漢方つぼ物語(226)
温溜(おんる)

〈 素人名人会 〉

 20世紀最後の年に、忘れがたい想い出がある。次女の知佳とテレビの視聴者参加番組に出演したのである。番組名は「素人名人会」。タイトル通り、素人が歌や演芸に挑戦し、厳しいプロ審査員のお眼鏡にかなったら、「名人賞」と賞金三万円が頂ける。そればかりではない。あわよくばプロ歌手・プロ演芸人への道も開けるという、夢のような番組である。
この番組出演を契機に、プロとなり、今も活躍している実例は枚挙にいとまない。歌手では和歌山が誇る実力派演歌歌手・坂本冬美、落語では大御所・六代目桂文枝(元の桂三枝)、漫才では男性コンビのオール阪神・巨人、女性コンビは海原千里・万里(妹の海原万里は本音トーク炸裂の上沼恵美子)、マジックでは「ハンドパワー、来てます」のMr.マリック、等々、多士済々である。
 私と娘が演じた出し物は何か、というと、これが「親子腹話術」という代物。娘を腹話術人形に仕立ててトランクに仕込み、人形として出してくる。しばし腹話術をしていると、やがて人形が怒り出す。
「お父さん、いいかげんにしてよ! 今度はお父さんが人形になりなさい。」
ここで一転、娘が私を人形にして腹話術を演じる、というネタ構成である。

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 素人名人会に出ようと思ったきっかけは、私の所属するボランティア団体・和歌山県腹話術協会の年に一度の発表会で、娘にちょっとした黒子役をさせたことに端を発する。
アラジンの魔法のランプから出てきた大男が、人形・太郎の願いを聞き入れ、一瞬にして歯を生えそろわせる、というシーン。私が太郎の頭を差し入れた拍子に、テーブルの下に潜んでいる知佳が、素早く入れ歯をはめる、という筋書きだ。近所の歯医者さんと歯科技工士さんの好意で作ってもらっていた入れ歯を、絶妙のタイミングではめ込んだ。ラストで種明かし、机の下から出てきて深々とお辞儀をすると、しばらく拍手が鳴りやまないほどの大喝采を得た。これに味をしめた知佳は言ったものだ。
 「お父さん、来年は机の下でなくて、舞台の上でやりたい!」
 そこで軽くて使いやすい人形を人形作家である潟見英明(かたみ・えいめい)先生に作っていただいた。知佳がお姉ちゃんをイメージして描いたデッサンに基づいて、ユニークで使い勝手の良い特注人形が仕上がってきた。そこでその人形代を稼ぐために、素人名人会に出て賞金をゲットしよう、と相成った次第。

***

 1999年の年の瀬も押し詰まったころ、千里丘の元の毎日放送で予選に参加した。実はこの時点で、名人賞獲得を確信した。私どもより先に、落語と漫談の参加者があったのだが、スタッフの人たちはクスリとも笑わない。少々の笑いのネタには慣れてしまっている感じなのだ。その人たちが親子腹話術を見て、爆笑した! 私は娘と顔を見合わせた。(これはいけるぞ!)
 ほどなく合格の通知が届いた。そして本番の日は2000年4月8日と決まった。妻と長女はもちろんのこと、多数の応援団を引き連れて、会場である「なんば花月」へと繰り出した。百戦錬磨の私も、さすがにテレビの人気番組への出演とあって、いささか緊張したが、知佳は平気。舞台の大道具の後ろに回って、案外安っぽいなあ、などといいながらも興味津々の様子。そして本番スタート。

***

西川きよし(司会):次は腹話術です。宮本敏企さん・知佳ちゃん。知佳ちゃんの姿が見えないようですが、それは後のお楽しみです。
敏企:正義感が強くって、よいことをコツコツとする人は?
知佳:西川きよしさんです。
敏企:気難しそうで、ほんとうはとってもやさしいのは?
知佳:大久保 玲(おおくぼ・れい)先生です!
敏企:じゃあ最高にかっこよくて、気前のいい人は誰ですか?
知佳:それは、おとうさんです。
敏企:照れるなあ…
知佳:おとうさん、いいかげんにしてよ! こんどはおとうさんが人形になりなさい。おとうさん、わたしにピアノを買ってくれる?
敏企:ハイハイ
知佳:人形も買ってくれる?
敏企:ハイハイ
知佳:一生、わたしの人形でいてくれる?
敏企:いい加減にしなさい! 皆さん、人形とこどものしつけには十分注意しましょう!
 ここで名人賞のかねが鳴り響いた。誤算だったのは、応援団に天ぷら定食をふるまったら、賞金を使い果たして、人形代にはまわらなかったことである。

〔温溜(おんる)〕大腸経の急性症状に効果ある「げき穴」と呼ばれる重要穴。
 取穴:手首の手の甲側、親指寄りから肘に向かって5寸。手首〜肘は1尺2寸。
 治効:口内炎に効く。緊張やストレスで口内炎ができると実力を発揮できない。

《作者からの一言》その後、「親子腹話術」で約百カ所、娘とあちこち訪問した。和歌山大学の学園祭に招かれたのは想い出深い。(宮本)



上は温溜の図/名人賞のメダル

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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