漢方つぼ物語(198)
気(き) 穴(けつ)

〈 句集「玉津島山」〉

 薄紫の紙函からご本を取り出すと、より濃い紫の鮮やかな一冊が滑り出る。しおり紐の色まで紫に統一されている。表紙の「句集 玉津島山」の金箔文字が目にしみいる。平成25年に満89歳をお迎えになった、土山忠治(号 雄川)先生の半世紀にわたる句作品の集大成である。
 先に歌集「名勝」を出版された折、大仕事を成し遂げられて目標を喪われては、と案じた私が「ぜひ次は句集を期待します」と申し上げたが、私ごときが進言するずっと前から計画されておられたに違いない。わずか半年余りの間に、歌集・句集を相次いで出版されるとは。
 通読させていただき、全くの私の主観で何句かを選ばせて頂き、感想を述べることをお許しいただきたい。

***

1.色彩感覚の鮮やかさに感嘆した句
  涼とのみ一字の書状紺を刷(は)く 
  赤い羽根服あらためしその胸に   
 夏から秋の季節の移ろいを、衣替えした胸元を飾る赤い羽根が際立たせる。

2.氏のお仕事を思い起こさせた一句  
  税のこと生業(なりわい)にして梅を見ず  
 「税のこと」では親の代から、言い尽くせぬお世話になった。感謝。

3.孫子の成長を見守る父親・祖父としての心情に共感した句
  父と子の背丈(せたけ)そろひぬ子供の日  
  卓球の子に負けし汗こころよし      
  帰省子の髪の長きをとがむまじ       
  世界地図に子の旅たどる夜の長し 孫・雄一郎世界一人旅 
 子の人格を尊重するがゆえの葛藤に共感する。

4.奥様への思いと観察力の鋭さに感嘆した句
  鏡より妻春愁の眼をそらす         
 ふとした仕草に、妻の春愁を見て取る研ぎ澄まされた感覚は、俳人の資質である以前に、人間的温かさであろう。

5.玉津島山の詠み込まれた句より
  潮満ちて玉津島山萩こぼる          
  潮みちて玉津島山月をあぐ          
 氏が「終(つい)の栖(すみか)」と定めた玉津島山の季節ごとの美しさは、これを愛でて見つめる氏の視線によっていっそう鮮やかに浮かび上がる。

6.子育ての重要なヒントを示す一句
  武具飾る長男次男へだてなく         
 文化庁長官もつとめた心理学者・河合隼雄さんは男ばかり7人兄弟の五男。兄弟仲が良い理由を問われて「両親が分け隔てなく育てたからだと思います」と答えている。土山さんも二人の子息を「へだてなく」育てられた。分け隔てない子育ては、子に孫にと引き継がれていく。

7.先祖への思い
  寒の水たたえて温し父祖の井戸       
 土山さんの深い信仰心はこの句集の中に枚挙にいとまない。そして己が命の源たる祖先に対しても感謝の心を常に忘れない。

8.未曽有の天災に寄せる一句
  地震(ない)の泥かぶりて桜咲き出でぬ 三・一一東日本大震災
 写生の中に作者の祈りがある。

9.勇壮な和歌祭りに寄せる一句
  天に放り地に傾けて御輿渡御(みこしとぎょ) 
 急な石段を祭り御輿がおろされる。「天に放り地に傾けて」がダイナミックな祭りの興奮を伝えて余りある。

10.あやかりたき米寿自祝の2句
  短冊に一句米寿の筆始           
  高砂や米寿自祝の謡初           
 生涯を貫く趣味はかくも人生を豊かに彩ってくれるものかは。

11.身も心も引き締まる一句
  神厳にゐますと信じ初詣          
 年の初めに、あらためて自らの信仰心を確かめる。それはゆるぎない初心であり、土山さんの人生を導いてきたものだ。

***

 後記まで読み終えて、清涼感に身内が包まれる。人生かくあれかし、と思う。

〔気穴(きけつ)〕身体の深部を流れ生命力の源をなす腎経27穴中の第13穴。
取穴:へそ下3寸の高さ、つまり臍下丹田で正中線(体の中心線)の外方5分。
治効:土山さんの如く90歳近くして心身ともに健康を保つ為、お勧めのツボ。

《作者からの一言》能をたしなみ俳句を作り短歌も楽しむ。深い信仰を持ち、身内に愛情深く、他人にも親切。土山さんは私の人生のお手本です。(宮本)



上は気穴の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

[前のページへ] [次のページへ] [メニューへ戻る]
[トップへ戻る]


社団法人 和歌山県鍼灸マッサージ師会
 〒640-8341  和歌山市黒田97−14
 電話  073-475-7771  FAX   073-474-2241

 メールはこちらまで  info@washinshi.com