漢方つぼ物語(262)
  後頂(ごちょう)  

〈 カツラをゲット 〉

 和歌山県視覚障害者福祉協会からのご依頼で講演をさせていただいた。演題は「腹話術あれこれ」。腹話術を演じながら私の腹話術ボランティアの経験をお話しし、仕上げは腹話術のミニレッスンを、という内容。
平成15年に県立和歌山盲学校に非常勤講師として招かれたときの新任教頭であり、のちに校長になられた宮本克二先生のご依頼であった。
克二先生から腹話術がらみのご依頼を頂くのは、私の記憶ではこれが3回目だ。最初が和歌山盲学校で近畿ブロックの盲学校弁論大会が催されたとき。審査の時間に腹話術で和ませてほしい、とのご依頼だった。二度目は盲学校で地域住民と交流する行事が催されたおり、腹話術で出演させてもらったのだ。いずれも「その場を和ませる」役割であったので、今回も軽い気持ちで引き受けた。
 腹話術人形を車にいっぱい積み込んで、午後1時30分の開演時間に間に合うよう、今しも車を出そうとしたとき、思いがけない異変が発生した。エンジンがかからない! バッテリーが上がってしまっている! 万事休す、と思ったそのとき、私ども夫婦の騒ぎ声を聞きつけた向かいの狭間さんの奥さんが、
「宮本さん、どうかしましたか?」
と声をかけてくれた。
「車のバッテリーが上がったようで、エンジンがかからないんです。」
というと、
「うちの車もつい先日、バッテリー上がりを起こして、充電コードを買ってあります。すぐ電極をつないで充電してあげましょう。」
 ご近所とはこんなにも有難いものか。すぐさま、わが家と狭間さん宅の間の細い袋小路に狭間さんのご主人が車で入ってきてくれたとき、その姿は、頼もしい正義のヒーローに見えた。お蔭で約束の時間の3分前に、講演会場に到着できたのだった。
 驚いたのはこの講演会は県視覚障害者福祉連盟の年に一度の本格的な研修会で、県障害福祉課の副課長さんや、上部団体である県身体障害者連盟の理事長さんも列席、最後まで私のつたないお話に耳を傾けていただいたことだ。もしご近所に助けていただいていなかったら、と思うと冷や汗の出る思いだった。
 全盲の方も数多く参加していただいていたので、腹話術人形にじかに触れてもらうことで理解を深める工夫をした。

   ***

 県身体障害者連盟の渋田年男理事長さんから「私の地元の橋本市身体障害者連盟の講演会で同様のお話をしてほしい」とのご依頼を頂いたのは、その直後だった。
先の講演会との違いは、対象が視覚障害者だけに留まらず聴覚障害者と肢体障害者の方々が加わる点であった。四肢、すなわち腕や脚に障害のある方はともかく、聴覚を喪っている人たちに腹話術を楽しんでもらうにはどうしたらよいだろうか、と私はしばし思い悩んだ。
きくところでは聴覚障害の方は「口話(こうわ)」といって唇の動きで話の内容を読み取ると言うが、私のセリフはその方法で読み取れても、人形の口の動きで人形のセリフを読み取ることなどできない(ま、私の腹話術は「人形がしゃべるときも私の口の良く動く腹話術」だから、私の口の動きだけしっかり見ていれば読み取れそうだが)。字幕を用意しセリフに併せて見せようか?
心配は無用であった。主催者は、まことによく考えてくれていた。なんと、手話通訳者を3人も付けてくれたのである。
講演全体を手話通訳するには交代要員を含めて2人で足りるのだが、もう一人追加してくれたのは、私が腹話術を演じる部分で、私のセリフ・人形のセリフを別個に通訳するためだ。なんとも贅沢な講演会である。
私はこの講演会のために新しい腹話術台本も作成して、意欲的に語りかけ、大いに盛り上がった。

   ***

 講演を終え後片付けをしている私に、ひとりのご婦人が声をかけてくれた。
「今日のお話の中で先生が女性の看護師さんを演じる部分がありましたよね。」
そう、私の新ネタは医者である人形のドクター・ヤブコージが患者を次々と診察して適切なアドバイスで治してゆく、と言う設定で、術者である私の役どころはドクターを手助けするナース、女役なのだ。
「要らなくなったカツラを、ご迷惑でなければ貰って頂きたいのですが。」
 なんとも有難いお申し出、もちろん二つ返事で「ぜひ頂戴したいです!」と申し上げたところ、二日後には郵送して下さった。
 これが想像した以上に高級なカツラ。軽くて装着感満点。妻が言った。
「それ、女装するときだけでなく、普段使いにできるんじゃない? 散髪屋さんで少しカットしてもらったらどう?」
 寄贈者の承諾を得て、行きつけの「エース理容」でカットしてもらった!

〔後頂(ごちょう)〕後正中線を頭頂まで上り上歯茎まで下る督脈の第19穴。
 取穴:頭のてっぺん百会(ひゃくえ)の後方1寸5分(指2本分)に取る。
 治効:車のエンジンでなく人間の脳が止まっては大変。頭部の血行を促すツボ。
 《作者からの一言》使用前と使用後の写真を添付しました。如何?(宮本)



上は後頂の図/使用前/使用後

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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