漢方つぼ物語(250)
中封(ちゅうほう)

〈 津久井やまゆり園事件 〉

  私の誕生日は7月23日です。「文月ふみの日」、とても気に入っています。今年、64歳を迎えました。
バースデー翌日の7月24日には、20年以上にわたって毎年欠かさず参加しているお決まりの行事があります。和歌山市四季の郷公園に程近い「伝法院」という根来寺に連なるお寺の地蔵盆のアトラクションで腹話術とマジックを演じるのです。
今年は春3月に旅行したお釈迦様の故郷・インドのお土産話。インドヨガのエッセンスを伝授し、ちょっと馬鹿馬鹿しい「蛇遣いの技」を披露しました。
〆はスルスルと天に伸びる「長生き(長い木)」&「希望(木棒)」。元気に真っ直ぐ伸びよ、とのこども達へのメッセージです。
「いじめっ子がいたら『お地蔵様の力でよい子になあれ!』と祈ってあげてね。」
 地蔵盆の夜が明けて7月25日は智慧の神様・菅原道真公の天神様の祭典日です。わが誕生日にいのちの原点を見据え、地蔵盆には未来を担うこどもたちにエールを送り、そして天神祭には「智慧により人を導ける者となれますよう!」と祈願します。
ダウン症候群という知的障害を伴う先天性疾患のある娘の親として、この日は感慨深いものがあります。

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  その天神祭の翌日7月26日未明に、神奈川県相模原市で未曾有の残虐な事件が発生しました。重度知的障害者の入所施設・津久井やまゆり園に、この施設の元職員である男が刃物を持って侵入、入所者19名を刺し殺し26人に怪我を負わせたのです。
 「障害者なんて、いなくなればいい」
 重複障害者、とりわけ重度の知的障害があって意思表示が困難な人たちを、容疑者は標的にしました。凶行の日以前から様々な形でそのゆがんだ考えを述べ、今回、現実のものとなってしまった犯行計画を示していました。
教員志望の明るく子ども好きの青年に、顕著な変化が見られたのは今年2月頃であったといいます。
 「君はそんな考えを持つ人間じゃない! 一体どうしたんだ? 何があったというのだ? どうして急にそんなことを言い出すのだ!」
 両肩をつかんで揺さぶってでも、そう問いただして誤った考えを正常に戻すことのできる勇気と愛情のある人間が、一人でもこの青年の近くにいたら、と悔やまれてなりません。

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  もし今、私の目の前にこの青年がいたら、私はどんな言葉をかけるでしょう。
 「私の長女はダウン症だが少なくとも君よりは人間の愛情を知っているよ。」
 まずはそう言いたいです。そしてこう続けようと思います。
 「重度の障害者は社会のお荷物と君は言うけれど、健常者と障害者の境目はどこにある?
 歳をとると誰でも認識力が弱り身体も動かしにくくなる。認知症の進んだ人と重度の知的障害者の間に本質的な違いはあるだろうか?
 病気で意思表示が困難になった人も安楽死させるのか?
 そんな社会で若者は未来に希望を抱いて生きることができるだろうか?
 すべてを包み込むことのできる社会は、誰よりも健常者にとって暮らしやすい社会であるとは思わないか?」

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  9歳で視覚を、18歳で聴覚を失い全盲聾(ろう)となった東京大学教授・福島 智さんは8月7日放送のNHK(Eテレ)の番組・バリバラ(バリアフリーバラエティ)に、事件について次のようなメッセージを寄せました。
 なぜこれほど心が痛むのだろう なぜこれほど恐れを感じるのだろう 魂がこおりつくようなこの不安の原因は 私たちと容疑者が 全く無関係だと言い切れないと 私たち自身が どこかで気づいてしまっているからではないか
 容疑者は衆議院議長への手紙で障害者を殺す理由として「世界経済の活性化」をあげた
 障害者の存在は経済の活性化を妨害するというのだ しかしこうした考えは私たちの社会にもありはしないか
 労働力の担い手としての経済的価値で人間の優劣が決められる そんな社会にあっては重度障害者の生存は軽視されがちだ そして本当は 障害のない人たちも こうした社会を生きづらく不安に感じているのではないか
 なぜなら障害の有無にかかわらず労働能力が低いと評価された瞬間 社会から切り捨てられるからだ 障害者を刺し殺した容疑者のナイフは 同時に私たち一人一人をも 刺し貫いている。

***

  障害者差別解消法が施行された年に起きてしまったこの事件は、容疑者が支援の現場で働いていた点で一層衝撃を与えます。人を生きるに値する者とそうでない者とに分ける優生保護法は、つい20年前まで施行されていたのです。
  〈平成28年8月22日 和歌山市立砂山小学校人権教育研修会にて〉

〔中封(ちゅうほう)〕脳の働きや精神作用と関係の深い肝経14穴中の第4穴。
 取穴:足首の関節正面の内側、内くるぶしの前方。前脛骨筋腱の内側の凹み。
 治効:イライラを除き、どんな人ともゆったり向き合う豊かな心を作るツボ。
《作者からの一言》障害のある人が鍵のかかった施設に閉じ込められるのではなく、広く地域に受け入れられ交流できる社会を築きたいと考えます。(宮本)



上は中封の図/園子と

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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