漢方つぼ物語(160)
八風(はっぷう)

〈 白浜アドベンチャーワールドのイルカショー 〉

 昼間は父から引き継いだ治療院で主に鍼灸の治療にいそしみ、そして夜は、お城の見えるホテルで、宿泊客の依頼に応えてマッサージを施している。平成24年7月上旬の夜、フロントからの電話でホテルに赴き、指定された部屋にお邪魔すると、4,5歳の元気な坊やが出迎えてくれた。40代半ばのご夫婦が、息子さんと3人で、東京から骨休めの家族旅行に来られたようだ。ご主人にマッサージをさせて頂いていると、傍らで眺めていた奥様もマッサージをご所望になり、結局お二人に施術しながら、親しく会話を交わすことが出来た。

 ***

 「今日、白浜アドベンチャーワールドに行って来たのです。イルカのショーが素晴らしかった。私たちはイルカショーを見るのが大好きで、全国あちこちのショーを見ましたが、アドベンチャーワールドのイルカショーほど、観客とイルカと調教師たちの一体感のあるショーは、他のどこにもないと思います。」
 激賞、ベタほめである。和歌山に生まれ育った私、アドベンチャーワールドは一度ならず行っている。しかし東京からのお客様に、そこまでのおほめにあずかると、これはもう一度その素晴らしさを、この目で確かめに行かねばならぬ、と心に強く思ったものだ。
 それにしてもこのご夫婦、ただならぬ人当たりの良さだ。いったいどんなお仕事をなさっているのか、にわかに興味が湧いた。おききして得心がいった。ご主人はお父様と力を合わせて、葬祭業を営まれているのだ。
 「ごく近い身内だけですませる家族葬が増え、そうでなくてもお香典を辞退する葬儀がほとんどとなっています。その果てには、葬式なんてもはや不要、という時代が透けて見えるのです。私どもは日々の仕事の中で、ああ、やはりお葬式は、人生の区切りとして必要なものだ、しみじみといいものだ、と感じてもらえるように、工夫や心遣いを怠るまい、と自らを戒めているのですよ。」
 奥様の結婚前のお仕事を伺ってさらに驚いた。東京ディズニーランドでダンサーとして活躍しておられたとか。その後、結婚式の司会業もなさったという。スラリとした体型、こぼれるような笑顔、滑舌の良い話しぶり、納得である。

 ***

 接客のプロフェッショナルであるこのご夫妻は、もう一つ、和歌山について絶賛して下さった。それは今日、夕食をとった居酒屋の応対についてだ。
 「料理の美味しさもさることながら、こどもの相手までして頂いて、とてもうちとけた雰囲気ですっかりくつろげました。和歌山の人は、本当に優しくてあったかい。とてもいい思い出が出来ました。きっとまた来ます!」

 ***

 その半月後、思いを成し遂げるチャンスはやってきた。平日ながら、お昼前から夕方まで、仕事を空けることが出来たのだ。「この暑い中」と渋る妻を説得して、長女と3人で高速道路を南下、白浜アドベンチャーワールドに到着した。順路に従って、まずはアシカのショーを鑑賞(これもなかなかのものだった)、次いで本命のイルカショーの会場に陣取った。大きな水槽の正面に巨大な液晶画面。ショーの開幕を待つ間、観客の姿をうつしている。うつされている本人が気付いてないのが愉快だ。年配のカップルをアップにした画像のまわりに、ハートマークをいっぱいあしらった遊び心満点の画面に会場、大爆笑。
 やがてショーがスタートする。美しい音楽に合わせて十数頭のイルカが難易度の高い技を次々と見せて観客を魅了する。立ち上がって水上を歩くような技には感心した。この間もカメラはベストアングルの映像を液晶画面に映し出す。男女10名近い調教師はいずれもイケメン・美女揃いで笑顔を絶やさない。

 ***

 しかし、さらなる感動はショーが終わった後に用意されているのだ。20分のショーのフィナーレ後、こんなアナウンスが流れる。
 「お子さまたち、イルカと一緒に遊びませんか? よかったら水槽の近くに集まって下さい。ただし、携帯電話やカメラは席に置いてきてね!」
 私も娘と水槽の近くに向かったのだが、危うく水浸しになるところだった。いたずら好きのイルカたちが水槽の外へ水しぶきを何度も何度もかけるのだ。こどもたちはびしょ濡れになりながらも、大喜びだ。
 そのあと、人なつっこいイルカたちが水槽の間際まで近づいてきて、愛嬌をふりまく。まるで話しかけるように口を動かしている。一人の女の子がイルカに手を伸ばしたタイミングで、私はシャッターを切った。これは「奇跡の一枚」となった。ガラス越しに、イルカと女の子が握手をしている!

 ***

 和歌山の魅力を発信するコラムを、思い入れを込めて書き上げ、「奇跡の一枚」を添えた。それが掲載された7月29日付け「和歌山新報」紙面に、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」発表の「行ってよかった動物園&水族館ランキング2012」において、それまで2年連続で1位に選ばれていた北海道の旭山動物園を抑えて、白浜町のアドベンチャーワールドが見事1位に躍り出た、との記事も載っていた。
 きっかけを与えてくれた東京のご夫婦に、私のコラム記事を読んで頂きたくて連絡を取った。電話の向こう側で、ご主人の聞き覚えのある声がした。
 「先生にマッサージして頂いたお陰で、元気で東京に帰ることが出来ました。和歌山に行ったおりには、ぜひまた宜しく!」

〔八風(はっぷう)〕正規のツボでないがよく効く奇穴。足の各指付け根の間。
取穴:足の左右5本の指の付け根の関節(中足指節関節という)の間に取る。
 治効:イルカのいたずらで冷やしてしまった体を温める効果。足の痛みにも。



上は八風の図/和歌山新報コラム

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

[前のページへ] [次のページへ] [メニューへ戻る]
[トップへ戻る]


社団法人 和歌山県鍼灸マッサージ師会
 〒640-8341  和歌山市黒田97−14
 電話  073-475-7771  FAX   073-474-2241

 メールはこちらまで  info@washinshi.com