漢方つぼ物語(203)
公孫(こうそん)

〈 盲学校教職員歓迎会 〉

 和歌山県立和歌山盲学校に新任・転任してこられた11人の教職員の皆様方、ようこそ和盲(わもう)へ。理療科非常勤講師12年目の私こと宮本年起から「和歌山盲学校3つのサプライズ」なるものをご紹介申し上げます。
 サプライズその1、校長先生よりも、教頭先生よりも歳を食った生徒がいる。
「そんな馬鹿な」と思われた方はおられませんか? じつはこれ、本当なんです。本年度の学生最高年齢は74歳。高等部理療科3年に在籍しています。
 サプライズその2、卒業して最短2年で先生としてデビューする人がいる。
これも本当なんです。本校理療科を卒業、鍼灸マッサージ師の国家試験もパスして二年制の筑波大学理療科教員養成施設を修了しますと盲学校の先生として正式に採用されるのです。本年、それが現実になっています。
 サプライズその3、これがまたまたびっくり仰天。皆様を腹話術で歓迎する非常勤講師がいる! はい、本当です。何を隠そう、この私でございます!

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 ここにお持ちいたしました晴れ渡ったお空のような爽やかな青色のトランク。その昔、ポーラ化粧品のセールスマンが持ち歩いていたようなこのトランクの中から、さて、何が出てくるのでしょうか。はい、出て参りました。これはなんでしょう? 先日、さる老人会でこれを取り出して「何でしょう?」とお尋ねしましたら、かぶりつきでご覧になっていたおじいちゃまから、とっさに返ってきたお答えが、「それ、尿瓶(しびん)やしょ」。そのとき、すかさず、その横のおばあちゃまが言いました。「ちがわしてよ、それ、寝飲みやないかいな」。どちらも間違っています。尿瓶でも寝飲みでもありません。この中には油が入っています。その油が太い糸で注ぎ口の処まで導かれている。ここに火をつけますと「ぼっ」と燃える。そう、これはランプです。ただし、ただのランプではない。こすると中からなんでも願い事を叶えてくれる大男が出てくる、そう、アラジンの魔法のランプなのです。さっそくこすってみます。出てきました!あれ? どうした、ちっちゃいぞ。もう一度こすりなおし。こんどはでっかい、アラジンの魔法のランプの大男、ジーニーさんの登場です!

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 では、願い事をカミングアウトして頂きましょう。転任してこられた女性の先生、願い事は? 豪華客船で世界一周。分かりました、任せなさい。新任の男性の先生、願い事をどうぞ。彼女がほしい。お安い御用。今お聞き取りしました二つは、願い事の典型です。
 豪華客船で世界一周、これはお金で叶う願い事。まずはこちらから叶えます。この黒いバッグに、私の全財産を入れて参りました。あれ? 底が抜けてる。仕方ない、ポケットから五百円玉を取り出して、大きくなあれ、っと。わあ、大きくなった。でも大きくなっても五百円は五百円。もっと金目のものになあれ! あっ、金の延べ棒…と思ったら、なんだインゴット型のライターでした。実は私んちの家計は火の車なんです。よし、おさつ出てこい! 出てきた…と思ったら、さつま芋。おさつ違いでした。さつま芋じゃなくて、札束になあれ! やっと出ました。山分けしましょう。(投げると七色の紙テープが飛び出す。)
 さあ次、彼女がほしい、これはお金で買えない願い事ですね。世の中には、札束を山と積んでも叶わない願い事があります。大丈夫です。そんなときは、この赤いバッグから、いいものが出てきます。出ておいで! (するすると長い木の棒が出現。)はい、出て参りました、木の棒。縮めると木棒、すなわち希望です!

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 永らく本校中学部で理科を担当なさった上垣内先生が定年を迎えられ、退職される折に、教職員に向けてご挨拶なさったお言葉が、今も深く心に刻まれて、忘れることができません。先生はおおよそ、次のようにおっしゃった。
 「教職の日々を、盲学校で送らせていただき、楽しい想い出は尽きません。しかしながら、楽しい想い出に交じって、哀しい記憶もまたいくつかございます。人間関係や自らのおかれた境遇に苦しみ、あるいは進路に悩み、何人かの生徒が、または卒業生が、自ら命を絶ったことです。去りゆく者が、残られる先生方に、このようなことを申すのも誠に口幅ったいのでありますが、どうかそれぞれの教科の内容を教えられると共に、『希望』というものをこどもたちに伝えて頂きたい。生きる喜びを授けてやっていただけたらと、切に願います。」
 皆さん、力を併せて、この学校を、希望でいっぱいの学校に、生きる喜びにあふれる学校に、しようではありませんか! ありがとうございました。

〔公孫(こうそん)〕消化作用を高め意欲をもたらす足の太陰脾経の第4穴。
取穴:足の親指付け根の関節の内側に置いた指を踵へ滑らして止まるところ。
治効:食欲不振や吐き気・胃痛を改善するほか、意欲と希望をもたらすツボ。

《作者からの一言》平成26年度、私にとって12年目の盲学校の歓迎会は、4月25日の晩、ルミエール華月殿で催された。8年前、ここで結婚式を挙げた上海出身のイエ先生からの「宮本先生、なにか余興をお願いできませんか?」とのご依頼に、二つ返事で応えて演じたのが今回の漢方つぼ物語の内容。(宮本)



上は公孫の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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