漢方つぼ物語(220)
蠡溝(れいこう)

〈 ふるさと談義 〉

 京都府京丹後市の市長さんは「市民に幸せになってもらいたい!」と願った。そこで、手始めに市民の現在の幸福度調査を行ってみたところ、10点を満点とする幸福度の平均値は6.7だった。他の質問項目と関連付けてより詳しく分析を試みた。すると、たいへん興味深いことが判明した。ボランティア活動をしている市民の平均幸福度は7.3で、していない市民の平均6.2を大きく上回っていることが分かった。市長さんは「これだ!」と手を叩いた。市民に幸せになってもらうために市がなすべき事業は、ボランティア活動の環境を整えることだ、と気が付いたのである。市長はボランティアをしてみたいと思う人の相談を受ける部署を設けたり、ボランティア活動のための会合場所を提供するサービスを開始した。

      ***

 さて和歌山県社会福祉協議会の中には、ボランティア団体連絡協議会という組織がある。県内のボランティア団体が加盟し、ボランティアフォーラムという催しを毎年開催している。先日、田辺市で催されたボランティアフォーラムについて意見や感想を出すうちに、来年度の開催地に話が及んだ。
 「今、伸び盛りの紀の川市がふさわしいのではありませんか。」
 そう提案したのは「笑いのヨガ」のNさんだった。
 「紀の川筋でいうと、岩出市もどんどん人口が増えて活気があるのではないですか?」
 との発言にNさんが、
 「私は岩出市に住んでいるのですが、既に頭打ちの感があります。」
 と受けたのをきっかけに、しばし市町村の人口談義となった。
 「それでも和歌山市よりはましでしょう。和歌山市はかつて40万人もあった人口が36万となり、なおも減少に歯止めがかからないのですから。」
 確かにそのとおりである。住友金属工業(2012年10月に新日本製鉄と統合して、現在は新日鉄住金)の立地する和歌山市は我が国の高度経済成長と共に人口が増加し、昭和50年代には40万人に達する勢いであった。その後、平成9年4月には中核市となったものの人口は減り続けている。
 岩出市は和歌山市よりまし、との発言に対して、岩出市民にして次回フォーラムの開催地に紀の川市を推奨するNさんは、静かにこう言った。
 「私は山口県の下関市の出身なのです。私の故郷である下関は昭和60年ごろに人口のピークを迎え、33万人に近づいておりました。それで平成17年には中核都市の仲間入りをしたのですが、その後、減り続けて現在は27万人です。和歌山市が1割減少なら下関市は2割減少というわけです。43の中核市のうち人口最少です。それに和歌山市の場合は人口が減ったといっても周辺へ拡散している現状がありますよね。下関の場合は、正味の人口減ですから、より深刻ですよ。それよりもなによりも、私は、和歌山に移り住んで以来、こんな気候温暖で、人の気持ちの穏やかなところはない、とても住みやすいところだ、とたいへん気に入っています。和歌山にずっと住んでいる皆さんは、どうもその良さに、あまり気づかれていないようにお見受けします。」
 Nさんの発言を受けて、視覚障害者、特に全盲で点字が得意でない人のために文書を朗読・録音するボランティアに携わっておられるMさんが、発言した。
 「同感です。私は広島の出身なのですが、和歌山はとても良い町だと思います。ただ、ひとつ苦言を呈するとすれば、私のように他県から移り住んだ者は、いつまでたっても『よそ者』と見られている感じが拭えないのです。もともとの和歌山の人たちの中に入り込めない部分がある。実は私どものボランティアグループのメンバーは他府県から移り住んだ者が非常に多いのです。このボランティア活動の中で、自分たちの居場所を見つけているという感じなのです。」

      ***

 どうやら和歌山でボランティア活動に精を出している人々のなかで、他府県出身の方の比率は相当多いようだ。そうした方々は、和歌山での生活をとても気に入ってくれているらしい。と同時に、“土着の”紀州人との間に、微妙な、目に見えない壁・隔たりを感じていて、そんな感覚を共有する人たちの快適な居場所としてボランティア団体が存在する、という実態があるようなのだ。
 もしそうであるなら、生粋の紀州人の反省すべき点は明らかだ。
  ひとつ、和歌山の良さをもう一度、深く実感すること。
  ひとつ、他府県から来られた人たちとの壁を取り除き、心を通じること。
 ボランティア団体連絡協議会の理事会の場での話し合いが思いがけない展開を見せて、あたかも「ふるさとを考えるフォーラム」となったことは興味深く意義深いことであった。

〔蠡溝(れいこう)〕頭や目の働き、筋肉の収縮弛緩に関わる肝経の5番目の穴。
取穴:内くるぶしのてっぺんから膝へ1/3上がった高さ、脛骨の内側面の中央。
治効:肝経の慢性症状に効果のあるツボ。ボランティアの意欲をアップする。

《作者からの一言》私が司会・進行役をつとめていた、ある日のボランティア団体連絡会議のひとコマでした。(宮本)



上は蠡溝の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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