漢方つぼ物語(207)
大迎(だいげい)

〈 保護者同伴の同窓会 〉

 年明けに満30歳の誕生日を迎える娘の園子宛てに同窓会の案内が来たのは、春から初夏にさしかかる頃だった。中学校3年生のときのクラスの同窓会だ。和歌山市立西和中学校、平成11年度3年6組迎井学級。平成12年3月卒業。「みんなが30歳になる年に同窓会をしようよ」と言っていたことを実現しての開催だった。案内は往復葉書で届き、インターネット上の特設サイトにパスワードを入力すると、案内と掲示板が開く。
 「久しぶりにみんなに会いたいです! 集まろうよ! 3-6の時の一致団結を思い出して(≧▽≦)」(幹事からのコメント)
 「みんな立派になったやろな〜 こちらはばりばりのおっさんになりました。まだ元気にしてるよ〜 みんなの顔見るの楽しみだ〜」(恩師からのコメント)
 園子はダウン症をもつ娘だ。今はみんなと普通にお話しすることはできない。欠席の返事を出そうと思ったが、参加者がなかなか増えないのを眺めているうちに、園子の両親である私と妻に、愉快なアイデアが浮かんだ。それは、保護者同伴で出席、というものだった。私は掲示板に、次のような書き込みを行った。
 「宮本園子です。ダウン症の園ちゃんのおとんとおかんがメッセージを書いています。同窓会のご案内、ほんとうに懐かしく嬉しかったです。園子はあのころのようには皆さんとお話しできない状態です。でも3年6組のみんなに、とりわけ大好きな迎井先生に、きっと会いたいと思います。そこで相談なのですが、父母同伴で参加、というわけにはまいりませんでしょうか? 幹事さんのご判断を仰ぎたく存じます。追伸:もし参加させていただけるのなら、園子のおっちゃんの腹話術とマジックのショーがもれなくついてくるでぇ〜。」
 幹事さんからの返事。
 「同伴の旨、大丈夫です。是非お越しください!マジック、楽しみにしています☆」

           ***

 平成26年8月16日、男子6名、女子(園子を含めて)9名、恩師1名、保護者2名(!)の総勢18名が定刻の午後6時30分に会場に集合した。迎井先生の挨拶と乾杯のあと、すっかり大人になった生徒たちが着席順に近況を披露する。四国、九州から、この同窓会に出席するために和歌山に帰ってきた者もいる。男子は全員がまだ独身。プロポーズして振られたエピソードに笑いが起こる。女子の中には、結婚して子育てしながら仕事に精を出している者もいる。末席の園子に代わって、保護者その1、園子のおかん(母親)。
 「西和中学校の卒業式の後、3年6組の教室で迎井先生から一人一人卒業証書を受け取るときに、いよいよお別れと感極まった榎本さんが泣きそうになったのです。それを見てうちの園子が、『エノモト、がんばれ!』って言った。すかさず久永君が、『園ちゃん、ええぞ!』って…。忘れがたいシーンです。」
 しんがりは保護者その2、園子のおとん(父親)、私だ。
 「3年6組のみなさんは園子をクラスメートとして温かく受け入れてくれました。文化祭のクラス発表でミュージカルを演じたおり、『私はいい』と尻込みする園子に、『園ちゃんも3年6組の一員やから、一緒に出なあかんで!』と、背中を押してくれました。寸劇のラスト、舞台上で全員がストップモーションでポーズを決めました。園子も、セーラー服姿で元気よく腕を突き出して懸命にポーズ。その写真が後に、卒業アルバムの扉を飾っているのを見て、どんなにうれしかったことか。あらためてお礼を言います。有難うございました!」
 このあと、お約束の腹話術&マジックショー。数学の先生である迎井先生をうならせたのは、“透明トランプ”の束から一枚ひかせて、マークと数字を言ってもらう。それを(パントマイム風に)裏返して元の束に戻す。魔法で(!)“透明トランプ”を“見えるトランプ”にして広げると、1枚だけ裏返ったカードが先に指定したカード、という“裏返るカード”だった。

           ***

 楽しい再会のうたげもお開きに近づき、迎井先生がもう一度挨拶に立った。
 「私も定年退職まで今年度を含めて7年です。今年、赴任したばかりの中学校の卓球クラブを、県レベルまで強くすることを目標にがんばります。」
 それを聞いて、園子のおかんが提案した。
 「ねえ、みんな、迎井先生が退職される7年後に、3年6組の、次の同窓会を開きましょうよ!」
 賛成、の声に力を得て、さらに園子のおかんは勢いづく。
 「その時は、また園子のおとんとおかんも、ご一緒させてくださいね!」
 迎井先生に幹事から花束をプレゼント、園子も作業所で作っている美味しいクッキーを先生とみんなにプレゼントした。終始、楽しげな園子であった。

〔大迎(だいげい)〕顔面から頸・胸・腹を経て足の第2指に至る胃経の第5穴。
取穴:「エラ」といわれるあごの角(下顎角)の前方で顔面静脈の打つところ。
治効:「迎」井先生にちなみ、顎関節症や三叉神経痛を起こさぬことを祈って。

《作者からの一言》。漢方つぼ物語第92話の続編、3年6組最新版です。(宮本)



上は大迎の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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