漢方つぼ物語(272)
  神堂(しんどう)  

〈 デンマーク紀行その3 クヌッセン機関長の面影 〉

 デンマークとわが国との公式な友好の歴史は、慶応3年に締結された日本・デンマーク修好通商船舶条約にさかのぼる。そしてデンマークとわが故郷・和歌山県との友好は昭和32年2月10日、真冬の夜の海難事故に端を発している。
 その日の午後9時40分頃、和歌山県日高郡日高町と美浜町の町境付近に位置する日ノ御埼沖を、デンマークの貨物船 エレン・マースク号が通りかかった。そして木材運搬船「高砂丸」が火災で炎上、乗組員が海に投げ出されているのを発見した。
風速20m以上の強風の中、まずは救助艇を降ろし、次いで縄梯子(なわばしご)を垂らして救助を試みる。高砂丸の船長は途中まで這い上がったが、冷たい海で体力を消耗、力尽きて海中に没した。このときデンマーク船の機関長のとった勇気ある行動が、地元の人々の感動を呼ぶことになる。
 ヨハネス・クヌッセン機関長は1917年12月生まれ。日本・デンマーク友好150周年の今年は、クヌッセン機関長生誕100年の年でもある。60年前の冬の夜、機関長が勇敢にも海に飛び込み、日本船の船長を救おうとしたのは満39歳、数え年では41歳。俗に言う“前厄”の年であった。
 翌朝、日ノ御埼北側の日高町田杭(たくい)地区の浜で、日本船乗員3名とクヌッセン機関長のご遺体、そしてデンマーク船から海に降ろされた救助艇が発見された。この出来事は地元の人々のみならず、多くの日本人に深い感銘を与えた。政府は機関長に勲五等双光旭日章を贈った。
事故の翌年、海難現場を見下ろす日ノ御埼灯台近くの岬パークにクヌッセン顕彰碑が、その4年後には胸像が建てられ、毎年2月10日の祥月命日に遺徳顕彰会主催の慰霊献花の集いが催されている。日高町田杭にも供養塔が建てられ、救命艇は今も保管されている。また高砂丸の母港・徳島県海南町には頌徳碑が建立されている。
 機関長の故郷であるデンマーク北部の町フレデリクスハウン市は人口約6万人。そこにあるバングスボー博物館に、クヌッセン機関長記念コーナーが設けられたのは殉難後半世紀となる10年前のことだった。今回、ここで下(しも)和歌山県副知事立ち会いのもと、美浜町・日高町の両町長とフレデリクスハウン市長が「機関長の遺徳を次世代の若者に伝え、友好親善関係を更に深めてゆく」との覚え書きに調印した。
 バングスボー博物館の館長は、「海に面したデンマークでは、機関長のとった行動は当然のものだった。」と語った。

   ***

 クヌッセン機関長の乗っていたエレン・マースク号を所有するマースク社はコペンハーゲンの中心地にあって、今や世界一の海運会社となっている。そのマースク社の本社を、私たち和歌山からの訪問団は平成29年7月5日の午前中に約2時間にわたって訪問した。マースク社に勤めて36年という古株の役員が歓迎の挨拶を述べられ、経歴30年の案内役社員が会社の歴史を語り始めた。
「当社の歴史は1904年にさかのぼります。父と息子と、一隻の船からスタートし、110年の歴史を経て、現在は1万9千人の従業員と、大型船舶を600隻以上、小型船舶も同じく600隻を有する、世界最大の海運会社に成長いたしました。」
 1904年といえば日露戦争勃発の年だ。アジアの小国・日本が大国のロシアを打ち負かしたことが北欧諸国を力づけ、独立の機運を促したと、フィンランドからの旅行客にきいたことがある。
「だからフィンランド人は、日本と日本人が大好きなんだよ。」
 1904年というマースク社創立の年号を耳にして、日本と北欧デンマークを結びつける不思議な縁(えにし)の糸を感じないではいられなかった。
 1970年代からコンテナー輸送が主流となり、現在、マースク社の630隻の船が世界中の4万5千の港に、計算上14分に一度の頻度で、一隻あたり1,500個のコンテナーを降ろして、また1,500個のコンテナーを積むのだという。世界一のマースク社のシェアは、それでも15%なのだとか。1970年代にマースク社は財産が分散するのを防ぐために財団を設立し、半分以上の財産を管理、公共の利益のための支出も試みているのだそうだ。
 私が最も心引かれたのは、「地中海を航行していると難民が粗末なボートから投げ出されて溺れているのに遭遇することがある。そんなとき、それらの難民を迷いなく救い上げる」とのくだりであった。その話の中に私は、クヌッセンさんの精神を垣間見た。日高町長が慰霊塔のある田杭の人たちへのメッセージを求めたのに応えて、マースク社の方が言われた。
「私たちの同僚が“当たり前のこと”をした。それを永く心に留めて頂き、慰霊を続けてくださっていることに、深く御礼を申し上げる。」
 美浜町長は、マースク社の東京支社に勤めている地元日高郡出身の従業員が、中高生の頃に訪れたクヌッセンの丘で感銘を受け、後に強く希望して就職したというエピソードを披露した。親善は若い世代に伝わりつつある。

〔神堂(しんどう)〕背中を二列に下る足の太陽膀胱経67穴中44番目の穴。
 取穴:第5・6胸椎棘突起間(肩甲骨の中間くらい)の高さで背骨の外方3寸。
 治効:呼吸と血液循環を改善するツボ。このツボで機関長を生き返らせたい!
 《作者からの一言》マースク社史展示室は2ヶ月前に完成したばかり。(宮本)



上は神堂の図/マースク社の見学

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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