漢方つぼ物語(189)
子宮(しきゅう)

〈 ダウン症特別講義 その2 〉

 皆さん、初めまして。ダウン症の女の子・宮本園子の父親です。さて近未来ケアマインド落語“遺伝子相談所”はいかがでしたか? 命の選別について、ご一緒に考えてみましょう。
医学は人間の幸福を願って進歩発達を遂げて参りました。妊婦の血液検査で染色体異常の確率を検査し、陽性ならば羊水検査で確定診断を受ける。出生前診断と呼ばれる検査技術もまた医学の一分野であるとするならば、避けたいと思う出産を事前に察知して、これを避けることを、誰が責めることができるでしょうか。落語の中で遺伝子相談所の相談員がいう“スタートからつまずいているような”子供を生まない決断をすることを、誰が非難できるでしょうか。
 と、アタマではそう考えながらも、釈然としない思いを禁じ得ないのは、私の目の前にダウン症を持って生まれてきたわが娘・園子の無垢のまなざしがあるからです。もし、この子が胎内に宿っている時期に時を戻すことができて、なおかつ産む・産まないの選択を許されたとしても、私は断じて産まない決断はしないでしょう。テレビのドキュメント番組が出生前診断でダウン症を持つ子が宿っていることを知らされ、一度は堕胎を決めながら、結局は産んだ夫婦が、その理由をこう説明していました。
「上に二人の子供がいる。宿った子をダウン症があるという理由でおろしてしまったら、今までと同じようには上の子供たちを育てることができなくなる。」
 産む価値のない命とはどんな命でしょう。産むべき命とはどんな命でしょう。そこに区切りはありますか? 
 心の葛藤の中で、私は日本ダウン症協会のホームページを開いてみました。そこには、次のことが明確に主張されていたのです。
 まずは「出生前検査をマススクリーニングとして一般化することや安易に行うことには、断固反対です。」とあります。マススクリーニングの“マス”とは“マスコミ”や“マスプロ教育”の“マス”で、大量に処理することを意味します。“スクリーニング”はふるいにかけること。まるで当然すべき検査であるかのように一律・機械的に出生前診断が行われるようなことは、断じてあってはならない、との主張です。
なおかつ、その検査・診断の前に十分な説明がなされたうえでそれを受けるという判断がなされるべきです。納得づくの同意を“インフォームド・コンセント”といいます。医療全般に用いられるこの言葉は出生前診断においても重要性を持ちます。さらに、医師・看護師・助産師・遺伝カウンセラー等の医療スタッフが共通の認識で臨む“チーム医療”が必要です。
もう一つ、導入して頂きたいのが“ピアカウンセリング”です。“ピア”は“お友だち、フレンド”を意味する言葉ですが、特に“病気・障がいを同じくする仲間”という意味合いがあります。遺伝子・染色体の出生前検査・診断にあたって、ダウン症を持つ人やその家族からの体験的情報やアドバイスを、ぜひとも受けて頂きたい。ピアカウンセリングに日本ダウン症協会は協力を惜しみません、とつづられています。なんと筋の通った主張でしょう。
 自由意思を尊重します。でもダウン症についてよく知っていただきたい。
 「宮本さんはダウン症のお子さんの親であることを楽しんでおられて、いつも幸せそうですね? どうしてそんなに幸せでいられるのですか?」
 お答えします。大切なのは、「覚悟」と「感性」です。
 覚悟といってもそうたいそうなことではありません。ダウン症の子は1歳では歩けるようになりませんよ。成長はゆっくりです。ほかのお子さんと比べずにじっくりと子育てしてくださいね。あらかじめそう教えて頂いていたから、つまり覚悟ができていたから、2歳4か月まで歩けなくても焦ることはなかったのです。
 感性について。「幸せは築くものではなく、気付くもの」という言葉があります。その通りだと思います。あたりまえの幸せに気付く感性を備えていれば、人生は幸せに満ち満ちています。
 昨年度、こちらにお邪魔した折に、一人の学生さんが「ダウン症を持つ方は、また、ダウン症の子の家族は幸せなのですか?」と質問されました。私はこの質問で、出生前診断の是非を問う以前に、ダウン症を、そしてすべての生命を、等しく受け入れる社会を築き上げることこそが大切なのだと肝に銘じました。先日、県医大の染色体外来を永く担当されている月野隆一先生に、この質問をぶつけました。園子の主治医である月野先生はこう答えられました。
 「ダウン症の人が、その家族が、“ダウン症であるために不幸せ”ということはありませんよ。」
 すべての人が人間として尊重され、互いに尊び合い、支え合い、活かし合う世の中をつくるために、園子と一緒に、微力を捧げたいと決意しています。

〔子宮(しきゅう)〕この「子宮」はツボの名前。特定の症状に効く奇穴の一つ。
取穴: へそと恥骨上縁を結ぶ線の下1/5、正中線の外方3寸(指4本の幅)の処。
治効:ご婦人の病一切。不妊症から月経不順、妊娠に関わるトラブル一切に。

《作者からの一言》後日、なんと学生全員が感想を寄せてくれました。もし自分にダウン症の子が宿ったら、と各々の真剣な葛藤がそこにありました。(宮本)



上は子宮の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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