漢方つぼ物語(205)
大横(だいおう)

〈 ツボと台風 〉

  私の腹話術仲間であるYさんから、公民館主催の「寿大学」での「ツボと健康」をテーマとする講演の依頼を頂戴したのは今年、平成26年の4月のことだった。日時は7月10日の午後で約1時間15分、参加予定はおよそ50名。
 このところは人権講演や子育て講演、モチベーション・アップの講演が多く、私の原点である東洋医学に基づく健康講演は久しぶりのことだった。このようなご依頼を頂いた場合、私には決まった手順がある。まずご依頼の日時の確認。ご希望の日程におこたえできるかどうかを確認する。さいわい、この日はまだ予定が入っていない。木曜日で盲学校の授業日だがお昼までに帰宅できるから大丈夫。そこで、「喜んでお引き受けします」、とお返事するのだが、そのとき、一言添える言葉がある。
 それは、「当日、みなさまにお会いできますことを楽しみにしています。」
 これ、「言った者勝ちの魔法の言葉」である。「その日」が近づくにつれて、参加者との出会いが待ち遠しくてたまらなくなる。まるで初恋の人に数十年ぶりで会うかのごとく、焦がれる思いでその日を迎えることになる。
 今回もその点については同様だったのだが、予想外であったのは、思いがけない「モノ」が接近していたことだ。それは台風であった。なんと前日の天気予報で、「明日午後から夜にかけて近畿に最接近」との情報がもたらされたのだ。

           ***

 数日前にも公民館長さんから予定確認があり、「天候が心配ですが」とおっしゃっていたのだが、まさにその心配が現実になった。いよいよ明日という日の朝、お越しになった患者さんを治療中、Yさんから電話があった。
 「宮本さん、明日は台風が避けられない見通しです。いかがいたしましょうか?」
 「それは主催者の皆様にお任せします。安全第一ですから中止もやむをえません。延期なさるなら相談に応じます。何人かでもお越しになるなら、行かせていただきます。そちらで適切にご判断下さい。それに従います。」
 「ではこちらで相談させていただきますので、しばらくお時間を下さい。」
 十中八九、断ってこられるものと思っていた。しばらくしてYさんから電話があった。
 「少人数の参加になるかも知れませんが、予定通り実施したく存じます。」

           ***

 当日午後1時ちょうどに会場についた。地区の支所二階にある公民館に、女性3人が座っておられた。ああ今日はこの三人をお相手にお話しするのだな、と覚悟を決めた。ところが私の思い違いで、開始時刻は1時30分だったのだ。一人二人と人数が増えて、ほぼ20人に達した時、館長さんが開始を告げられた。予想された台風最接近の時間帯が近づき、かなり強い雨が降っていた。
 「みなさん、本日は台風の近づく中、ようこそお運びいただきました。少し早い目に終了したい、とのことですので、余計な話は省略して、健康にお役にたつ一番大事なところだけ、しっかりとお伝えしたく存じます。
 ツボはバラバラに散らばっているのではなく、経絡(けいらく)という線上に並んでいます。経絡は、目に見えないエネルギーである気(き)や液体のエネルギーである血(けつ)の通り道です。手足12本の経絡は順につながって循環しています。ツボの数が365で一年の日数と同じ、手足の経絡が12本で一年の月の数と同じです。これは人間の体を動かしているエネルギーと、宇宙を動かしているエネルギーが共通であることを表しているのです。
 人間が宇宙の縮図であるなら、人間の体の一部は全身の縮図とも考えられます。耳にあるツボは、耳たぶが頭、外側の輪郭が背骨、耳の穴の周りに内臓が上下逆に並んでいると考えて、対応するところに刺激を与えると不思議にその場所の不調がよくなります。例えば胃のツボは耳の穴のすぐ外側、肺のツボは耳の穴の外下、膀胱のツボは外上、といった具合です。足にも全身のツボがあると考えることができ、両足を横に並べて、親指の先が頭のてっぺんに対応します。親指とその隣の指との間、下駄の鼻緒の当たるところはノドです…。」

           ***

 夢中になって東洋医学の根本的な考え方を説明しているうちに、天気は明らかに快方に向かっていった。締めくくりに「すべての内臓のマッサージ効果がある笑いのヨガ」を創始者のマダン・カタリナさん(の腹話術人形)に伝授してもらっているうちに、雨はすっかり止んでしまっていた。
 「なんとツボは台風にまでよく効くのですね!(受講者の言葉)」
 台風を事無くやり過ごせたことは、実施を決断した主催者と、荒天をおして参加してくださった皆さんへの、なによりのごほうびとなったのだった。

〔大横(だいおう)〕腹部正中線の左右4寸の垂直線上を上がる脾経のツボ。
取穴:腹部の脾経は乳首を通る垂直線上に並んでいる。ちょうどへその高さ。
治効:冷えて下痢気味のとき、大腸の疲れで軟便のときに用いると効果がある。

《作者からの一言》平成26年の近畿地方の梅雨は、前年より遅く、学校が夏休みに入ってようやく明けた。雨量は他の地方に比べて少なかったようだ。(宮本)



上は大横の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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