漢方つぼ物語(264)
  陰げき(いんげき)  

〈 猪教授退職祝賀会 〉

 平成28年度をもって和歌山県立医科大学教授を定年退職される先生は3名あったと聞き及ぶ。その内のお一人、猪卓三先生の退職記念祝賀会への案内状が届いたのは年末だった。光栄なこととてぜひとも参加させて頂こうと思ったそのとき、案内状の封筒から一枚の紙片がこぼれ落ちた。曰(いわ)く、
「誠に恐れ入りますが当日祝賀会でのご祝辞をお願い致したく存じます 何卒宜しくお願い申し上げます」
 身に余る光栄とはこのことだ。私は9年前から毎年、猪先生が中心になって展開するケアマインド特別講義の講師の一人として、医学部・保健看護学部の1年生を対象に、ダウン症候群のある娘を持つ親の立場で、1時間半の授業をさせていただいている。
 平成29年3月20日、彼岸の中日、和歌山城正面のダイワロイネットホテル和歌山4階の宴会場。まずは参会者全員で集合写真を撮影する。
なんと170名に及ぶ参会者が雛壇6段に並ぶ。最下段中央に、猪先生ご夫妻と岡村学長が座った。私は4段目で猪・岡村両先生の真後ろ。これは幸先の良いスタートではないか。
 猪先生の奥様には始めてお目にかかる。記念写真撮影と開会との合間に、ご挨拶に及んだ。
「今日、祝辞を述べさせていただく宮本でございます。」
「承っています。あなた,色々なことをなさっているのね、おみかけしたことがありますよ。」
 開会直後に、岡村吉隆県医大学長、及び東京女子医大の神津忠彦名誉教授、岐阜大学医学教育開発研究センターの鈴木康之教授の祝辞があった。
いずれも猪先生の業績を讃えるスピーチで、和歌山県医大医学部の定員が60名から100名に増員されたことも、医学教育の充実により国際的に価値ある認定が得られそうであることも、猪教授の尽力のたまものであることが紹介された。
なんでも医学部を出たから国際的に医師として認定されるわけではなく、医学教育の内容が規定のレベルに達していると評価された医学部でなければならないのだそうだ。その認定に,私が関わったケアマインド講義、即ち医療従事者として患者さんや障害を持つ人やその家族の気持ちを理解するための特別授業が寄与しているとすれば、こんな嬉しいことはない。
 乾杯・祝宴、県医大軽音学部による祝賀演奏をはさんで、更に3名の祝辞が予定されている。そのしんがりが私の出番だった。
元学長で現和歌山ろうさい病院長であられる糖尿病の権威・南篠 輝志男先生の後とは、全く以て恐れ多い。

  ***

「私はケアマインド授業の講師として毎年、私の娘の病気でありますダウン症候群について学生の皆さんにお話しさせていただいております。この授業を通じて、私は真にダウン症の子の父親になれたと感じております。その意味で、私にこの機会を与えてくださった猪先生は私の恩人であり,また恩師であると感謝しております。
さて先程来、猪先生の輝かしい業績の数々が紹介されていますが、それらの業績の7割は奥様のお手柄であります。(場内大きな拍手)…と必ずこう言うのよ、と出がけに妻に言われてまいりました。妻の申したいのは、『あなたの仕事の7割は私の手柄よ!』ということのようでございます。(場内笑い)
では猪先生ご夫妻に心からのお祝いの気持ちを込めて、3枚皿回しという技ををご披露致したく存じます。紅白2枚の皿ともう1枚、ご夫妻の永遠の青春を祈念いたしまして青い皿、赤・白・青と併せて3枚のお皿が、首尾良く回りましたら、拍手喝采をお願いします。
まずは左手に赤、右手に白、私は右利きですので左が難しい。…おっと紅白2枚が、なんとか回りました。では右手の白い皿を回ったまま左に移し、仕上げに3枚目、青い皿を。…はい、なんとか3枚、同時にうまく回っております。まことにおめでとうございます。
 続きまして猪先生ご夫妻がこれからも笑顔いっぱいで過ごされますよう『笑いのヨガ』をお二人に伝授致します。
笑いのヨガとは、インド人医師のマダン・カタリアさん考案のひたすら笑うヨガでありまして、ご夫妻には、ペアで行う笑いヨガ、名付けて“乳搾りヨガ”をご紹介したいと思います。
両手の4本の指を組んで頂き、くるりと上下逆に反転していただきます。ピンと両方の親指を下へ伸ばしていただきますと、それが乳牛の乳首でございます。お互いに笑いながら、しっかりとお乳を絞ってくださいませ。
 さてぶしつけながらここで奥様にインタビューをさせていただきます。奥様、猪先生はいつもにこやかにほほえまれ、だれに対しても物腰柔らかく接してくださいますが、家庭ではどのようなご様子なのでしょうか?」
 予告なしの質問に奥様は即座にこう答えられ、参会者一同の感銘を誘った。
「家でも、全く同じでございます!」

〔陰げき(いんげき)〕心臓を司る経絡「手の少陰心経」9穴中6番目のツボ。
取穴:てのひら側の手首の皺の最も小指寄りから5分(親指の横幅の半分)上。
治効:急な質問にも動ぜずリラックスできる効果あり。循環器の急性症状に。
《作者からの一言》司会の川邊哲也先生から丁重な礼状を賜り感激した。(宮本)



上は陰げきの図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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