漢方つぼ物語(144)
風府(ふうふ)

〈 石とタイヤのモチベーション 〉

 深まる秋の宵に、奉仕と博愛の殿堂・和歌山城南ロータリークラブの皆様と夕食を共にさせて頂き、無粋でつたない卓話に耳を傾けて頂く光栄に浴しますことを心から感謝申し上げます。まことにありがとうございます。
 この夏、福島県郡山市から小学5・6年生97名が4泊5日で和歌山を訪れました。放射線を気にせず思いきり太陽の光を浴びてもらおうと市と市の教育委員会が招待したのです。2日目の晩、私は趣味の腹話術とマジックを披露すべく子供達のお宿にお邪魔しました。「お城にのぼった!」というので「会津の鶴ヶ城とどっちが大きい?」と尋ねますと「和歌山城の方が大きい」と答える。そのあと「鶴ヶ城は行ったことないけど…」というのには笑ってしまいました。
 その鶴ヶ城の石垣に有名な巨石がはめ込まれています。重さ2t、縦横6×8m。城から1km離れたところにあったものを、人力で運んだのだそうです。力自慢の男たちが石をすきまなく取り囲み持ち上げようとしたが、石はびくとも動かない。この時代、これだけの大きさ・重さの物を運搬する機械・器具はなく、さりとてこの辺りは地面がごつごつしていて、コロを用いることもできない。それでは一体、どうやって運んだのか? これが今宵のクイズの第1問です。
 ヒントは石の名前。「遊女石」と呼ばれています。解答を申し上げましょう。会津一の人気の遊女を呼んで石の上に立たせ、男たちを煽動したというのです。すると、あら不思議。石はたちまち持ち上がり、1kmの距離をあっという間に城まで運ばれた、と記録が残っているのだそうです。女性にこの話を致しますと「そんなの嘘に決まっている。ありえない!」と断言します。でも私を含めて男性諸氏は(うーん、それは案外「あり」かも)と思ってしまいませんか?

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 以上が「石のモチベーション」です。このエピソードについての評価は皆様にお任せします。女性にいいところを見せたいという男の心理を巧みに利用した、と見るもよし、「火事場の馬鹿力」の一種、との見方もあるでしょう。
 ところで、「やる気」をテーマにした話は、とかく精神論に陥りやすい傾向があるのではないでしょうか。これからご紹介するのは、「気の持ちよう」ではなく、物理学が証明する「困難の中で前進する原動力」の実例です。私はテレビのクイズ番組でその映像を見ました。今、人気のある武田邦彦教授の出題です。トラックをその前面につけたロープを引っ張ることによって5m前方に移動させよ、との問題です。普通に引っ張ったのではトラックは動きません。用いてよいのはタイヤ(ゴムの部分のみ)。ある場所にタイヤを置くことで、トラックをグイグイと 5m 引っ張ることが出来る。さあ、どこへタイヤを置きますか?

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 タイヤに関するクェスチョンに考えを巡らして頂きつつ、タイヤにまつわるもう一つのエピソードをお聴き頂きましょう。
 それは昭和29年に本田技研工業がマン島のレースに初挑戦したときのお話です。6位入賞を果たしたものの、欧米との技術の隔たりを実感することになります。それはプラグ・チェーン・タイヤといった部品レベルで、既に大きな差を付けられていました。ピットで拾ったネジがプラスネジであったことにも驚いたといいます。当時、日本にはまだ「マイナスネジ」しかなかったのです。
 「一からやり直そう。まずはなるたけたくさん部品を持ち帰って研究だ!」
 トランクに詰めるだけ詰め、手荷物も飛行機に持ち込める制限一杯に持ちましたが、タイヤだけどうしても詰め込むことができません。結局どうしたか?タイヤをハワイのレイのようにくびにかけたのです。人目構わず世にも珍妙な格好でタラップをのぼる姿こそ、「世界のホンダ」の記念すべき第一歩でした。
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 たったいま紹介したホンダのエピソードこそが、先ほどのクイズの答えなのです。そう、「くびにかける」が正解! 実際にタイヤをくびにかけてロープを引っ張りますと、先ほどはピクリともしなかったトラックが動き出したのです。スタジオは騒然となりました。武田教授の解説はこうです。タイヤの重みだけ足を踏ん張れ、足を踏ん張った分だけ前に進める、と。百聞は一見にしかず、現実に目の前で証拠を見せられては認めるしかありません。タイヤをくびにぶら下げてトラックをグイグイひっぱる姿は、今も私の脳裏に焼き付いています。 
 重い職責や大きなノルマも、それに押しつぶされさえしなければ、足を踏ん張り、力強く前進する原動力となることを、その姿は教えてくれます。
 「重くのしかかるものこそが前へ進む力を与えてくれる」という物理の法則を味方につけて、この困難な時代を、互いに手と手を携えて乗り越えていこうではありませんか!
《2011年10月27日和歌山城南ロータリークラブ例会にて》

〔風府(ふうふ)〕背中の真ん中を上り頭頂から上歯茎に下る督脈の第16穴。
取穴:後ろ髪の生え際中央を撫で上げて指の止まる、後頭部出っ張りの直下。
治効:後頭部から首すじの痛みを和らげる。重いタイヤをかけても大丈夫!
《作者から一言》「スピーチで皆さんに喜んで頂く最大のコツを教わりました。それは『時間内にキッチリ終わる』こと。もっと喜ばせるには…『5分前に終わること』だそうです。」―このツカミで会場は和んだ。大成功!(宮本)





上は城南RCでスピーチ/風府の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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