漢方つぼ物語(224)
霊道(れいどう)

〈 新老人の会 〉

 日野原 重明(ひのはら・しげあき)先生。1911(明治44)年山口県生まれ。百歳を超える現役医師。健康医学・予防医療の大切さを指摘、「生活習慣病」という名前を生み出された。
 板倉 徹(いたくら・とおる)先生。1946(昭和21)年札幌市生まれ。脳外科医。和歌山県立医科大学付属病院院長を経て、同大学学長を2010-2014年の2期4年間、勤められた。
 日野原先生は日本の医療をリードしてきた名医として、かねてより尊敬申し上げていた。板倉先生には20数年前に、ご講義を賜る機会があった。鍼灸マッサージ師の資質向上のため平成初頭に催された厚生大臣指定講習会。その講師のお一人として、当時、県医大助教授の板倉先生にお越し頂いた。講義の中で、和歌山が世界に誇る医聖・華岡青洲について熱く語られたことを昨日のことのように覚えている。
 2000年に、日野原先生が「新老人運動」を提唱、「新老人の会」を発足され会長に就任、やがて板倉先生が和歌山県支部の代表になられた。尊敬してやまない二人の医師の関わるこの会に、私は迷うことなく会員として加わった。

***

 さて全国展開する新老人の会には、支部ごとに様々なサークル活動が活発に行われている。昔懐かしいお手玉・マジック・コーラス・社交ダンス、等々の多彩なラインアップの中に、「短歌と古典文学を楽しむサークル」がある。講師と指導役をつとめてくださるのは、私の母校・和歌山県立桐蔭高校の校長であられた永廣 禎夫(えひろ・さだお)先生。月一度、第4金曜日の午後1:30−4:00、前半で永廣先生の万葉集講義があり、後半では前以て一人2首ずつ提出した詠草を永廣先生が添削・アドバイスしてくださるのだ。参加者10数名中、私は最年少である。恥ずかしながら、昨年(平成26年)5月にサークルに仲間入りして以来の私の作品をここに披露する。

 腹話術ボランティアに題材をとった歌。
 人形で語りかければ幼子は 無心に応う わが顔は見ず

 7月に満62歳の誕生日を迎えて詠んだ2首。
 還暦を過ぎて 古稀にはなお遠く 中途半端な 六十二歳
 人生で最も輝く年齢と 信じてみよう 六十二歳

 8月、終戦記念日のユネスコの平和の鐘にちなんで2首。
 憲法の議論の中で気づきたり 戦争体験なきわれなるを
 終戦日 黙祷(もくとう)捧げ撞(つ)く鐘は わが諍(いさか)いの心戒む

「平成の歌枕(=和歌に詠まれる土地・処)を歌い込もう」との永廣先生のお声掛けに応じて、城下町である私の住所を詠み込んだ2首。
 わが庵(いお)は 紀伊徳川の城下にて 鷹匠町の南端(みなみはじ)なり
 玉藻町 豊原町は 消えゆきて わが鷹匠町(たかじょうまち) 生き残りたり

 大相撲で快進撃を続ける平成の大横綱・白鵬を歌った作品。
 結界を腰に巻きたる横綱に 神ならぬ身の 苦悩もあらん

 本年年明けの2首。
 この地球(ほし)を壊しかねない諍いも 止む時がくる アメリカ・キューバ
 息(こ)にとって 母見送るは 辛きこと われは泣きしと 友への弔電

 リュックを背に、たびたび海外旅行を重ねる次女を読んだ2首。
 海外を駆ける娘(こ) その無事妻祈り われはひたすらLINE待ち侘ぶ
 五十日欧州めぐる吾娘(あこ)からの 二日隔てし LINEが届く

 そしてサークル参加1周年を迎える今春、いささか型破りの私の歌がしばし座を沸かせた。
 声高に妻を罵(ののし)る そのときに 顔面筋はこわばりてあり
 カッとなって怒りのままに妻に罵声を浴びせた時に、痙攣(けいれん)を起こさんばかりの己が顔面筋に気づき、(なぜ未来を共にしようと誓い合った妻に、こんな険しい表情、言葉を向けているのだろう?)、と我に返り思った、という一首である。思いがけず永廣先生から以下のようなご批評を賜った。
 「万葉集全20巻4516首の中に、歓喜の歌・悲哀の歌は限りなく多くあるが、独り“怒り”をモチーフにしたものは皆無に近い。わずかに貧窮問答歌の中にそれらしいものが一・二、散見される程度である。その理由は、人間は怒りのさなかにあって自己を客観視することが困難であることに由来すると思われる。この歌は、そこを見事に克服している。」
 私は永廣先生に心からのお礼を述べた。
 「感情に流されずに、怒りの中で我にかえれたことは、ただひとえに先生のご薫陶の賜(たまもの)です。どうか引き続きご指導ご鞭撻のほどを、心よりお願い申しあげます!」

〔霊道(れいどう)〕脾経から繋がり心中(しんちゅう)に始まる心経第4穴。
取穴:手首の掌側のしわから肘へ1寸5分上がった高さ、尺骨頭上縁の高さ。
治効:カッとなって速くなった脈を和らげて気持ちをリラックスさせるツボ。

《作者からの一言》万葉集研究と短歌創作で日本語力を磨きたいです。(宮本)



上は霊道の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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