漢方つぼ物語(169)
肝 兪(かんゆ)

〈 「胎児に異常があります、産みますか?」 〉

[5年連続の「ケアマインド講義」]
 平成24年11月13日の午後、和歌山市三葛の和歌山県立医科大学三葛キャンパスにおいて、同大学医学部と保健看護学部の1年生、計180名を対象に、患者やその家族の立場を理解して頂くためのケアマインド教育特別講師として、ダウン症候群についてお話をさせて頂いた。 

[医科大生からの質問]
 前年同様、まず学生たちから質問を聞き取り、それらに答える形で講義を進めることにした。ダウン症に関する一般的な質問から。
Q.(女子学生から)ダウン症のお子さんを、お母さんはどんな気持ちで育てておられますか?
A.妻は最初、わが子がダウン症であることをなかなか受け入れることができない様子でした。主治医として現在も定期的に診て頂いている県医大附属病院染色体外来の月野隆一医師から紹介を受けて早期療育のプログラムに参加する中で、前向きに子育てに取り組むことができました。園子はすでに27歳になり、作業所に通う毎日です。妻も私も、この子を通じて大切なことを多く学んだ気がします。
Q.ダウン症の人と医療者とは、どのように関わるでしょうか?
A.妊娠中、たとえば高齢の出産である場合に胎児がダウン症ではないか、との不安を医療者に訴えるかもしれません。ダウン症の子の出産に医療者として立ち会われることもあるでしょう。出産後、治療や検診で接することもあると思います。ダウン症と向き合うそれぞれの場で、本人とその家族に希望を与えて頂ければありがたいです。
Q.ダウン症の人と一般の人との差異は?
A.ダウン症は比較的早くに分かることが多いのです。顔の特徴や哺乳力が弱いことは筋肉の収縮力の弱さと関係しています。平均的には知的・身体的に標準より下回っていますが、一人ひとり異なり、ずいぶん幅があります。
Q.芸術に秀でたダウン症者のことがマスコミで取り上げられることがありますが…
A.力強い書作品で人々に勇気と感動を与えている金澤翔子さんのほかにも、絵画や音楽などで才能を発揮しているダウン症者は多くいます。また4年制大学の英文科を卒業して翻訳の仕事をされている岩元 綾さんのような方もいます。就労しているダウン症者は多いと思います。それぞれ個性を備えた存在です。

出生前診断についての質問
Q.出生前診断により異常のある子供を産まない人が増えると、障害を受け入れない風潮が強くなるのでは?
A.障害は出生後の病気や怪我でも起こりえます。ハンディキャップのある人を安易に排除する世の中は、健常者にとっても住みよい社会ではないと思います。
Q.出生前診断は「あるべき」でしょうか?
A.あるべきかそうでないかに関わらず、その技術はどんどん進歩してゆくと思われます。先日、NHKテレビのドキュメントで、おなかの中のこどもがダウン症であると診断されたお父さんが、「生まれてきた子が障害を持っていた、というのは普通に理解できるけれど、『胎児に異常があります、産みますか?』と尋ねられることは、何か不思議な気がしました」とおっしゃっていました。これは出生前診断が決して自然なことではないということを意味していると考えます。

[最も核心的な質問]
 出生前診断についていくつかの質問に答えてきて、私に最も強く迫った質問がある。その質問は、「3年前にわが子を設けた」という男子学生から。
「お尋ねしたいのは、ダウン症の子を持つ親御さんは、ダウン症の子を産んでよかった、とお思いなのかどうか。また、ダウン症の方ご自身が、生まれてきてよかった、とお思いなのかどうか、ということです。」
 私はこの質問に圧倒された。なぜなら、この質問こそが、出生前診断以前の、問題の核心に関わるものだと思われたからだ。
 ダウン症の子を産んで、辛い苦しいばかりの子育てが待っているなら、いっそ産まないほうが幸せだと、いわなければならない。ダウン症をもって生まれて、喜びのない人生を歩まなければならないのなら、いっそ生まれないほうが良かったと嘆いても、返す言葉はない。どんな命も尊重される社会を築くことこそが大切なのだと、私は気づかされた。私はこう答えた。
 「園子が生まれたとき、私共夫婦は打ちひしがれました。翻って今はどうかと申しますと、園子が私の心の支えになってくれています。これが、私の人生における想定外の真実です。園子が幸せを感じているかどうかは分かりません。でもいつもにこにこ笑っている姿を見ると、不幸であるようには見えません。」

〔肝兪(かんゆ)〕背骨の左右両側に六臓六腑の治療穴が並ぶ。その一つ。
取穴:肩甲骨最下部を結ぶ高さの胸椎2個下、後正中線の左右1寸5分。
治効:漢方において「肝は脳中枢とつながり、また筋をつかさどる」とされる。ダウン症候群を持つ人々に、なにか希望を与えてくれるツボである気がする。
《作者から一言》この日、産婦人科学会が中心になり出生前診断受診の指針を作成するため様々な立場の人が意見を出し合う討論会が開催された。(宮本)



上は園子人形と特別講義/肝兪の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

[前のページへ] [次のページへ] [メニューへ戻る]
[トップへ戻る]


社団法人 和歌山県鍼灸マッサージ師会
 〒640-8341  和歌山市黒田97−14
 電話  073-475-7771  FAX   073-474-2241

 メールはこちらまで  info@washinshi.com