漢方つぼ物語(271)
  髀関(ひかん)  

〈 デンマーク紀行その2 コペンハーゲンを駆け回る 〉

 平成29年7月3日月曜日午後1時30分、私はコペンハーゲン空港に降り立った。小雨が降っていたが、じきに止み、天空に美しい虹が架かった。私はこの虹に“ウエルカム・レインボー”と名付けた。
 乗換時間込みで約20時間のフライトの疲れを空港ホテルのお風呂で癒やし、まずは「コペンハーゲンカード」を購入する。これはカード型の便利な周遊券で、コペンハーゲン市内のすべての乗り物と観光施設がフリーパスとなる。私が最初に乗り込んだのはメトロ、地下鉄だった。空港駅から勇んで乗り込んだものの、はてさて、いったいどの駅で降りたら良いか見当がつかない。そこで、隣のつり革にぶら下がっているデンマーク人に地下鉄の路線図を指さしながら次のように尋ねた(もちろん英語で!)。
「私、今日、日本から来ました。コペンハーゲンカードを持っています。どこででも降りることができるのですが、あなたのお勧めはどの駅ですか?」
 すると、哲学者っぽい風貌をした、そのデンマーク人は私にこう聞き返した。
「君はコペンハーゲンの何を見たいの? 町(City)か? 自然(nature)か?」
この逆質問は私にとって衝撃的だった。日本人はしばしば選択を他人に丸投げをする。例えばレストランに入って「今日のお勧めは?」みたいに。そして、しばしば勧められた品を、そのまま注文する。「君は何を見たいの?」と尋ねられたとき私は、あたかも「君は、どんな人生を生きようとしているの? どんな自分になりたいの?」と問われているように感じた。
「君には君だけの感性があるはず。どんなことで胸がときめき、どんなときに幸福を感じるの? そんな自分自身の感性に、もっと耳を澄ましたまえ!」
 この印象は一週間のデンマーク滞在中に、次第に強くなっていった。“幸福度世界一(今年はノルウェーに抜かれて2番目になったそうだ。日本は51位。)”というデンマークの国民性を垣間見た思いであった。
 ところで先の質問に私は「もう夜も遅いので、シティがみたい」と答えた。くだんのデンマーク人は「それならデンマークの中心、コンゲンス・ニュートーゥ駅で降りると良い」と教えてくれた。そこは官庁や銀行、大店舗の立ち並ぶ、首都コペンハーゲンの中心街だった。この季節、北欧の夜は更けるのが遅く、大勢の人々でいつまでも賑わっていた。帰りは国鉄に乗った。

   ***

 翌日7月4日火曜日の朝を迎えた。デンマーク訪問団一行と合流するのは、今晩8時の予定だ。ほぼ一日たっぷりの自由時間がある。デンマークは自転車王国。高校時代の同級生には自転車で長距離サイクリングを楽しむ者が多くいて、デンマークに行くなら、ぜひともご当地の自転車事情を、つぶさに調べてきてほしいと注文を受けている。そこで今日は、ホテルのレンタルサイクルを借りて、コペンハーゲンの自転車専用道路を思い切り走ってみることにした。
 まずは記念写真を、とレンタル用自転車のうちのとびきりスマートな一台に乗ってポーズを決めようとしたが、これはだめだ! 足がつかない。サドルを低くしても爪先がかろうじて地面に着く高さ。そこで格好は今イチ、ママチャリに近いが足がちゃんと着くものを選んでツーリングに出発。道に迷わないようホテル前の幹線道路をひたすら一方向へと進む。
そのとき、私はマジック用のトランプをバッグに忍ばせることを忘れなかった。今回の旅の私にとって最大の目的は“大道芸を通じてデンマークの人々と交流すること”であるから。
 コペンハーゲンでは時速20kmで走ると信号にかからない自転車通行システムがある、と聞いていた。もしそうであるなら、一般車道と切り離された自転車だけの道路があるのだろうと想像していたが、実際に走ってみると自転車道路はたいてい車道に付随していた。
広い道では車道の両端に、そう広くない道ではどちらか一方に、自転車のイラストが描かれた専用道路がある。幹線道路では信号はそもそも少なく、快適に走ることができる。
自転車の構造上の微妙な違いに気づいた。デンマークの自転車は、ペダルを逆漕ぎするとブレーキがかかるのだ。 沿道にサーカスや寿司屋があった。どんどん走っていると風力発電の風車が20基ばかり並んでいるところに出た。川があり、橋を渡ると海に出た。コペンハーゲンは自然も豊かだ。小学生の一行が遠足に来ていた。
 お母さんが三人のこどもを連れた家族連れに出会った。目が合うと会釈してくれた。よし、今回最初の大道芸は、この家族連れをお客様にしよう。
「私、日本とデンマークの友好150周年の記念にコペンハーゲンに来ました。パーティーで披露するマジックのリハーサルのお相手をして頂けますか?」
 喜んで、とほほえんでくれたので、十八番のカードマジックをスタート!
 「お母さんはトランプのカードにたとえると、どのカードかな?」
 「優しいからハート。数字は…8かな。」
 そのカードが裏返って出てきてびっくり、大道芸は大成功。笑顔がはじけた。

〔髀関(ひかん)〕足の陽明胃経45穴中31番目、下肢の15穴中最初の穴。
 取穴:腰骨の出っ張り(上前腸骨棘)の直下で、筋肉と筋肉の間で凹んだ処。
 治効:自転車に乗ることで起こる膝外側の痛み(腸脛靱帯炎)を軽減するツボ。
 《作者からの一言》デンマークの人口は573万人、平均寿命は81歳。(宮本)



上は髀関の図/ウエルカム・レインボウ

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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