漢方つぼ物語(231)
承光(しょうこう)

〈 アイフォン紛失騒動記 〉

 「今時、なんでも携帯頼みで、連絡先からこれからの予定に至るまで、生活のすべてをあの小さなハコの中に詰め込んでいる。携帯をなくしたらたいへんなことになっちゃいますよね。」
 高野三山をめぐるバスツアーの車中で隣り合わせの座席に座ったTさんと、そんな話をしていた矢先に、その「たいへんなこと」が現実になった。愛用のアイフォン、すなわちアップル社製のスマートフォンをなくしてしまったのだ。道の駅にトイレ休憩をする直前に着信があったのを、はっきりと覚えている。休憩を終えて、バスが発車してほどなく、ポケットから取り出そうとしたが、見当たらない。こんな時にはいつもの手、とばかりに、お隣さんにお願いした。
「すみませんが、私の携帯番号に発信してもらえませんか。ポケットから滑り落ちて、座席の隙間かどっかに、はまり込んでいるようなんです。」
 聞きなれた発信音が座席の周辺からきこえて、
「こんなところに! 有難うございます、携帯を探すのはこれに限りますよね。」
 と、笑い合って、ことは収まるはずだった。ところが…発信音はついに発せられなかったのだ。私は凍りついた。平成27年8月21日午前9時頃だった。

***

 発信音がしないということは、バスの中にはない。考えられる可能性はただ一つ。今しがたトイレ休憩をとった道の駅で落とした・すられた・仮置きしてそのまま忘れた。上着の深めのポケットに入れていたから落としたりすられたりはないだろう。手に持ったままトイレに行き、無意識にどこかに置いて放置したのか。お隣のTさんが道の駅の電話番号を調べて、トイレ付近に携帯が落ちていないか尋ねてくれたが、今のところ見当たらないという。バスツアーの岐路で再びこの道の駅に立ち寄ったが、やはり影も形もなかった。

***

 午後5時30分帰宅。交番に届けようとも思ったが、まずはこのアイフォンを購入した販売店に相談した。何かの役に立つかと、つい最近買ったアイパッド、すなわち同じアップル社製のタブレット端末持参で販売店を訪れた。
「『アイフォンを探す』というアプリで、今現在、どこにあるか調べましょう。」
「えっ!? そんなことができるのですか?」
 アイフォンが発している電波をキャッチして、居場所が分かるのだという。アイパッドの画面に、今ここにあると、ある場所が表示された。その場所とは、新日鉄住金の構内。なぜ、そんな場所に? 私の想像力では、道の駅で拾得した人が、とりあえず職場に持参している、としか考えられなかった。この場所は関係者しか立ち入れないので、どうしようもない。拾ってくれた人が交番に届けてくれるのを待つばかりだ。販売店のアドバイスで、最寄りの交番で遺失物の届けをした。拾得物の届け出があったとき、いち早く知らせてもらうためと、みつからなかった最悪の場合に、かけてある保険に基づいてアイフォンを再交付してもらうのに「遺失物の届け出番号」が必要になるからだった。

***

 アイフォン紛失の翌日に、住金のOBである方が私の治療室に来られたので、「アイフォンはここにある」、という画像を見てもらった。
 「確かに住金の構内ですが、このあたりは協力会社のある領域ですね。」
 ふむ、では拾ってくれたのは住金の関連会社の職員の人か。今日にも交番に届けてくれるだろうか。
 しかしその日、届出はなく、アイフォンの電池も切れたらしく、位置も示されなくなった。もうこうなったら腹をくくるしかない。いつまでも携帯なしではいられないではないか。しびれを切らした私は、なくして5日後の8月26日、新しいアイフォンを手に入れる手続きをし、翌日午後、約一万円と引き換えに、真新しいアイフォンを手に入れた。電波が入ると、インターネット上に保管されたデータを徐々に復旧し始めた。驚いたことに、ほぼ完ぺきに元のまんまに復元された。よくできたシステムに感嘆し、同時に感謝もした。

***

 なくして10日後、新しいアイフォンを手に入れて4日目の8月31日のお昼頃、販売店から連絡が入った。アイフォンが見つかったという。なんと、私が乗ったバスの中で、つい一昨日、同じバスに乗ったお客様に発見されたのだ!
 疑問その一。隣の方に鳴らしてもらったのに、なぜ鳴らなかったのか?
 答。道の駅での休憩直前の来信後、どうせ今日は電話を受けたところで仕事はできないから、とマナーモードに切り替えて音が鳴らないようにしていた。
疑問その二。「アイフォンを探す」のアプリが表示した新日鉄住金構内は? 
答。利用したバス会社の営業所が住金構内のちょうどその場所にあった。
 そう、誰も悪者はいなかった。ただひたすら私が不注意であったのだ。反省。

〔承光(しょうこう)〕顔面・頭部から背筋を2列に下る膀胱経67穴中第6穴。
取穴:頭の正中線の外側1寸5分で、髪の前の生え際を2寸5分後ろのツボ。
治効:鼻づまりや鼻炎を治し、集中力が薄れて落し物をするのを防ぐツボです。
《作者からの一言》あまりに携帯に依存した生活も反省点の一つです。(宮本)



上は承光の図/双子のアイフォン

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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