漢方つぼ物語(234)
中都(ちゅうと)

〈 腹話術の祭典2015 〉

 緞帳(どんちょう)が上がった。司会者の紹介を受け、舞台中央のスタンドマイクの前に進む。
 「年に一度の腹話術のお祭り、腹話術の祭典にようこそ!」
 ほぼ満杯の客席に気(け)おされ数秒絶句。はっと我に返り、言葉をつなぐ。
 「私ども和歌山県腹話術協会は腹話術で笑顔を届けるボランティア団体です。ところで皆さん、小野田寛郎さんをご存知ですよね。30年間、フィリピン、ルバング島に潜み続けた旧陸軍兵士です。ここに小野田さんの最後の著作があります。その一節にこうあります。“最大なる味方は「笑う」〜「笑う門には福来たる」という。私はこの「笑う」ことで助けられた。慰めや励まし以上に私の味方になってくれたのは「笑う」ことだった。「笑う」それは、神・降臨の―神様がおりたつ―光なのかもしれない。”…何一つ楽しいことのないジャングルで小野田さんを支えたのは、笑うことであったというのです。お互いの健康と幸せのため、どうか今日このひと時、存分に笑って頂きたいと思います。
もう一つ、笑いのヨガの創始者であるインドの医師、マダン・カタリアさんの言葉を紹介いたしましょう。“楽しいから笑うんじゃない、笑うから幸せになる。”」
 腹話術協会創立35年目にして初めて、現職の市長さんが来賓として祝辞を述べて下さり、フリーアナウンサー・羽山京子さんの流麗な司会進行を得て、第35回腹話術発表会は、冒頭から上々の盛りあがりだ。

***

 前半の演技を終え、10分間の休憩のあと、友情出演である和太鼓ユニット“ようすい太鼓夢鼓隊”が小学生とは思えぬ勇壮な演奏で会場を引き締める。
いったん緞帳がおり、舞台上の太鼓を片付ける間に、“腹話術ミニレッスン”。
 「腹話術について、よく受ける質問にお答えします。
“人形は自分で作るのですか?” はい、自分で作る人もいます。前半で登場した岡崎光代さんのチーちゃん、このあと登場する木村純子さんのリイドちゃんや 細井昭誠(あきのぶ)さんの一連の人形は堂々の手作り人形です。
“人形はおいくらぐらいしますか?” 腹話術に用いられる人形には口と目が動くものと口だけが動くものがあります。目の動くものは10数万円します。口だけ動く人形は数千円から、数万円、中には10万円近くするものもあります。
 さて、腹話術は二つの要素から成り立っています。一つは、“口を動かさずに人形の声を出す”こと。もう一つは“自分の声と違う声を出す”ことです。今回は口を動かさずに声を出す練習をしましょう。
“ウイスキー”というと笑った口になります。この口の形が基本です。唇の動きを抑えやすい口の形です。歯を閉じて、唇は少し開いて息を出しやすくします。自分の声で結構ですから、口を動かさずに“アイウエオ”と言ってみましょう。難しいのは“ウ”。つい唇をすぼめてしまいます。極力口を動かさずに発音します。…
 おっと、舞台の準備が完了したとの合図が来ました。この続きは、来年のこの時間に。それでは後半の演技をお楽しみください。」

***

 舞台は終盤にさしかかり、いよいよ私の出番。日本昔ばなしのテーマソングに乗せて紹介のメッセージ。
 「プログラム18番、宮本敏企です。昭和57年4月入会、今回34回目の舞台は、会長としての初舞台となります。“乙姫の告白”、宮本敏企。」
 乙姫とかぐや姫、人形二体を双子の姉妹とする設定は、二体の声を同じ声で済ますためだ。
 まずはかぐや姫へのインタビュー。あまたの男性からの求婚をしり目に、月に行ってしまった理由を尋ねると、賭け事にのめり込んで月から地球に島流しになっていたのだと明かす。ギャンブルは大負けでスッテンテンになった、“ツキに見放された!”と落とす。
 次に乙姫へのインタビュー。浦島太郎は亀を助けた礼に招かれたのではなく、海の世界の天敵である漁師の浦島を亡き者とするために竜宮におびき寄せられたのだ、との真相が明らかになる。それならなぜ殺されなかったのか? それは乙姫が浦島に一目惚れしたからだった。海の世界の住人たちからは“なぜさっさとやっちまわないのか!?”と急き立てられ、浦島は里心ついて「家に帰りたい」、と言い出すに及び、地上の女に愛する男を奪われないため、乙姫は玉手箱を手渡した。“決して開けてはいけませんよ!”と念を押したのは、惚れた男に憎まれたくなかったからだ…。
 「さて、ここに乙姫様が浦島太郎に手渡したのと同じ玉手箱があります。今こそ童話・浦島太郎の最後の謎が明らかになります。皆さん、覚悟は宜しいですか? 玉手箱をオープンします。ワン、ツー、スリー!」
 玉手箱のふたを開けて中に入っている小麦粉を思い切り吹き飛ばすと、白煙が立ちのぼった。人形台の後ろに身を隠し、あらかじめそこに置いていた赤ん坊の人形を高く掲げ、“ホギャアホギャア”と泣かせる。照明はスポットライトとなり、舌をべろべろさせて泣き続ける赤ん坊に、会場の笑いはやまなかった。

〔中都(ちゅうと)〕脳中枢・眼、全身の筋緊張の均衡に関わる肝経の第6穴。
取穴:内くるぶしと膝小僧下端との中間の少し下で、骨(脛骨)の内側面中央。
治効:乙姫・かぐや姫の情動の激しさは更年期? このツボは婦人科疾患に効く。
《作者からの一言》会長として初の発表会は、立ち見の出る盛況でした。(宮本)



上は中都の図/オンステージ

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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