漢方つぼ物語(202)
人迎(じんげい)

〈 春法事で腹話術「目には青葉…」 〉

太郎:永正寺の春法事にたくさんのお運び、ありがとさんでございます。
敏企:ほんまに、ようこそお参りいただきました。しばらくの間、太郎と私の腹話術にお付き合いくださいませ。
太郎:桜が散ったね。あんなにきれいに咲いていたのに…。
敏企:まさに「無常」やね。桜と言えば、皆様ご存じでしょうか、桜はバラの仲間の植物だということを。太郎君、バラは知ってるかな?
太郎:知ってるがな。君の奥さんによく似た花や。
敏企:太郎君、嬉しいこといってくれるなあ。うちの奥さん、あんなにきれい?
太郎:いや、トゲだらけ!
敏企:そっちかいな。桜は、そのトゲを何百万年もの時間をかけて丹念に取り除いたバラの姿なのだそうです。
太郎:奥さんにゆうとき、「桜を見習って、はよう心のトゲを抜きや」って。
敏企:そんなこと言うたら、「アンタこそ」って言われるがな。
太郎:ところで、このところ日中は夏みたいに暑い日があるね。
敏企:「目には青葉 山ホトトギス 初鰹」
太郎:おっ、新しいお経やな?
敏企:お経やなくて俳句です。これはようできた俳句やで。
太郎:どこがようできてんね。季節のもんを並べただけちゃうん?
敏企:そう思うのが素人のあさはかさ。ええか、まずは「目には青葉」や。
街中でも青々とした木の葉っぱが目に染みる季節や。
太郎:入れ歯にアイスクリームがしみる季節や。
敏企:そういえば太郎君は世界でも珍しい入れ歯をした腹話術人形やったな。
太郎:それはどうでもいい。
敏企:次に「山ホトトギス」や。山に分け入るとホトトギスの鳴く声が聞こえる。ホトトギスはなんて泣くか、知ってる?
太郎:ホー、ホケキョ。
敏企:それはウグイス。ホトトギスは「テッペンカケタカ」って鳴くんやで。
太郎:え? 失礼やな、「てっぺんハゲたか」やて?
敏企:失礼なのは太郎君や。ハゲの話はせんといて!
太郎:ほな次、行こか。
敏企:海に釣りに行くと、そろそろカツオのとれる季節や。
太郎:旬のカツオはおいしいなあ。
敏企:そう、おいしい上に縁起がいい。カツオは「勝つ魚(うお)」というわけで勝負に勝つ、戦いに勝利する、ととりわけ武士にありがたがられたらしいで。「女房を質に置いても初鰹」っていう川柳があるくらいや。
太郎:カツオはカツウオって、おやじギャグや。
敏企:その昔、海での戦いに舟をこぎ出すと、元気のいいカツオが飛び込んできた。その戦いに大勝ちしたのでカツオが勝利を呼び込んだ、となったらしいで。ではここまでのところを、復習してみよか。
太郎:最初の青葉は、街中にあって目で見て楽しむ、つまり視覚。ホトトギスは山に行って耳でその鳴き声をきいて楽しむ、つまり聴覚。最後のカツオは海で釣ってきて舌で味わって楽しむ、すなわち味覚や。
敏企:正解!場所でいうと、街中・山・海、五感でいえば、視覚・聴覚・味覚とバラエティに富んでいるところがようできてるわけや。
太郎:ちょっと待てよ、場所も五感も、足らずがある。
敏企:何が足らん?
太郎:場所では家の中、屋内が欠けているで。五感ではにおいをかぐ嗅覚と、それから手でさわる触覚が出てこなかったのと違うか。
敏企:よし、それなら足らずを付け足そう!
太郎:え? そんなことできるん?
敏企:目には青葉 山ホトトギス 初鰹 お香を焚(た)いて 指圧受けよう
太郎:お香は鼻を使って香りを楽しむ、すなわち嗅覚、指圧は手でおしてもらうから触覚。お香も指圧も、屋内でするっちゅうわけか。
敏企:これで街中・海山・家の中、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚と、すべてそろった。
太郎:むりやりやな。
敏企:この季節、宮本鍼灸指圧院をごひいきに!
太郎:こらこら、春法事で仕事の宣伝するやつがあるかい。
敏企:まことにご無礼を致しました。どうぞ皆様、お達者で!

〔人迎(じんげい)〕鼻横・目頭・耳の前・口角から胸腹に下りる胃経第9穴。
取穴:のど正面上方の甲状軟骨上縁の高さで頸の筋肉(胸鎖乳突筋)の前縁。
治効:顔面の諸症状や五感の機能低下に効果があるツボ。高血圧にも用いる。

《作者からの一言》昨年に引き続いて今年(平成26年)も春法事に出番を頂戴した。勿体なくも阿弥陀様のご本尊の前で、五感にからめた腹話術のあと、お釈迦様の八正道に因んで、視覚・聴覚の確かさを問うマジックを演じた。(宮本)



上は人迎の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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