漢方つぼ物語(141)
中渚(ちゅうしょ)

〈 盲学校理療科3年生へ 〉

 さあ、経営学の学習を始めましょう。その前に、皆さんに質問したいことがあります。「毎日、楽しいですか?」「充実した生活を送っていますか?」と。
来春の国家試験の準備で忙しい?時間が2倍欲しい?それではその「やる気」をキープできるように、あるビジネスマンの体験談に耳を傾けてみましょう。

           ***

 学校を卒業して、ちょっとばかり名の知られた企業に入社した。得意満面、意気揚々。両親が仕立ててくれたスーツに身を包み、ネクタイをきゅっと締めて、フレッシュマンの出勤だ! さっそく勤務部署が発表された。同じ新入社員といっしょに、本社社屋の横っちょの掘っ立て小屋に連れて行かれた。そこにはシュレッダーが2台。そう、ここが僕らの仕事場。日がな一日、本社のいろんな部署から運ばれてくる廃棄書類を受け取り、シュレッダーで裁断して、近くにある田んぼの脇の原っぱで焼却する。単調で非生産的な仕事だ。おふくろに、「どう、仕事は? やりがいのある仕事かい?」って尋ねられたけど、答えようがなかったよ。「ま、そこそこやりでのある仕事だよ!」って言うしかなかったね。だって、廃棄書類の量は、なかなかのものだったからね。
 そんなある日のこと、いつものようにシュレッダーで裁断した書類を焼いていたら、田んぼで働いていたおばさんが、僕らに向かってこう言ったものだ。
「あんたたち、いいかげんにおしよ。いい若いモンが、いかにも面白なさそうに! そんなに毎日、イヤイヤ仕事をするんだったら、もうここにはこないで、どっかよそでやっとくれよ。こっちまでイヤんなっちゃうよ、ほんとにもう!」
 おれら、よっぽどイヤイヤ仕事しているように見えてたんだなあ。そうかあ、そこまで言われたら、かえって踏ん切りが付いたぜ。そうとも、これからは思いっきり楽しくやろうじゃないか。「ここが最高の仕事場です!」って感じで。
 その日を境に、僕ら二人は変わった。まずは廃棄書類の受け取り。元気に明るく、「ありがとうございまーす!」「またお願いしまーす!」…相手は面食らって、気味悪がっていたけど、とにかく楽しくやらなきゃ。それから、もっとすばやく裁断できないかと工夫をこらした。シュレッダーにボックスを取り付けるとずいぶん効率が良くなった。目詰まりを防ぐよう細工も施した。こうなったら毎日が楽しいずくめ、田んぼで働いているおばさんももう「どっかよそでやっとくれよ」とは言わない。にこにこしながら僕らを横目でながめている。
 そんな風に楽しくやっていると、4,5日で周囲が変わってきた。
「これ、うちの部署でもらったお菓子のおすそわけ。遠慮なく食べて。」
到来物が増えてきた。それだけじゃない、次第にここが社員の溜まり場になってきた。廃棄書類を運んできたついでに、悩み事相談や情報提供する社員が続々。
 そんなある日のこと、年配の重厚な紳士がやってきた。僕らはいつもの調子でとびっきり明るく出迎えた。
「いらっしゃいませ。シュレッダー室へようこそ!」
すると、重厚な紳士は僕らを頭のてっぺんから足の先まで眺め回して言った。
「君たちだな…社内で評判になっている。底抜けに明るいシュレッダー係と。」
その紳士は本社の役員だった。そして…僕ら二人はまもなく部署換えになった。新入社員で一番早く、本社勤務となったのだった。

          ***

 どうだろう。このエピソードで重要なことは、仕事というものは、それに向かう姿勢ひとつで大きくその意味が変化する、ということではないだろうか。やりがいのない仕事ととらえていたときは、意味を見いだせなかった仕事が、意欲を持って立ち向かったとき、周囲とのつながりや生産性を生み出してきた。
 「経営の神様」といわれたパナソニックの創業者・松下幸之助氏は、最新式のオートメーション・システムを立ち上げたおりに、ラインで働く従業員に、こんな声掛けをしたという。
「今、あなたが組み立てている電球の下で家族がくつろいで、一日あったことを話し合う。また、この明かりの下で内職仕事をする。この電球一つひとつが家族の温かい結びつきを作り、また生活を支える収入を稼ぎ出していくんだ。あなたは、この電球を作ることで、世の中に大きな貢献をしているんだよ。」
 さて、私も松下幸之助翁をまねて、みなさんにこう申し上げたい。
 みなさんが学んでいる東洋医学は二千年の昔から、私たちのからだを動かしている生命エネルギーを宇宙のエネルギーと関連づけ、私たち一人ひとりが、それぞれの生命を輝かせるための具体的な方法を示している。鍼灸マッサージという仕事を通じて私たちは、単に患者さん方を健康にするだけにとどまらず、宇宙の調和を実現しようとしているのだ。しっかりと学んで参りましょう!

〔中渚(ちゅうしょ)〕手の陽側(手の甲側)中央を通る三焦経の3番目のツボ。
取穴:手を握ったとき手の甲で薬指付け根グリグリの少し手首寄りの小指寄り。
 治効:めまい・吐き気・頭痛を吹き飛ばし全身の健康状態をアップするツボ。
《作者から一言》女子大を出て吉本興業入社、横山やすしのマネージャーを務めた経験のある大谷由里子さんの講演を参考にしました。学びや働きの意義を自覚して「中渚」のツボで意欲とモチベーションを保ちましょう!(宮本)



上は中渚の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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