漢方つぼ物語(210)
腹結(ふっけつ)

〈 ダウン症講義感想レポートへの礼状 〉

 平成26年10月7日の午後、ダウン症特別講義をさせて頂いた宮本敏企です。レポートを拝見し、私のつたないお話を熱心にお聴きとり頂いたことがよくわかりました。皆様のレポートへお礼かたがた補足させてください。
 娘がダウン症候群であるとの確定診断を、医師が“微笑みながら”伝えてくれたことに、私が今もありがたく思っている、というお話をしました。そして笑顔のある医療人であってほしいとの希望を述べました。このことに、皆様方の多くが共感してくださったことを嬉しく思います。笑顔は人を優しく包み、勇気を与えます。どうか患者の思いに寄り添える医療者であってください。
 「もしも30年前に、娘がダウン症をもってこの世に生まれていなかったとしたら、私の人生は、ずいぶん薄っぺらいものになっていたでしょう。」という私の言葉にも、たくさんの共感を賜りました。皆様方の中の何人かがご推察なさった通り、そう感じることができたのは、家族や周囲の人々の温かい支えがあったからこそです。そのお陰で、少々の困難も乗り越えることができました。

           ***

 出生前診断について皆様が、自分のこどもが「ダウン症です。産みますか?」と言われたとしたら、どうするだろう、と真剣に考えてくださったことが見て取れました。「産むと思う」と書いた人と、「わからない」と書いた人がほぼ同数でした。「産まないと思う」と書いた人もあれば、「出生前診断はなくすべきだ」「私は受けない」とした人もいました。出生前にダウン症であると判った上で私が娘を産んだと思っている方がありましたが、それは誤解です。園子が生まれて5年後に、妻が下の子を身ごもったおり、迷った末に出生前診断を受けました。妻は、「もし陽性でも産むつもりだった」と申します。それならそれで生まれる前に覚悟をしておこうと思ったのだそうです。結果は陰性でした。
 つい最近、私は妻に尋ねました。「もし今、懐妊して、ダウン症の子であると宣告されたとしたら、どうする?」と。妻は少し考えてから「配偶者次第ね」と答えました。そして「あなたとなら、産んで育てるよ!」と言ってくれたので、私は嬉しくなってこう返しました。「君と一緒なら、もっと重い障害がある子でも育てるよ」と。現実問題として、胎児に染色体異常があると判定された場合、90%以上が堕胎を選択すると申します。この事実に驚かれた方が多数、おられました。熟慮の末の決断ならば仕方がありませんが、その際に、ダウン症候群について正しい情報が提供されたのだろうか、という疑問が拭いきれません。

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 皆様の感想レポートで、今回の特別講義を通じて「ダウン症に対するイメージが変わった(医学部生)」「ダウン症の人ともっと積極的に接してもいいのだと思えるようになった(保健看護学部生)」等、ダウン症候群について認識を新たにしていただけたことは有難いことでした。
 また、医療人としての立場から、「もっとダウン症などの障害について相手に伝えられる知識を身につける必要があると思った。正しい情報がなければ恐怖や嫌悪が先に立つので、情報は重要だと思った。人間としての優しさも大切だなと感じた(保健看護学部生)」、「私がもしダウン症の子どもを産むのを担当する医師となったとしたら、知能は他の子たちより発達が遅くなるかもしれないが、子どもさんの成長を温かく見守っていただきたい、という言葉をかけたいと思う(医学部生)」等の感想を頂戴したことも、たいへん心強く感じました。
 遠からぬ将来に皆様が、医師として看護師として、ダウン症候群に関わられた折に、「学生時代に、ずいぶん楽しんでダウン症のあるお子さんを育てている親御さんの話をきいたことがありますよ!」とお伝え頂けたら望外の幸せです。
 「ダウン症は家族ぐるみで支えていくものであり、患者当人の支援だけではなく、それを支える周囲の人の支えも必要なことだと思った。(医学部生)」
 「ダウン症であってもそうでなくても、この世に誕生してきた尊い命である。そこに優劣の差はなく、差別があってはならない。私は、この社会が障害者、健常者が共に平等に生きていけるような環境づくりをしていかなければならないと思った(保健看護学部生)」
 どうか医療を通じて、人が互いに支え合い、補い合い、活かし合う世の実現のために、お力をお貸し頂きたいと、衷心から願うものです。

〔腹結(ふっけつ)〕足親指に始まり、腹・胸から脇に至る脾経21穴中第14穴。
取穴:へその下1寸3分の高さで、体の中心線(前正中線)より左右4寸。
治効:便通を良くし腸の働きを調えることを通じて、胎児の環境を安定させる。

《作者からの一言》和歌山県立医科大学のケアマインド特別講師として、医学部・保健看護学部の1年生を対象に、ダウン症候群についてお話をさせて頂くのも平成20年以来、今年で7年目となります。平成26年10月7日の火曜日、午後1時から約80分間、授業させていただきました。学生たちは真剣に耳を傾けてくれました。1週間後、受講したほぼ180人全員の感想レポートが届きました。学生の感想文を引用しながら、私が書いた礼状が、今回の漢方つぼ物語です。(宮本)



上は腹結の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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