漢方つぼ物語(180)
上巨虚(じょうこきょ)・下巨虚(げこきょ)

〈 創作落語「遺伝子のスイッチ」 〉

 漢方亭浪漫の面白健康寄席へお運びくださいまして洵に有難うございます。
さて今日も好奇心旺盛な敏坊が物知りのご隠居さんを質問攻めにしております。
「ご隠居はん御免やす。ちょっとばかしもの尋ねさせて頂きたいんでおます。」
「おや、敏三さんやないかいな、まあ上がりなはれ、今日は何のお尋ねでっか。」
「昨今は何かというとDNAやのゲノムやのとゆうて、人間は遺伝子ですべてが決まってしまうようなお話が多いように思いますのやけど…。」
「ふん、ふん、遺伝子なあ。」
「わたいは、ちょっと解せんのでございます。」
「ほうほう、お聞きしまひょやないかいな、どこが解せんのですか?」
「ちょっと前に一卵性双生児の小学生を使うてイリュージョンをやったんです。こっちへ消えた子があっちから出てきた、ちゅうんでお客はびっくり仰天!」
「ほうほう、それはうまいこと考えたなあ。」
「あんまり評判取ったんで翌年もういっぺんしようとしたら、あきまへんね。」
「へーえ、どういうわけで今度はあきまへんでしたんや?」
「双子の兄貴が太り過ぎて、弟とはっきり区別がついてしまいましてん。」
「あはは、それではイリュージョンにならんなあ。わかった、一卵性双生児で遺伝子がぴったり一緒やのに、なぜこんなに差ができてしまうかを知りたいわけやな。教えたげましょ。まず一つ考えられるのは、腸内細菌の違いやな。」

***

 「へ? チョウナイサイキン? この町内で、最近なんぞありましたんか?」
「いやいや町内は昔も今もいたって平和や。なあんも問題ない。その町内やのうて、腹の中の腸内、近頃の最近やのうて、バクテリアのほうの細菌やがな。」
「はあはあ、この頃、健康番組でよう言うてる善玉、悪玉、ちゅうやつ。」
「それそれ。人間は毎日食べるもので体が作られるわけやが、腸内細菌の状態で、体の調子が、ずいぶんと違ってくる。」
「ほな、遺伝子よりも腸内細菌が大事というわけでおますか?」
「いや、遺伝子は腸から吸収した栄養をもとに体を作る設計図みたいなものやから、なんちゅうても最終的には何よりも決定的な力を持っておりますな。」
「ほんなら、なんでぴったしおんなじ遺伝子をもった一卵性双生児やのにから、みかけが違うてきたりするんでっか??」

***

 「遺伝子の研究は近年、ずいぶん進んでるみたいや。辻省次先生ちゅうて、和歌山県の出身で今、東大病院のゲノム研究センター長をなさっている偉いお医者様がいなさる。いうてみたら我が国における遺伝子研究の第一人者やがな。その辻先生によると、2003年に“ヒトゲノム”つまり人の遺伝子がすべて解読され、その後DNAの並びで人と人との個人差を生み出すおよそ300万か所について研究が進んでおって、まもなくあらゆる病気が遺伝子的に解明される。」
「えらい世の中ですなあ。」
「ここで大事なのは、『遺伝子にはスイッチがついてる』、っちゅうことや。」
「ええ遺伝子をもってても、スイッチが入らんと働かんちゅうことですか?」
「その通りやがな。たとえば長生きの遺伝子は腹を空かさんとスイッチが入らん。それも腹八分目では食い過ぎで、腹七分目くらいに控えんとあかんらしい。」
「なんでまたそこまで腹を空かさんと、長生きできませんのや?」
「今の日本は食いもんが豊富やが、人類の歴史は常に腹ペコで飢え死にする危険と背中合わせやった。空腹を乗り切るのが長寿遺伝子の働きというわけや。」
「ほな、やる気出したり、隠れた才能を発揮する遺伝子はどんな具合ですか? ご隠居はん、わたいの遺伝子のやる気スイッチ、入れてもらえまへんやろか?」
「あなたの細胞の中へ、どないして手え突っ込みますのや。そら無理やがな。そうした遺伝子はな、“感動”したとき、すなわち全身に鳥肌が立つほど、心が激しくつき動かされたときに、はじめてスイッチが入るといいますな。」
「ご隠居はん、ええこと教えてもろておおきに! よし、アイデア浮かんだぞ。今からツタヤで感動しまくりのDVD、いっぱい借りてきて、遺伝子にバンバンスイッチ入れたるんや。三日ほど寝る間も惜しんで感動の映画見まくりや。“レ・ミゼラブル”に“サウンド・オブ・ミュージック”、ちょっと古いけど、“愛と死を見つめて”に“君の名は”“愛染かつら”、ぜんぶ借りよ。ガラガラ。おかん、わしや。今帰ったで! 1枚目をDVDプレイヤーに入れてっと。あれ、おかしいぞ。全然映らんがな。おーい、おかん、このプレイヤー壊れてんのか?」
「え、DVDプレイヤーが壊れてますって? そんなはずおまへんけどな。あ、なんやあんた、このプレイヤー、スイッチが入ってまへんがな!」
 お後の用意がよろしいようでございます。

〔上巨虚・下巨虚(じょうこきょ・げこきょ)〕胃経の37番目・39番目の穴。
取穴:膝の皿外側窪みの下3寸の足三里の、上巨虚は3寸下、下巨虚は6寸下。
治効:上巨虚は大腸の、下巨虚は小腸の下合穴(しもごうけつ)=調整のツボ。

《作者からの一言》大腸・小腸の病の反応点・治療点であるこの2穴を、腸を調えて遺伝子にスイッチを入れるツボとして選んだ。長寿と意欲を呼ぶツボ。



上は上巨虚・下巨虚の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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