漢方つぼ物語(156)
安眠(あんみん)

〈 こころの安全パトロール 〉

 術者が人形を抱いて登場する。
太郎:みなさん、こんにちはっ!
術者:太郎君はいつも元気やなあ。
太郎:うん、元気がとりえの太郎君や。
術者:ええなあ、僕はちょいユーウツ。
太郎:どないしたん?
術者:人形と違って人間は苦労が多い。
太郎:いくつか質問していい?
術者:はい、なんでもどうぞ。
太郎:気分が沈んだり、落ち込んだりしますか?
術者:はい、しています。
太郎:考えがまとまらないとか、意欲が湧かないってことがありますか?
術者:このごろよくあります。
太郎:食欲はどうですか?
術者:このところ空腹感がないなあ。
太郎:夜はぐっすり眠れますか?
術者:寝付きが悪かったり、朝、とんでもなく早く目が覚めたりします。
太郎:一度心療内科かメンタルクリニックみたいな処に行くといいですよ。
術者:太郎君、カウンセラーっぽい!
太郎:太郎ね、「こころの安全パトロール隊」の隊員になったよ。
術者:ええっ、太郎君、パトカーに乗っているの?
太郎:ちがう、ちがう。こころの病気を早期発見するボランティア!
術者:そういえば、14年連続で自殺者が3万人を超えているらしいね。
太郎:こころの病気が大きな原因です。
術者:そんなに増えているの?
太郎:泡がはじけて以来…
術者:それもいうならバブルでしょ。
太郎:そうそう、それがはじけてリストラされる人が増えた。
術者:仕事の場と収入と、そして人間関係をいっぺんに失ってしまう。
太郎:協調性ある「いい人」にとって、そうした喪失はうつの引き金になる。
術者:喪失がうつを呼ぶのはリストラ以外に、どんな場合があるの?
太郎:愛する人を亡くした。かけがえのない大切な人を失った。それが典型。
術者:その喪失は、なにを以てしても決して埋めることはできませんよね。
太郎:「一周忌」という区切りがあります。
術者:人が亡くなった一年後の命日ですね。
太郎:伴侶を亡くした人が、そのあと1年以内に、大きく体調を崩したり、命を落としたりする例が非常に多い。
術者:どうしたらいいですか?
太郎:手紙でも電話でも、電子メールでもいいです、声をかけて上げてほしい。
術者:はい、どう声をかけたらいいでしょう?
太郎:私にできることがあったら、言ってね。あなたは一人じゃないよ!
術者:大事な人を亡くすと、ひとりぽっちになった、と思ってしまうから?
太郎:その通り。一周忌を過ぎるまでは、孤独じゃないことを伝えてほしい。
術者:うつを招く喪失感、リストラされる、大切な人を見送る、ほかには?
太郎:一見、幸せな「喪失」もある。
術者:幸せなソーシツ?
太郎:子どもが成長して巣立っていく。
術者:子育てにすべてを捧げて、気がつくと自分にはなにも残っていない。
太郎:これを「空の巣症候群」という。
術者:わが子が独立していくことは嬉しいのに、一面、耐え難い寂しさ。
太郎:また、借家住まいを卒業して、ようやくわが家を手に入れた。
術者:まさに念願のマイホーム!え?まさか、それがなんで喪失?
太郎:人間関係や住まいの環境がすっかり変わる。
術者:そうか、それもまた一種の喪失。
太郎:これを称して「引っ越しうつ」。
術者:引っ越し先で隣人とのトラブルなどがあると、誘発しそうですね。
太郎:大好きな人とついにゴールイン。
術者:それは文句なしに幸せでしょう。
太郎:愛する人以外は誰も知らない土地での生活。夫は仕事が忙しく家に居る時間はつかの間。
術者:これまた生活環境が一変して、確かにある種の「喪失」に違いない。
太郎:以上が、リストラに代表される、「いい人」がうつになる引き金としての喪失の例。
術者:リストラをまぬかれて職場に残った人たちも楽じゃないですよね。
太郎:10人でやってた仕事を5,6人でこなさなくてはならなくなる。
術者:課せられた仕事をそつなくこなす「誠実な人」がうつになるのは…。
太郎:加重労働が引き金となります。
術者:リストラされた人の分まで穴埋めすべく頑張りすぎて壊れてしまう。
太郎:去るも地獄、残るも地獄。
術者:このようにして、バブルがはじけたあと、うつ病が急増、自殺者も増えていったわけですね。
太郎:でも望みはあります。
術者:ぜひ、それを聴かせて下さい。
太郎:うつ病の薬は、副作用の少ない入眠剤をはじめ、よい薬が開発されています!
術者:ぜひ専門医に受診をお勧めします。
太郎:あなたは決して一人じゃない。
術者:どうか頑張り過ぎないで下さい。

〔安眠(あんみん)〕十四経所属の正規のツボではないがよく効くツボの一つ。
取穴:耳たぶの後ろの、下に尖った骨「側頭骨乳様突起」の下方1寸にある。
治効:頸のこりを緩め安眠を促す。不眠に発することの多いうつ病の予防に。

《作者から一言》腹話術を依頼され参加した催しで心理療法士の先生と出会い「こころの安全パトロール隊員養成講座」を知る。即、受講しました。(宮本)



上は安眠の図/講師の保坂隆先生

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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