漢方つぼ物語(171)
曲 池(きょくち)

〈 和歌山市立明和中学校3年生への道徳特設授業 その2 〉

  君たちに再び尋ねる。悩みはないか? さしせまった入学試験のこと、先の進路のこと…。ところで、人間の悩みごとの大半は人間関係の悩みだそうだ。それほど人と人の付き合いは難しい。そこで、君たちの今後の人生での悩みを最小限にするためにきっと役立つと思われるお話をしよう。
 それは自分の意見や思いを他の人に伝えるときの表現の仕方についての話だ。大きく分けて、それは3つのパターンがあるとされる。ちょっと英語が出てくるが、辛抱してきいてほしい。
 まずはアグレッシブ( aggressive )な表現。これは上から下へ、げんこつをドスンと落とすような表現の仕方だ。自分の思いを重視して、しっかりと相手に伝えようとする表現をいう。包み隠さずに意見を言うわけだから、ときには相手を傷つける可能性もある。自分の意思を伝えることを最優先する表現方法といえる。
 次にノンアサーティブ( nonassertive )な態度。非主張的表現とも訳される。自己主張をせず相手の意見に心ならずも従ってしまう態度をいう。上目づかいで相手に合わせるイメージかな。
 3つ目はアサーティブ( assertive )な表現。これは自分の意見をきちんと述べながらも、相手の立場や意見も尊重する表現パターンで「自他尊重の自己表現」とも訳される。上からドスンでもなく上目づかいでもなく言葉をさっと横出しにする感じ。

     ***

  自己表現をめぐる3つのパターン。アグレッシブ、ノンアサーティブ、そしてアサーティブ。3つの違いを解ってもらえただろうか? ん、英語は苦手? そんな人もあるかと思って、とっておきの分かりやすい説明を用意してきた。
 3つの表現をドラえもんの登場人物になぞらえてみる。
 アグレッシブはジャイアン、ノンアサーティブはのび太、そしてアサーティブはしずかちゃんだ。これでイメージが随分はっきりする。
 これ、実は英語のスペリングとうまく一致していて、アグレッシブのスペルの頭の“agg-”の“g”がジャイアンの“g”、ノンアサーティブの頭文字“n”はのび太の“n”、アサーティブの頭の“ass-”の“s”は、しずかちゃんの“s”になっている。偶然だけどね。では具体的な例をあげて、一緒に考えてみよう。

     ***

  今、ここで大勢の人が列を作って順番を待っているものとしよう。そこに、突如、列に割り込んできた人がいる。この状況のもとで、ジャイアン、のび太、そしてしずかちゃんが、割り込んできた人になんて言うかを考えてみたい。
 まずはジャイアン。君たちの中でジャイアンに最も近いのはだれかな? お、君か。体がでかくて確かに外見はそれっぽいね。え、僕はジャイアンじゃないって? それはともかくとして、もし君がジャイアンだったとしたら、列に割り込んできた人になんて言うか想像してみてくれ。
 「こら、みんな並んでんだぞ。割り込むな!」
 うまい、うまい。そんな感じ。まさに「上からドスン」だ。
 では次にのび太君。のび太はだれ? 君? いや君も支持率が高いぞ。お互い譲り合うところが二人とも、いかにものび太君っぽいね。のび太ってとっても心が優しいんだよね。この答は、でもわかるよね。決してジャイアンのようには言わない。(なんだよ、この人。みんな並んでいるのに、ひどい人だなあ)と心の中で思いながらも、暴力を振るわれたりすると怖いから文句も言えずに黙っている。せいぜい不満そうににらみつけるのが精いっぱいだよね。
 では最後にアサーティブ、しずかちゃんの登場。もし、しずかちゃんだったら、割り込んできた人にどういうか考えてみよう。ジャイアンのようにびしっと叱りつけて相手のメンツをつぶすでもなく、のび太のように見逃すでもなく、さあ、どう言ったら、この場が丸く収まるかを考えてもらいたい。

     ***

  一つの正解を述べよう。しずかちゃんは少し微笑んで、こう言うんだ。
 「列のしっぽは、あちらです。」
 こう言われたら、「おう、すまん、すまん。並んどったんか、気いつかんかった。」「ああ、ここが最後尾かと思うたら、あっちか。」と、なりそうだよね。
 しずかちゃん的なものいいを探究することを、アサーション・トレーニング(略してAT)という。人間関係のきしみを避けて、笑顔でコミュニケーションするためのアサーション・トレーニングは、円滑な人間関係を築くために身に着けておいて損はないと思う。「自他尊重」は人権社会のキーワードでもある。
       《2012年12月11日午後、和歌山市立明和中学校講堂兼体育館にて》

〔曲池(きょくち)〕人さし指から首・顔に至る大腸の経絡の11番目のツボ。
取穴:肘の関節を深く曲げてできるしわ(肘窩横紋)の先のくぼみに取る。
治効:頭がカッカしているときののぼせを取ってアサーティブに導くツボ。
《作者から一言》 3つの表現パターンは和歌山市鍼灸マッサージ師会の研修で古川淑子先生に教わり、平木典子先生の著作も参照させて頂いた。(宮本)



上は曲池の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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