漢方つぼ物語(260)
  むつきゅう  

〈 お灸の実際 〉

 まずはお灸をすえるところを、実際に見てもらいましょう。これが私の長年愛用している灸治療用の道具箱です。灸をすえるのに必要なものが一通り入っています。順に出してご覧に入れましょう。
まずはモグサ。モグサという言葉は、「燃える草」、「もえぐさ」から来ているそうです。原料はヨモギです。そう、よもぎ餅(草餅)にする、あのヨモギの葉っぱを乾燥して作ります。
ここには2種類のモグサが入っています。まずは良く精製して夾雑物を取り除いた上等のもぐさ。これ、結構値が張るんです。100グラムいくらか、当てて貰いましょう。
千円からまいります。千円だと思う人、もっと高いです。3千円? なかなか。五千円? いやもっともっと。一万円? そこまではいきません、正解は八千円です。100グラム8,000円、1グラム80円です。
スジやカスを取り除いた最高級品です。皮膚にじかにすえる用です。
もう1種類のモグサは、やや色が濃くてすこし粗い感じ。これはハリの上に乗せて温みを伝えるためのモグサです。お灸を針の頭に乗せるので、このやり方を「灸頭針(きゅうとうしん)」といいます。
針の持ち手の部分に直接、モグサを巻き付けるのが本来のやり方ですが、それだと火の付いたモグサが皮膚の上に落ちかねないので、金属のキャップにモグサを乗せておいて、それを針にかぶせる方法が通常、用いられます。
 このようにお灸には「皮膚にじかにすえるお灸」と「じかにはすえないお灸」があります。さきほどの灸頭針のほかに、皮膚とモグサの間に何かを置いてすえるやり方を「物で隔てる灸」と書いて隔物灸と呼びます。味噌灸、塩灸などがあります。おなじみの「せんねん灸」も、空気で隔てた隔物灸といえます。
 ではじかにすえるお灸を実際にやってみます。といいましてもこの会場では火を用いることができないので、仕草だけをお目にかけます。
 線香に火をつけて左手で持ちます。右手の親指と人差し指でモグサをつまんでひねります。米粒の大きさで円錐形にします。これを患者さんの症状に応じたツボに置いて、線香で燃やします。
線香の先に灰がたまるとモグサに火をつけにくくなるので、時々指先でしごいて灰をとります。この動作は、素早くしないと火傷します。
すえるモグサの数ですが、通常、一つのツボに3つ、5つ、7つなど奇数個すえる習わしです。2つ、4つなどと偶数はすえません。最初は熱いのですが、慣れると次第に心地よく感じるようになります。
 じかにすえるお灸は、見た目にも熱そうだし、実際のところ痕(あと)も残ります。終戦直後の連合国軍の占領時代に、最高司令官のマッカーサー元帥が、
「こんな野蛮で残酷な治療はこの際、禁止すべきだ。」
と強く主張したそうです。二千年の伝統ある治療を禁止されてはかなわないと、私どもの業の先輩達は、国会周辺でハンガーストライキをするなどしてこれを阻止しようとしました。そんな中で、
「アメリカ人は合理的な考えをする人たちだから、お灸がからだに良いことを科学的に証明すれば、きっと分かってくれる。」
と、京都大学医学部の石川日出鶴丸(いしかわ・ひでつるまる)先生に、研究を依頼しました。野ウサギを用いた実験の結果、お灸にはあるすばらしい効果が認められました。お灸する前と後とを比較すると血液中の免疫成分が著しく若返り強くなっていたのです。お蔭でお灸は禁止されることなく生き延びました。
 ではそうしたお灸の効果は、どのようにしてもたらされるのでしょう。これも石川日出鶴丸先生の研究によって明らかになりました。
 お灸によって皮膚が焼かれると、皮膚を構成しているタンパク質が変化して「加熱タンパク体」という物質ができます。この物質こそが、お灸の効き目の元となる免疫物質です。普通、免疫物質といえば、はしか、インフルエンザ、など特定の病気に対するものなのですが、お灸をすえてできる加熱タンパク体は「非特異性免疫物質」…「ヒトクイセイ」と言っても人を食うわけでなく、特異性でない、つまり限られた病気でなく、病気全般に対する抵抗力をつける、まことに有難い物質なのです。
 「それでもやっぱり熱そう。」「お灸の跡が残るのはいや。」
 そうお思いの方々に、それほど熱くなく、痕も残らず、それでいてしっかりと効くとっておきの方法をご紹介しましょう。それは「はちぶきゅう」「くぶきゅう」というお灸のすえ方です。ツボにのせたモグサに点火して、今にも燃え尽きる「8分目」「9分目」あたりで、灸師が人差し指と親指でその火をそっと消してしまいます。是非一度体験なさってください。
 人類の宝・お灸で、免疫力を高めて健康寿命を延ばしましょう!
〈2017年3月5日 和歌山ビッグ愛における鍼灸マッサージ健康セミナーより〉

〔六つ灸(むつきゅう)〕ツボを組み合わせることで著効を表すやり方の一つ。
取穴:膈兪(かくゆ)・肝兪(かんゆ)・脾兪(ひゆ)を左右一対、合計6か所。
治効:胃疾患に用いる。別名を「胃の六つ灸」「六華(ろっか)の灸」ともいう。
《作者からの一言》灸頭針(きゅうとうしん)のやり方で六つ灸を用いると、ほのかな温(ぬく)みが腹の奥まで伝わり、さながらこの世の極楽です。(宮本)



上は六つ灸の図/六つ灸

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

[前のページへ] [次のページへ] [メニューへ戻る]
[トップへ戻る]


社団法人 和歌山県鍼灸マッサージ師会
 〒640-8341  和歌山市黒田97−14
 電話  073-475-7771  FAX   073-474-2241

 メールはこちらまで  info@washinshi.com