漢方つぼ物語(254)
  至陽(しよう)  

〈 腹話術の祭典 その1 「腹話術ミニレッスン」〉

 「36年目の腹話術発表会、『腹話術の祭典』にいっぱいのお運び、ありがとうございます! さて、人生において笑ってはいけない場面が二つあります。一つはお通夜の席、もう一つは借金取りに弁解するときです。そして逆に、笑わないではいられない場面が、これまた二つあります。一つは宝くじで高額賞金をゲットしたとき、もう一つは…腹話術を見るときです! そんなとびきり楽しい催しに致したく存じます。最後までご声援を宜しくお願い申し上げます。」
 和歌山県腹話術協会5代目の会長である私の開会挨拶で第36回腹話術発表会は幕を開けた。会長に就任して2年目、昨年の「会長初舞台」では、途中で頭が真っ白になり、十数秒間、沈黙してしまった。その反省の上に立って、今回は思い切り短い挨拶を考案したのだ。時間にして約1分。なめらかに言えた。
 ただ、ちょっと計算外であったのは私に続いて来賓挨拶をお願いしてあった尾花正啓(おばな・まさひろ)和歌山市長さんが、私に輪をかけて、ずいぶん簡潔な挨拶にとどめてくださったことだ。これには恐縮した。

     ***

 この日、市長さんのみならず市長さんの奥様に「一つの役割」を演じて頂くことになっていた。プログラムの半ば頃、私が担当するコーナーがある。名付けて「腹話術ミニレッスン〜たった5分であなたも腹話術師!〜」。そこで伝授する人間腹話術の人形役を、なんと市長さんの奥様が引き受けて下さったのだ。
 前日にあらかた打ち合わせを済ましていたのだが、スタンバイして頂く客席の位置に変更が生じ奥様に連絡するのだが、既に外出中らしく携帯電話をお取りにならない。着信に気づかれコール頂いたのは開演直前、市長さんと椅子を並べてオープニングを待っているタイミングだった。用件を伝えた後、
 「今、私のお隣にご主人様がおられますが、替わりましょうか?」
 「(笑って)結構です。」
 そんなやりとりの後、奥様に人形になって頂く旨を伝えると、市長さんが、
 「背中をポンと叩いてもらったら、口をパクッと開けるのですよね。」
 とおっしゃったので、
 「なんとコミュニケーションのとれたご夫婦ですね!」
 と驚くと市長さん、にこやかに、
 「いえいえ、私ども夫婦は腹話術みたいなものなんですよ!」

     ***

 はい、お待ちかねの腹話術ミニレッスンです。腹話術は二つの要素から成り立っています。一つは口を動かさずに声を出す「マジック的要素」、今ひとつは、自分の声とは違う声を出す「ものまね的要素」です。抱いた人形の口を動かし自分の口は動かさず、人形の口から出たような声を出すことで、まるで人形がおしゃべりしているかのような錯覚を生みだす芸能、それが腹話術なのです。
 ではレッスン1、口を動かさずにしゃべる。歯を閉じ、唇を少し開け、口角すなわち口の端を少し横に引きます。そう、笑ったときの口元の形です。歯を閉じ口角を引くのは唇をピンと張って、その動きを制するため、唇を少し開けるのは息が通るためです。ではこの口の形で、アイウエオを練習しましょう。口を動かさずに、ア・イ・ウ・エ・オ。はい、結構です。優秀です。どなたも口を動かさずに言えていますよ。
 次はレッスン2、自分の声とは違う声を出す。子どもの人形を用いることが多いので、自分の声より高い声を出してみましょう。だんだん高い声で、アアアアア〜。最後のア〜はいかにも苦しそうなので、その手前のアでいきましょう。ではこの高めの声で、しかも口を動かさずに、ア・イ・ウ・エ・オ。はい、約三百人の皆さんが全員、腹話術師になっています。たいへん結構でした。
 腹話術を習っても人形がない、とおっしゃる方のために、人形がなくてもできる方法を伝授いたしましょう。レッスン3、「人間腹話術」です。人間が人形になる方法です。人形役をあらかじめお願いしています。尾花貴子さん、舞台にお上がりください。はい、ご紹介いたします。本日、腹話術の祭典の冒頭でご祝辞を賜った尾花和歌山市長の奥様です。さきほどご主人様に「今日、奥様に人形になって頂くんですよ。」と申しましたら、市長さん、「背中をポンと叩いてもらったら口をパクッとあけるんですよね。」とおっしゃるので、「なんとコミュニケーションの良いご夫婦ですね!」と申し上げると、「うちは腹話術みたいな夫婦なんです。」っておっしゃいましたよ(会場、爆笑)。では、練習してみましょう。人形になりきる唯一のコツは、自分の声を出さないことです。(尾花夫人「はい」) あ、「はい」と言ってはいけません。パクッと口を開けてすぐ閉じるだけです。背中をポン、お口をパクッ、結構です。では本番です。
 これより第二部、(人形の声で)「スタート!」

〔至陽(しよう)〕尾てい骨と肛門の中央から頭を経て上歯茎に至る督脈第9穴。
 取穴:背中で左右の肩甲骨の一番下(肩甲骨下角)を結んだ高さあたりの窪み。
 治効:人間腹話術でポンと叩くあたり。不安を解消し呼吸と胃腸を調えるツボ。
 《作者からの一言》市長夫人が可愛い緑色のTシャツに早変わり、左右のほっぺに「くまモン」顔負けの赤いほほ紅をつけて登場されたのには驚いた。(宮本)



上は至陽の図/会長挨拶/市長夫人

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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