漢方つぼ物語(206)
承山(しょうざん)

〈 バックパッカー 〉

 背中にリュック一つしょって旅する人を「バックパッカー」と呼ぶ。旅費・交通費を節約しながら、足の向くまま気の向くままの旅を謳歌する人々である。
 ここに1人のバックパッカーがいる。すでに世界25カ国に足を踏み入れて、見聞を広めている。
 初めての海外旅行は小学校5年生のときであった。通っていた小学校が中国の小学校と親善関係を結び、先生と児童が訪問することになった。費用は各自の負担であったにもかかわらず、5年・6年の都合9人の児童が参加を希望し(男子はたった一人だけ、残り8人が女子であった)、校長先生を含む3人の先生の引率で数日間、中国旅行をした。この折に、訪問先の小学校での歓迎行事で、にわか中国語で挨拶をした。
 “ウォーメン ライラ。 ウォーメン チョンイー ライラ。……ウォーメン ツオ ポンヨウ パ! (私たちは やってきました。 私たちはついにやってきました。……お友だちになりましょう!)”
 との、このときの中国語挨拶の全文を、今でも暗記している。意味は分からないままに…。
 二度目の海外旅行は中学2年生のとき。オーストラリアへの短期体験留学だった。わずか1週間の訪問であったが、ホームステイ先のフランクなお父さん、肝っ玉母さんと元気な娘たち、ちょっとオタクっぽい息子の姿が今もまぶたに残る。

           ***

 高校生のときは受験勉強に追われて海外へ行く機会はなかったが、大学生となって、いよいよバックパッカーの血が騒ぎだした。アメリカ合衆国、香港、トルコとあっちこっち旅した。忘れがたいのは大学4年生の秋、3週間で9カ国を制覇したヨーロッパ旅行。国境を越えるたびに街並みが一変するのが興味深かった。どこに行っても、その地の人に親切にしてもらえてありがたかった。ま、かっぱらいやコソ泥にあやうく財布を狙われたり、電車のチケットを紛失したりのトラブルはあったのだけれど。
 卒業旅行は南米を選んだ。片道のフライト正味20時間は、年をとってからでは辛い。いついくの? 今でしょ! 世界遺産の空中都市・ペルーのマチュピチュ、ボリビアの神秘の湖・ウユニ塩湖。天候にも恵まれ、最高の景色を楽しめた。
 そして大学院に進学したこの夏、もう一度、南米に飛んだ。つい先頃、サッカーワールドカップが開催されたブラジルと、そのワールドカップで準優勝を果たしたアルゼンチンだ。今回の旅の最大のハイライトは、ブラジル・アルゼンチン両国国境に位置するイグアスの滝。なんと256の滝の集合体! このスケールの大きさには圧倒された。大きなボートに乗って滝をくぐり滝つぼに到達するスリリングな体験もできた。

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 このバックパッカー、その名を宮本知佳という。私の次女である。海外旅行中は、妻ともどもハラハラし通しだ。便利な時代で世界中、どこを旅していてもインターネット上のアプリであるLINE(ライン)で逐一、報告と写真・動画が送られてくる。地球の裏側とテレビ電話まで楽しめる。でも丸一日、インターネットがつながりにくかったりすると不安に駆られる。
 ブラジルで外食して、ホテルへの道が分からずおまわりさんに尋ねたら、「女の子二人が夜道を歩くのは危険」と、パトカーで送ってくれたと娘からきいて、私は思わずメールした。
 “危ないからこっちへおいで、と手を伸ばして引き寄せることのできないところに知佳がいることにつくづく思い至った。同時に、異国のおまわりさんに手を合わせた。娘がたいへんお世話になりました、と。”
 娘から帰ってきたメールにはこうあった。
 “どうして送ってくれるの、ってきいたら、ヒマやから、って言ってたよ。それに外食したレストランからホテルまでは、めっちゃ近かった。まあ、ぶじでよかった、よかった。”

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 24歳の誕生日の数日前、帰省した知佳と家族でドライブしているとき、知佳は空に美しい五色の雲を見つけた。ハッピーバースデー・コメント。
“国境を越えると街並みが変わるのがおもしろい、という知佳。五色の雲を目ざとく見つけた知佳。君は人生の楽しさと幸福を、決して見逃さないだろう。24歳の新しいスタートに乾杯! おとんとおかんとねえやんより祝福を込めて”

〔承山(しょうざん)〕目頭から頭頂・背中を経て足小指に至る膀胱経第57穴。
取穴:アキレス腱の真うしろをふくらはぎへ撫で上げて、指の止まるところ。
治効:南米や欧州への長時間のフライトで脚がむくんだとき。その予防にも。

《作者からの一言》娘の知佳は今春、大学を卒業、同時に診療放射線技師(いわゆるレントゲン技師)の国家試験をパスしました。これで、かじられ続けた膝も快方に向かうかと思いきや、あと二年、大学院で学ぶのだそうな。(宮本)



上は承山の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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