漢方つぼ物語(138)
印堂(いんどう)

〈 「第10回 健康セミナー」より 〉

 すでに患者さんが何人かお待ちになっていますので、お呼び致しましょう。患者さん、いらっしゃ〜い!(おじいちゃんの人形が登場する)ようこそ!
「わしゃ、この歳になるが、はりも灸もマッサージも全く初めてなんじゃよ。」
そうですか、お達者なんですね。今までこりも痛みも全然なかったんですか?
「あるにはあったんじゃが、痛いところをキッとにらんで、しのいできたよ。」
すごいですね。今回はキッとにらんで痛みを吹き飛ばせなかったのですか?
「うん、今回は痛みどころが悪かった。目の奥が痛いんじゃよ。」
なるほど。では頭の後ろの風池(ふうち)のツボにはりをしましょう。眼の症状に良く効きますよ。メガネを外してうつぶせになって頂きましょう。これがはりです。滅菌パックされて使い捨てになっています。別の患者さんに使い回しすることはありません。はりを初めてお受けになった感触はいかがですか?
「思ったほど痛くないなあ。むしろ気持ちええぞ。それに目の見え方が今まですりガラス越しみたいであったのが、透明ガラス越しになった感じじゃのう。」
 刺したはりの上にもぐさを載せて、やいとをしてみます。灸頭鍼といいます。
「こんなに気持ちが良くてよく効くとは思わなんだ。ありがとう、ありがとう。」
いいえ、お大事にね。あ、おじいちゃん、メガネを忘れてかえっちゃったよ。あわてもののおじいちゃんだね。ん?待てよ、治療代もらい忘れちゃったい!

***

 はい、次の方どうぞ。(赤ん坊の人形、大声で泣く)これは元気な赤ちゃん、というか、…ちょっと泣きすぎ。疳(かん)の虫、出てますよ。大丈夫です、むしきりしましょう。むしきりっていうのは特別の道具を使ってこどもの皮膚を優しく刺激することで自律神経を調える治療。正式には小児鍼といいます。  
 小児科のお医者様にお尋ねしたことがあります。疳の虫は西洋医学ではどのように治療するのですか、と。小児科学では「疳の虫」という用語はなく、特定の治療も処方薬もない、とのことでした。親のカウンセリングをおこなったりするのだそうです。たしかに幼い子どもの症状に親の精神状態が影響していることはおおいにありえますから、その方法は間違っていないと思います。でも私ども東洋医学が具体的な手だてとして小児鍼という治療法を持っていることは嬉しいことです。しかも、これは中国から来た方法ではなく国産、それも関西地方で発達した治療法で、中国に逆輸入されて喜ばれているとのことです。
“(おもちゃのチャチャチャの節で)わたしは夜泣きがとまらない ボクは弟にかみついた それはたいへん疳の虫 むしきりしましょうチッチッチ おててにチッチッチ あんよにチッチッチ くび肩背中もチッチッチ(歌いながら治療)”
ハイ、とってもご機嫌が良くなりました! ではお次の方、いらっしゃ〜い!

 ***

 はい、かわいいおじょうさん、いたってお元気そうですがどうしましたか?
「美人になりたいんです、八頭身で小顔の。あと、もっとやせたいんですけど。」
うーん、どれもかなりムリなご依頼ですが、ま、順に解決しましょう。はりは美容整形ではありませんので顔の造作を変えることはできません。おっと、ガッカリするのはまだ早いです、血液循環を良くしてむくみをとり、お肌の張りを改善して小顔の健康美人にすることはできますよ。
 ところで「トイレの神様」っていう歌が一世を風靡しましたよね。それについてクエスチョンです。なぜトイレをピカピカにしたら女神様みたいにべっぴんさんになれるのでしょう? 私なりの解答を申し上げましょう。それは「排泄が大切」ということ。大小便が滞ると老廃物が体内に蓄積して老化を早め、内臓の病気の引き金になるほか、美容上もよくありません。肌荒れのひどい患者さんが便秘持ちである、ということはよくあること。ぜひ食事と運動に気を付けて、それにトイレの掃除も心がけて、ピッカピカの美人になって下さい。
 もう一つ、ダイエットのご相談ですが、耳のはりで痩せる方法があります。実は耳は全身の縮図で、耳たぶが頭、外の輪郭が背骨、耳の穴の周りに内臓のツボが上下逆さまに並んでいます。耳の穴のスグ横あたりに胃のツボがあり、そこに小さなはりをはりつけると食欲を抑制してやせられますよ。お腹が空いてついつい食べ過ぎるタイプの人にはぜひ試して頂きたいです。
 今日もたくさんの患者さんにお越し頂きましたね。次はあなたの番ですよ。迷わずに、いらっしゃ〜い!

〔印堂(いんどう)〕正規のツボではないが確かな効き目のある奇穴の一つ。
取穴:眉間、つまり両眉の間。指でおす、またはもむように刺激する。
治効:小児のひきつけに効く。「ひきつけ」とは体全体が硬くこわばったり、もしくは小刻みにふるえたりする症状で、多くは熱性痙攣(けいれん)であるとされます。3分以内に治まることが大半だそうですから、落ち着いて時間を計りながら、印堂のツボを刺激してあげてください。それでもひきつけが続く場合には医師の手当てを受けましょう。あわてないことがなにより大切です。
《作者から一言》毎年3月の第1日曜日の午後、一般県民を対象に催している「健康セミナー」も今回が10回目。落語・腹話術・歌を交えて健康とはり灸マッサージのお話をしました。その腹話術の部が今回の作品です。(宮本)



上は印堂の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

[前のページへ] [次のページへ] [メニューへ戻る]
[トップへ戻る]


社団法人 和歌山県鍼灸マッサージ師会
 〒640-8341  和歌山市黒田97−14
 電話  073-475-7771  FAX   073-474-2241

 メールはこちらまで  info@washinshi.com