漢方つぼ物語(223)
梁門(りょうもん)

〈 中島綾子さんを偲ぶ会 〉

 昭和の後半から平成の初めにかけて、和歌山城天守閣を見上げる和歌山市の三年坂に「萌え木」という名の酒房があった。7,8人でいっぱいになる止まり木と4人掛けの椅子席の小さな店に、文人墨客(ぼっかく)が夜毎寄り集った。談論風発、歌と笑いの絶えないこの店の名物女将であった中島綾子(なかしま・あやこ)さんが平成26年9月25日に83歳で永眠された。翌平成27年5月2日、ゴールデンウィークさなかの土曜日の昼下がり、お店のあった場所に程近い、ホテルアバローム紀の国において「中島綾子さんを偲ぶ会」が催された。会場には満面の笑みを浮かべた綾さんの生前の写真が飾られ、並べられた想い出の品々が参会者の懐かしい記憶を呼び覚ました。文学座の加藤武代表の挨拶に始まり、紀三井寺貫主・前田孝道師の献杯の音頭を以て、宴は幕を開けた。萌え木ゆかりの人々を前に、私は腹話術人形の太郎と花子を、綾さんのご長男・ご長女に見立てて、「綾さん検定」なる出し物を披露した。

***

敏企:たいへんお待たせいたしました。伝説のお店「萌え木」の伝説の女将・中島綾子さんの人となりと秘められた横顔に迫る「綾さん検定」、ただいまよりスタートです。綾さんに関する質問を3つ差し上げます。いずれも○か×かでお答えください。3問全問ご正解の方には…、なんとなんと、天上の綾さんから素晴らしいプレゼントがご用意されています。さっそく、第1問と参ります。最初の問題は、綾さんのご長男・中島 均さんから出題してもらいます。
太郎:こんにちは、中島綾子の息子です。生前には母がお世話になりました。
敏企:ずいぶんおちょけた顔の均さんですね。それに、お母さんを偲ぶ会に、真っ赤な祭りのハッピというのは、いささか不謹慎ではないかと思いますが…。
太郎:いえ、今日は亡き母の「復活祭」だと聞いておりますよ!
敏企:なるほど、復活祭ですか。それは結構なことです。
太郎:では第1問。私に関して、母が最も嬉しがったのは、私の結婚したときだった。さあ、〇でしょうか? それとも×でしょうか?
敏企:はい、○だと思う方、お手を挙げて下さい。次に×の方。×が正解です。
太郎:結婚後、なかなか子供が授からず、8年後にようやく最初の内孫が誕生。このときに母は一番喜んでくれたと思います。
敏企:正解は×で異存はないのですが、その解説にいささか異論があります。均さんは結婚する少し前に大病を患いました。胃穿孔(いせんこう)といって胃に穴が開く、命にかかわる病でした。そのおり、息子さんの病気に心煩わせ、ほとんど半狂乱になっていた綾さんの形相が今もまぶたに焼き付いています。いつも陽気で人を奮い立たせる日常とは正反対の綾さんに、家族を命がけで愛する母親の姿を見た思いが致しました。幸い、紀三井寺の貫主様に平癒祈願し、鮮やかに恢復させていただけました。そのときこそが、ご子息に関する最も大きな喜びであったと私は思うのです。命あったからこそ、結婚もでき、子宝にも恵まれたのですから…。では次の検定問題を、綾さんのご長女、栗山美幸さんにお願いしましょう。美幸さん、どうぞ!
花子:中島綾子の娘・美幸です。母の人生で最良の日は、和歌山県民文化会館大ホールのこけら落としの日だった。〇か×か、どっちでしょうか?
敏企:○だと思う人…はい、今、手を挙げている方々、正解!
花子:母が生涯、大切にしていた文学座。その「華岡青洲の妻」が、こけら落とし公演として実現したことは母にとって最高の喜びだったに違いないです!
敏企:さて、ここまで2問ともご正解なさった方、どのくらいおいでになりますか? おお、さすがですね、ずいぶんたくさんいらっしゃいます。続けてもう一問、美幸さんからの出題です。ぜひとも全問正解され、綾さんからの秘密のプレゼントをゲットしてください。
花子:母の食べ物の好みを尋ねる問題です。すき焼きは牛肉、とんかつは豚肉、どちらも母の大好物でした。でも母の一番の好物は、実は鶏肉だった。さあ、○? それとも×?
敏企:最後の問題、○だと思う方、お手をお挙げくださいませ。お一人だけ手を挙げて下さいました。勇気のある方です。あなた以外全員正解です。綾さん、鶏肉は苦手でした。さあ、綾さん検定全3問、すべてお答えいただきました。あらためてお尋ねいたします。3問すべて正解された方、高らかに挙手を願います。さすがですね、結構たくさんおいでになります。それでは、綾さん検定全問正解者へのご褒美を発表いたします。お受け取りください。 綾さんからのプレゼントは…「今夜の夢に、綾さんが特別出演すること」です!
花子:ちょっと待って! 夢に出てこなかったら、いったいどう責任を取るの?
敏企:夢のことですから、ありえます。先に謝っておきます。ごめんちゃい!

〔梁門(りょうもん)〕顔面から胸腹を下り足の第2指に至る胃経の第21穴。
取穴:おヘソの上4寸に任脈の「中かん」というツボ。その左右2寸。
治効:均さんのように胃に穴が開いては大変!食欲不振や消化不良に効くツボ。

《作者からの一言》懐かしい昭和の記憶が鮮やかに蘇ったひと時でした。(宮本)



上は梁門の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

[前のページへ] [次のページへ] [メニューへ戻る]
[トップへ戻る]


社団法人 和歌山県鍼灸マッサージ師会
 〒640-8341  和歌山市黒田97−14
 電話  073-475-7771  FAX   073-474-2241

 メールはこちらまで  info@washinshi.com