漢方つぼ物語(252)
  絡却(らっきゃく)  

〈 こじかの夏まつり&別所の踏切 〉

 一枚の紙片があります。「第18回 麦の郷・こじか夏まつり」という表題に祭りにふさわしい法被(はっぴ)のイラスト、さらに「2番」と番号が入っています。平成28年8月27日土曜日の晩に催されたイベントの福引き抽選券です。
 腹話術人形フーちゃん共々お招き頂き、「愛のマジック・希望の腹話術」というものものしいタイトルで終盤近くに出演する光栄に浴したのです。こじか園は設立20周年を迎えた障害者福祉施設で、昨年は保護者の皆様に親しくお話をさせていただく機会も賜りました。
 さて、予定通りの午後6時15分、私の出番がきました。フーちゃんはインド土産の象の刺繍が入ったTシャツ、私はこれまたインド旅行の折にオーダーメイドで仕立てた男子用インド礼服“クルタパジャマ”を着ての登場です。インドの女性用民族衣装“サリー”を取り出し、園長先生に手早くお着せしました。本場インドヨガの伝授、秘伝の蛇遣いの技(?)を披露して演技を終えました。
 私の「仕事」はもう一つ残っていました。お楽しみ福引き抽選会のお手伝いです。夏まつりの受付でもらっている「抽選券」には、一人一人違った番号が印刷されています。それらと同じ番号をしるした紙が入った抽選箱の中から、フーちゃんが一枚ずつ「当選番号」を取り出して大声で発表する、という趣向なのです。5等20本、4等5本、3等3本、2等2本、そして「豪華賞品」の当たる1等賞はたった1本だけです。会場内の期待が高まります。
 5等から始めて、徐々に雰囲気は盛り上がり、いよいよラストチャンス。1等賞の札を箱から選ぶ段になって、フーちゃんはこう言います。
 「フーちゃんやから、2番が当たりやったら、フーちゃんがもらおうっと。」
 「そらあかんわ、フーちゃん。抽選券、持ってないのに!」
 残念ながら「2番」は当たりませんでした。あらかたすべての当選券が商品と引き替えられて、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)できれいな絵本が、職員の方々の朗読と共にスクリーンに映し出されたあと、園長先生のご挨拶でお開きとなりました。帰り支度をしている私に一人の少年が近づいてきて、1枚の紙を差し出しました。
 「これ、フーちゃんにあげる。フーちゃんの番号やから。」
 少年がくれた福引き券には、はっきり「2番」と印刷されていたのでした!

***

 もう一枚の紙片があります。「JAF(日本自動車連盟)ロードサービス書」という表題に「落輪・落込※応急作業※道幅狭い、乗り上げ引き出し作業と誘導」との作業内容の説明があります。
 「こじかの夏まつり」で与えられた楽しい役割を果たして、帰途についた私は、園を出てすぐの三叉路で右に行くか左に行くか迷ってしまいました。私は右を選びました。それはかなり生育した稲の間を走る田んぼのあぜ道でした。
 (この道は今まで通ったことがない。どうも違うような気がする。)
 そう思いながらもどんどんその道を進んでしまったのは、私の車ぎりぎりの道幅を、もう一度バックで戻る自信がなかったからでした。Uターンできない細い道だったのです。やがて私は踏切にさしかかりました。手前には幅の狭いゲートがあります。軽四輪の車なら通過できそうですが、普通車は無理かもしれない、そんな横幅です。でもこの踏切さえ越えれば広い道に出ることができそうです。狙いを定めて進入しました。車の左側がこすれました。車を少し右に寄せて再び挑戦しました。今度は右側がこすれました。三度目の正直とばかりに、二度の中間あたりを狙って突進すると、なんとゲートにはさまってしまいました! 踏切の警報音がしたのはそのときです。慌てて後退しましたが、遮断機は私の車の前部ボンネットに降りました。這々(ほうほう)の体(てい)でそれをかわしてバックし踏切の手前に車を戻すと同時に、電車がやってきて通過しました。肝を冷やしました。一つ間違えば電車と接触、最悪の場合は、転覆させていても不思議でない、一触即発の事態でした。
 さすがに踏切を通過するのはあきらめて、今来た道を戻ることにしました。ある程度バックしたところで、狭いながらもUターンできそうな横道がありました。何度か切り返しながら車の後部をその道に突っ込み、方向転換しようとしているうちに側溝の護岸のコンクリートに乗り上げタイヤが空回り、進退窮まりました。ここに至ってようやく「JAFを呼ぶしかない」と観念したのです。
 約30分後、軽四輪のジープに乗って踏切の向こうから現れたJAF作業員は「正義の味方」に見えました。約40分かけて車を脱出・誘導して頂き、その上、JAF会員だからと費用の負担はなかったのです。
 この日、私は楽しい天国と、どん底の地獄を見ました。幸いにも地獄で仏に出会えましたが、今後、心を引き締めて運転することを誓いました。

〔絡却(らっきゃく)〕目頭から頭を巡り足の小指に至る膀胱経の8番目のツボ。
取穴:頭のてっぺん・百会(ひゃくえ)のツボの後ろ5分で、外側1寸5分。
治効:脳細胞の血行を促し頭を調え、道に迷わず正しい判断をもたらすツボ!
《作者からの一言》停車した状態でハンドルを必要なだけ切っておいて、しかる後に動かす。これが今回、JAFから教わった「切り返し」の極意です。(宮本)



上は絡却の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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