漢方つぼ物語(151)
臑兪(じゅゆ)

〈 激動の時代に守られるべき人権 〉

 戦前・戦中が激動の時代であったことは論を待ちません。生命そのものが危険にさらされ、国防のために個人が犠牲となった時代でした。戦後もまた復興と経済成長の掛け声の中で、生存に関わる権利が十分に尊重されなかった時代といわなければなりません。公害が環境を破壊し健康をむしばみました。経済弱者やハンディキャップのある人たちの生きる権利は、後回しにされました。
 ひるがえって現代はどうでしょう。科学技術は長足の進歩を遂げましたが、幸福をもたらすはずの技術は人間生活に牙を剥く危険をはらんでいます。成熟したはずの経済は世界的なほころびを露呈し、国際関係は一触即発の緊張が続いています。国や政府が未来に向けて明確なリーダーシップを示せないでいる一方で、巨大化したマスコミやインターネットによるコミュニケーションは、熱狂の中で思いもかけない場所に、われわれを連れて行かないとも限りません。

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 ここでいくつかの言葉を味わってみたいと思います。
 「幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭は様々に不幸である。」
 これは文豪トルストイが、その著書「アンナ・カレーニナ」の冒頭においた一節です。「不幸な家庭」の態様は確かに様々ですが、価値観の多様化した現代においては、「幸福な家庭」の態様さえ様々と言うべきではないでしょうか。
 次に味わうのはこの言葉。「21世紀はボランティアの時代となるだろう。」
 経営学者ドラッカーの“予言”です。政治や行政は国民に対し公平に処するべき制約を負う。ニーズの多岐にわたる時代にそれを満たすのはボランティアしかない、というわけです。行政のリーダーたる皆さんに「なるほど」と納得してもらっては困ります。ここはぜひとも「これからの時代の行政は、住民のニーズにきめ細かに応えていく必要がある」と読みかえて頂きたく存じます。
 もう一つ、「民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず。」という言葉。
 愚かな大衆に情報の提供など無用、とにかく従わせればよい。そんな乱暴な解釈をしてはいけません。これは約2千5百年前、時の為政者から統治の本髄を問われて、孔子が応えた言葉です。その真義は「民の一人一人にすべてを知らせて理解を求めるのは不可能。強い信頼により民を導くことが肝要である。」
 後段はその通りですが前段は「あらゆる手段を用いて情報提供に努めることが大切」というのが、インターネットの時代の行政のあり方であると考えます。

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 さて突然ですが、ここで皆さんに気分転換をして頂きます。ご起立下さい。
 童心にかえって左右の方と手をつないで頂きましょう。はじの方も左右共、手をつないでいると思って、今から私の出す指示の通りに身体を動かして頂きたく存じます。よろしいですか? では先ず、顔を上にあげて頂きましょう。そうです、上を向いてください。「涙がこぼれないように」って歌がありましたよね。はい、結構です。正面を向いて。今度はうつむいて下さい。何かいいもの落ちてないかしら。はい、元に戻して。ここから段々、難しくなりますよ。
 次は右足を上げてもらいましょう。右足だけですよ。なぜかというと、両足を上げるとひっくりかえりますからね。片脚を上げるとふらついて危ない方も今日は大丈夫です! 左右の人に手を握って支えてもらっていますからね。はい、右足を降ろして下さい。今度は左足を上げて。よろしいです、左足を降ろして下さい。次に参ります。右手を挙げて下さい!
 はい、ありがとうございました。どうぞお座り下さい。いかがでしたか? 実を申しますと、今やって頂いたワークは、「どれくらい周りの人を思いやれるか」を判定するテストだったのです。ポイントは「自分の左手は左隣の人の右手と結んでいる」ということです。「右手を挙げて」と言われたとき、むりやり右隣の人の左手と一緒に、自分の右手を高々と挙げて、左の人が挙げようとする右手を、力ずくで押しとどめようとした人はおられませんか? もし、そんな方がいたら、自分のことだけしか考えていないか、それとも、よほど頭のお悪い方です。ずいぶん厳しいことを申しました。白状致しますと、このテストを初めて受けたときの私がそうでした。偉そうに人権を語りながら、わが身しか眼中にない自分の正体に唖然とし、しばらく落ち込みました。
 逆に、自分の右手を挙げることはさておき、左隣の人のためにサッと左手を挙げた方がおられたら、今すぐ講師の席を交代致しますので、お申し出下さい。
 人権の基本は「わが身を知る」こと、そこから人権社会を築くエネルギーと情熱がおのずと湧き出てくるのではないでしょうか。
〈2012年2月20日 和歌山県有田地方県・市・町幹部職員人権研修会にて講演〉

〔臑兪(じゅゆ)〕小指の先から出て肩周辺に多くのツボのある小腸経第10穴。
取穴:脇の下のシワの後ろ側上方で、肩甲骨上部の出っ張り(肩甲棘)の真下。
治効:サッと手を挙げるには健全な肩関節も必要。五十肩に効くのがこのツボ。

《作者から一言》今回の講演は、有田郡湯浅町の有田振興局(有田市・有田郡を統括する役所)の大会議室で実施させて頂きました。(宮本)



上は臑兪の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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