漢方つぼ物語(167)
天ゆう(てんゆう)

〈 和歌山盲学校理療科 経営学授業その2「船井式長所進展法」 〉

 前回の授業で、和歌山市の加太出身の舩井一夫さんのサクセスストーリーを紹介した。今回はもう一人のフナイさんのお話をしたい。その人の名前は船井幸雄(ふない・ゆきお)さん。経営コンサルタントで船井総合研究所の創始者だ。船井さんは当初、スーパーマーケットの経営コンサルタントとして頭角を現した。「船井さんにアドバイスしてもらうと売上げが倍増する、いや3倍になる」と評判を呼んだ。そのうち講演の依頼も頻繁に舞い込むようになった。
 船井さんの売上げ増加戦略は、比較的売上げの劣るものに力を入れることで全体の売り上げを上げていくやり方だった。得意の絶頂にあった船井さんは、その日も、「こうすれば売上げは3倍になる!」というタイトルで商店主を相手に講演をおこなっていた。船井さんの運命を変えるとんでもない事件が起こったのはその時だった。
 隠し持った刃渡り30センチの刺身包丁を振りかざした暴漢が、壇上の船井さんに襲いかかったのだ。すんでのところで警備員に取り押さえられて事なきを得たが、一つ間違えると命を落とすところだった。
 なぜ私が命を狙われなきゃならないのだ、と、船井さんは不思議に思った。政治家でも暴力団組長でもない私が、と。実は船井さんを殺そうと思った犯人は、親から引き継いだ食品コンビニを経営していた男だった。船井さんが経営アドバイスしたスーパーマーケットが急成長したために売上げが激減して廃業に追い込まれたのだ。船井さえいなければ、と、逆恨みしての犯行であったというわけだ。
 この事件を機に船井さんは経営アドバイスの方針を180度転換した。売上げの伸びない商品はそのままにしておいて、売れ筋の商品をさらに売上げアップするやり方を採用したのだ。これでも総売上げを2倍・3倍にすることは可能であった。そして、今までのように売れないものも売れるようにするのと、売れ筋をどんどんアップするのとでは、大きな違いが生じる。すべての商品の売上げをアップすると周辺の店は立ち行かないが、得意商品にとことん力を入れるやり方だと、他の店との共存共栄が成り立ち地域全体の経済活動が活気を帯びてくることに船井さんは気付いたのだ。
 船井さんはこの方法を「長所進展法」と名付けた。

     ***

 私は船井さんのことをラジオ番組で知ったのだが、ラジオ出演した船井さんが言った。
 「私が経営コンサルタントの仕事を通して編み出した長所進展法は人間形成にも活かせると確信しているのです。人間はだれでも『世界一の種』を持っている。その世界一の種を育て伸ばしてゆけば、間違いなく世界一の人間になれるのです。」
 すると船井さんのインタビューをしていたアナウンサーがこう返しました。
「せっかくのお言葉ですが、私は自分ではとても『世界一の種』を持っているようには思えません…。」
「いえいえ、そんなはずはありません。だれもがきっと世界一の種を持っているのです。ではお尋ねしますよ。あなたの好きなことは何ですか?」
「好きなことですか? 私、アナウンサーの仕事をしているだけに、こうしていろんな方とお会いしてお話を伺うことが大好きです。」
「わかりました。あなたの世界一の種は『人のお話を聞くこと』です。この種を大事に育てていくと、人のお話を聞くことに関してはだれにも引けを取らない、と自信が持てるようになります。それが私の言う世界一の種なのですよ。」

     ***

 さあ、みんなに尋ねる。あなたの世界一の種は何ですか?
 計画を立てて山登りをすること。音楽、ギターが得意。スポーツが大好き、とりわけ野球か。おう、パソコンが得意。車に詳しい。以前、建築・設計の仕事をしていたので工夫してものを作り上げることが大好き。え? ごはんをおいしく食べること? それもいい。だれよりも美味しそうにご飯を食べることができたら、それもまた世界一の種だ。自信を持っていい。
 こうして一人ひとりの得意なことイコール世界一の種を聞き取っていると、皆が一人残らず世界一に見えてきた。それぞれの世界一の種を、大きく育てていこうじゃないか!

〔天?(てんゆう)〕薬指から眉毛の外端に至る手の少陽三焦経23穴中第17穴。
取穴:顎の角(下顎角)の高さで、胸鎖乳突筋という頸の筋肉の後方に取る。
治効:首・肩のこり・痛みをやわらげ、頭痛・不眠を改善、全身を調整する。世界一の種を育てるには心身の柔軟さと粘り強さが必要。一説には一つのことで一流になるには、おおむね1万時間という時間をかけて打ち込むことが必要だという。毎日10時間なら3年、3時間しかかけられないなら10年以上かかる。「石の上にも3年」という言葉の根拠は、この辺にあるのかもしれない。
《作者から一言》私の世界一の種は何だろう? 毎月、月初めと月半ばに氏神様に「智慧の力で人を救える人間になりたい」と祈っているのですが。(宮本)



上は授業風景の写真と天ゆうの図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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