漢方つぼ物語(142)
長強(ちょうきょう)

〈 無免許対策委員失職 〉

 夕刊第1面の広告に目がとまった。ピンクとベージュの2色刷、ママと赤ちゃんのイラストが可愛い。それは赤ん坊のいる母親に「ベビーマッサージ」を教える「ライセンス」を取得できる学校への入学を募る広告だった。
 (これは放置できないな)と私はつぶやいた。そして広告に示された番号にダイヤルした。
「もしもし、今日の新聞広告を見て電話しました。そちらの学校について2,3お伺いしたいことがあります。まず第一点は、マッサージが国家免許を必要とする行為であることを認識しておられるかどうか。第二点はおたくの出される資格は、その国家免許を要する行為を人に教えるものであると理解してよいかどうか。さらに、そちらの教授陣はどのような免許をお持ちの方々なのか。申し遅れましたが、私は鍼灸マッサージの全国団体である公益法人全日本鍼灸マッサージ師会の法制局無免許対策委員の宮本年起と申す者です。」
 相手は「私ではお答え致しかねます。のちほど責任者からお電話申します。」と応対した。翌日、年配の女性から電話があったので、同様の内容を伝えた。女性は、さらに上司の判断を仰ぐのでしばらく猶予を頂きたい、と言った。
 私は一連のやり取りを同僚委員のM氏に、とりあえずの報告をした。M氏はそれについて了解した上で、明日、先般の総会で選出された新理事による初会合があることを教えてくれた。その理事会で法制局の新メンバーが確定する。
 翌日、私は会議の終了時間を見計らって、こちらからM氏に連絡を取った。そして、私が今期の法制局の委員から除外されたことを知った。無免許対策の問い合わせ先からの回答を待つ間に、私はその根拠となる役職を失ったのだ!

          ***

 全国団体の副会長で当時、和歌山県の師会長であったH氏から、この役職の就任について打診のメールを頂戴したのは4年前の6月初旬だった。そして、翌日、会長のS氏より正式の依頼があった。私は「喜んで」と受諾した。無報酬のこの役職に私なりのやりがいを感じたからだ。大学で学んだ法律学の知識を幾分か役立てるかもしれない。また、盲学校の理療科で鍼灸マッサージ師の国家資格を取得すべく学んでいる教え子たちの姿もまぶたに浮かんだ。視覚のハンディキャップにめげずに活路を開こうとしている人々のためにも、安易な無免許行為を断じて許すわけにはいかないとの義憤が私を後押ししていた。
 以来4年間の無免許対策委員としての活動が、走馬燈の如く脳裏に去来する。
 年数回の会議は木曜日の午後、東京で開催されることが多かった。この日は盲学校非常勤講師として経営学と経穴学を講じる日だが、業界と学校とのつなぎ役を自認する私は、究極的に盲学校の生徒たちの将来の業権を守ることにもつながると判断して、公務より法制局の会議を優先した。早朝に家を出発し、行きの新幹線で資料に目を通し、帰りの車内で議事録をまとめた。
 昨年から「東洋療法推進大会」と改称された全国の会員大会の法制局担当の分科会。いつもエネルギッシュで骨身を惜しまないM委員を補佐して事前準備と会場設営にあたり、分科会当日は進行役を、時にフロアーから叱咤されつつも懸命につとめた。
 対策委員としての活動で、とりわけ忘れがたい最近の出来事が二つある。
 まず一つは昨年7月8日午前10時、「厚生労働省デビュー」を果たしたこと。すなわち霞ヶ関に赴いて、鍼灸マッサージの無免許対策について厚生労働省医政局医事課課長補佐との協議の場に、法制局のメンバーの1人として同席したこと。想像以上に免許制度の意義や業界の立場を理解してもらえていることに驚いた。業界諸団体が結束して粘り強い活動を積み重ねてきた成果であろう。
 そして、もう一つは今年の2月17日午後1時、タウンページ広告の掲載について、施術所の開設届を提出している免許者と国家免許を保有しない無免許業者を峻別して頂くべく、同僚M委員と二人して参議院議員会館を訪れたこと。和歌山県選出の有力参議院議員・世耕弘成氏の仲介で、NTT本社およびタウンページを担当するNTT番号情報株式会社の幹部諸氏と協議の端緒を開いた。その条件は、業界諸団体(7団体)がタウンページ掲載業者の開設届の有無をチェックし、それに基づいて分離掲載をする、との覚書を交わすというもの。かなりハードルの高い内容であるが、無免許者のあぶり出しには圧倒的な効果がある。今後、この協議は法制局の新しいメンバーによってどのように進められていくのだろうか。
 ところでこの日、議員会館の入口で枝野官房長官に、帰りに、やわらちゃんこと谷亮子議員にバッタリ出会ったのも今となっては懐かしい想い出だ。
 私の無免許対策委員としての日々は終わりを告げた。今後は一会員として見守っていこう。そう、「1人1人が対策委員」との法制局のスローガンを胸に。

〔長強(ちょうきょう)〕背中側の中心線(正中線)を上に向かう督脈の第1穴。
取穴:背骨の最も下に尾てい骨がある。その下の端と肛門との中間点のツボ。
治効:腰痛や腸の病気に用いられる。百会(ひゃくえ)と併せて痔の治療にも。
《作者から一言》新版の経穴学の教科書で一番に学ぶツボ。何かことあるごとに「自分は何のために治療師になったのか」を問い直すツボとしたい。(宮本)



上は長強の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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