省の依頼を受けて、ネット上の動画サイトであるユーチューブ上で披露している一連の人権動画での決めゼリフ「気づいて下さい“いっこく”も早く」を参考にして、千田やすしさんの「笑う門には腹話術」を真似てこしらえた。
 そして「人権の歌のコーナー」ではまず「世界で一つだけの歌」を紹介した。次いで「トイレの神様」の一節、“どうしてだろう人は人を傷付け大切なものをなくしてく”という歌詞に託して、周りの人と固く結び合うことの大切さを訴え、最後に「手のひらを太陽に」を客席と人形が一緒に歌った。
 フィナーレはやっぱりアラジンの魔法のランプの大男・ジーニー。こども達が健やかに成長し、高齢者が生き甲斐を持って長寿を保ち、そして誰もが明日に希望をつなぐことができるように、との祈りに応えて、「まっすぐ伸びる木の棒(希望・長生き=長い木)」と、さらに人権の花のついたてを出して拍手喝采のうちにお開きとなった。

 ***

 ところで冒頭のイリュージョン、どうにも信じられないとおっしゃる読者のためにネタばらしを。瞬間移動を達成した後…
「念のために赤いついたても確かめましょう、まさかとは思いますが…。」
 赤のついたてをひっくり返すとそこにも永原少年が! そう、二人は一卵性双生児の兄弟だったのだ。二人にインタビューするとマジック・腹話術の他に雅楽の勉強もしていると言う。兄の龍樹君は篳篥(ひちりき)、弟の龍成君は鳳笙(ほうしょう=笙の笛)を選んだそうだ。このコーナーしめくくりの言葉。
「見た目がそっくりの仲良し兄弟。それでも選んだ楽器は別々でした。私たちは一人一人、違った個性を備えています。お互いの個性を尊重し合える社会を、力を合わせて築いていきたいものです!」

〔十宣(じゅっせん)〕正規のツボではないが確かな効き目のある奇穴である。
取穴:両手10本の指のそれぞれの先端の中央。爪楊枝で刺激しても良い。
治効:マジシャンは指先が命。指の知覚異常に効く。失神時の気付けにも。
《作者から一言》人権をテーマに腹話術を演じることには深い思い入れがある。私の尊敬する師匠・川上のぼる先生の子息・川上じゅん先生の腹話術師としてのデビューライブの日、私はPTAの人権研修で大阪府堺市の同和資料館を訪問していた。ライブに間に合わないとほとんど諦めかけたとき、職員のお一人が最寄りの駅までマイカーで送って下さった。その時、私は肝に銘じたのだ。これは「腹話術を人権に役立てよ」との天の啓示であると!(宮本)



上は十宣の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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