漢方つぼ物語(218)
不容(ふよう)

〈 創作落語「閻魔大王出張鑑定」 〉

 平成26年度の和歌山県紀の川市貴志川地区公民館講座「メッセージノート」活用塾も回を重ねて第9回。今回は、認知症の家族にどう向き合うかを寸劇で「いい例」「よくない例」をコミカルに演じて見せたり、「葉っぱのフレディ―いのちの旅―」を美しいスライドつきで朗読したりと出し物が豊富。そして、トリを飾るのが知る人ぞ知るアマチュア落語家・漢方亭浪漫による本邦初演の創作落語「閻魔大王出張鑑定」。はてさて、どうなりますことやら…。

      ***

 いっぱいのお運びです。看護学校の学生さんたちもご参加いただきまして、にぎにぎしい舞台でございます。さて、突然の地震と津波で多くの方が犠牲となった東北の大災害から間もなく4年を迎えます。豊かな田畑を真っ黒な津波が襲うニュース映像はまさに地獄絵図としか思えませんでした。避難所に援護物資を届けにアメリカ人が、やって参りました。皆さん着のみ着のままの姿で、もう何日もちゃんとした食事をとれていないと見うけられる被災された方々。持参した食料を配ると暴動が起きないかと内心、不安を感じながらも食料を配り始めますと、整然と列を作ってそれを受け取り、丁寧に礼を申し述べます。そのうち、人々が何か同じ言葉を言い合っているのに気づきます。この人たちはいったい何と言っているのか、といぶかしく思って通訳に尋ねました。
「私たちよりももっと困っている人たちがいます。私たちは大丈夫ですから、どうかこの援助物資を、その人たちに先にあげて下さい。」
と、そう言っていると聞いたアメリカ人は中空を見上げてつぶやきました。
“I found the real Paradise in the Hell! (地獄で本当の天国を見た。)”
 というわけで今日は地獄のお話を致します。
「どうやら閻魔さんがこの世に出張ってきて、地獄行きを判定するらしいで。」
「なんでまたこの時期に? だいたい閻魔さんちゅうんは、地獄のお方やろ?」
「2月はお釈迦さんの祥月で恩赦があって原則が極楽行きで暇なんやそうな。」
「そんな出張鑑定を いったいどこでやりますんや? 近くやったら見に行こ。」
「ホームグランドの地獄に似たところ、ちゅうんでイスラム国でやるらしい。」
 そうこうゆうておりますうちに、出張鑑定が始まりました。
「最初は某製薬会社元社員。血圧を下げる薬の効きめを検証する研究データに手を加えて有利な検証結果を導き出して、大儲けをした不届き者であります。」
「いささか反論をお許し願いたいです。薬の効能の3割は気のもので、よく効くと思って飲めばよく効くのであります。私は愛用者の健康を願って…」
「だまれ、たとえ死者が出なくとも嘘をついて薬を売ったこと、許し難し!」
「2人目は大学病院某医師。肝臓病の内視鏡手術で8人もの命を奪いました。」
「私も反論します。医学の進歩に多少の犠牲は付きものでございます。ましてや肝臓の内視鏡手術はとりわけ難易度の高い手術…。」
「だまれ、患者に十分な説明もなく病院の事前の審査も受けず、自分の技量も顧みず難手術を繰り返し、挙げ句に多くの人を死なせるとはけしからん!」
「3人目は出生前の血液検査で胎児の染色体異常を判定できるシステムの開発者であります。検査で陽性と判定された胎児の大半が堕胎されております。」
「ふむ。これはむしろ判定された染色体異常、たとえばダウン症について医療側が適切な説明をしたかどうかが問題じゃ。じっくりと吟味が必要である。」
「それでは閻魔大王さま、3名の者たちに、最終判定をお願いいたします。」
「研究データを偽った元製薬会社社員と無謀な手術で多数の患者を死に追いやった医師は人食い鬼に食らわれる刑に処す。胎児検査システム考案者は今後、検査を受ける者に最新適切な説明責任を果たすことを条件に無罪放免とする。」
「うわあ、鬼に呑まれたぞ。しかし大丈夫、わしらは薬と医学のエクスパート、せっかく鬼の体内に入ったのじゃから、色々悪さをしようではないか。くしゃみを引き起こす薬と吐き気を催す薬を鼻の粘膜と胃袋に振りかけてやろう。」
「ではわしは笑い袋と屁袋を絞ってやろう。それそれ、どうじゃ!?」
「はっくしょん! おえ〜っ! わっはっは! ぶぅ〜! こりゃたまらん。閻魔大王様、なんとかしてくだされ。」
「鬼の腹で悪さをしている者、出て参れ! 出てきたら極楽へ行かせるぞ。」
「ほんとか? それなら出ていこう。ああ面白かった、よいしょっと。」
「馬鹿者らめ! 極楽など行かせぬわ。おまえらは地獄のどん底行きじゃ!」
「あっ、閻魔様が嘘ついた! うそついたら舌を抜かれますよ!」
…というわけで、可哀そうに閻魔大王様、自らの出張鑑定先のイスラム国で、舌を抜かれちゃいましたとさ!?

〔不容(ふよう)〕顔面〜胸・腹を下って足親指の隣の指に至る胃経の第19穴。
取穴:へそ上6寸、体正面を左右に分ける中心線(=前正中線)の外方2寸。
治効:胃にまつわる様々な症状に効き目のあるツボ。吐き気もおさまるはず。

《作者からの一言》このあと高齢世代と若い看護学生とで、延命措置の是非やどのような死に方が望ましいか等について話し合った。訪問診療を行っている医師から、「所詮答のない質問。自分と向き合うことが大切」との助言があった。落語のオチは、“地獄八景亡者の戯れ”の桂枝雀さんのものを拝借した。(宮本)



上は不容の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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