漢方つぼ物語(219)
八邪(はちじゃ)

〈 マジック「人間の欲求」 〉

 人生の教訓に満ちたマジックをお目にかけましょう。ここに取り出しましたのは、人間の欲求のすべてが収まった容器であります。ご覧の通り、丸い筒の形を致しております。中には一体、何が入っているのでありましょう?

      ***

 (筒を持ち上げて中の黒いボトルを示しながら)最初に中から出て参りましたのは黒いボトルです。これは人間第一の欲求であります「存在と帰属の欲求」のシンボルであります。安全・安心に生活したい、家族や共同体にしっかりとつながっていたい。どっしりとした重量感のある黒い色は、まさにこの欲求にぴったりです(再び筒をかぶせる)。
 (筒を持ち上げると、今度は赤いボトルが姿を見せる。)おや不思議。今度は赤いボトルが姿を現しました。目にも鮮やかな色合いです。赤は愛と情熱の色。そうです。この赤いボトルは、「愛の欲求」を現しています。存在の欲求が満たされると、人はただ安心安全に存在し、家族や共同体に帰属するだけでは、もはや十分な満足を得られなくなるものです。人は愛し愛されたいと願います。深い愛情に満たされた人間関係を築きたいと乞い願うのです。燃えるような赤は、愛の欲求にふさわしい色です(筒をかぶせる)。
 (また筒を持ち上げると、黄色いボトルが出現する。)あれまあ! 黒・赤の次には、目に染みるような黄色いボトルの登場です。これほど目立つ色はありませんねえ。というわけで、これは「力の欲求」を表現するボトルです。人間には自分の能力を高め、それを誇示したいという欲求があります。他者から認められたい、尊敬されたい、という思いです。これを「力の欲求」といったのです。存在をアピールする色として鮮やかな黄色ほどふさわしい色はないでしょう。ただ、力と力はときに激しくぶつかり合います。なぜなら、力の欲求は他人よりも上回りたいという願いを内に秘めているからです。黄色という色彩は、赤・青・黄・白・黒の五色(ごしき)の中心にある色ですが、嫉妬を象徴する色でもあるとされるのは、優越が実現できない場合には、自分を凌駕する存在に、激しく嫉妬することにもなるからでしょう。力の欲求は、せめぎ合いを伴い、争いの原因になることを私たちは心に留めておくべきではないでしょうか?(また黒い筒を黄色いボトルにかぶせる。)
 (次に黒い筒を持ち上げると、緑色のボトルが出現する。)なんと今度は一転、緑色のボトルです。緑から何を連想なさいますか? 草の色? 緑の草原といいますものね。緑色は自然を最もよく表す色かもしれません。それでは人間の最も自然な欲求とはなんでしょう? 草木が天に伸び、鳥が空を悠々と飛び回るように、自由に生きたい、という希望ではないでしょうか?「自由の欲求」、それを表すのが緑色のボトルです。ただ、鳥は天敵から必死で空中に逃れた爬虫類の姿である、と言われますから、われわれがうらやましく思うほどには、自然の生き物は自由を謳歌していないかもしれませんが…。とにかく自分の意志・行動を誰にも抑圧されずに、ありのまま、心の欲するところに従って生きたい、という自由の欲求が、緑のボトルによって表されています(黒い筒をかぶせる)。
 さて、人間のすべての欲求を内に秘めたこの黒い筒から、これまでに4色のボトルが出て参りました。ざっと復習しておきましょう。(黒い筒の中から、順にボトルを取り出しながら)黒いボトルが「存在と帰属の欲求」、赤いボトルが「愛の欲求」、黄色いボトルが「力の欲求」、そして緑色のボトルが「自由の欲求」でした。実はもう一つ、残っています。5つ目のボトルを取り出します。あ、その前に、その欲求が何か、先に申しておきましょう。それは「楽しさの欲求」です。ではそれを表現するボトルの色は何色でしょうか? 楽しい…面白い…そう、面白い、の「白」です! (黒い筒を持ち上げると、最後のボトル、白いボトルが出現する。)
 「おもしろきこともなき世をおもしろく…」は、29歳の若さで病死した維新の風雲児・高杉晋作の辞世の句です。激動の時代を駆け抜けた彼のエネルギーはまさに「おもしろきこと」への欲求であったことがわかります。
 存在と愛、力・自由、加えては楽しさへの欲求。おおざっぱながら、これらの5つの欲求が一人ひとりの個性を作り、人生を動かします。微妙な人間関係、いわゆる相性といわれるものも、これらの欲求の配分と関わっているのではないでしょうか?
 今回はただ、人間の5つの欲求をお示しするにとどめましょう。欲望は人を破滅に追いやることもありますが、また充実した人生の原動力ともなります。自分も他人も大切にする公平な心と、たった一度の人生を悔いなく生きようとする前向きの志は、あなたの人生を必ずや輝かせてくれることでしょう!

〔八邪(はちじゃ)〕正規のツボでないが特定の症状によく効く奇穴のひとつ。
取穴:手の甲側で指の付け根の関節(=中手指説関節)の間。左右4穴ずつ。
治効:マジシャンの命は手の指先。様々な原因の手の指の痛みに応用するツボ。

《作者からの一言》新しいマジックの道具を手に入れた。筒の中から、五色のボトルが次々飛び出す。かねてから愛読している「グラッサー博士の選択理論(ウィリアム・グラッサー著)」とからませ“語るマジック”を試みた。(宮本)



上は八邪の図/五色のボトル

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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