漢方つぼ物語(275)
  四華(しか)  

〈 教育講演 〉

 毎年、小学校の参観日に参観授業後の教育講演の講師として招かれるようになったのは、いつ頃からだったろう。毎年、一校でお話をさて頂く。実は複数の学校からご依頼を頂戴するのだが、昨今はたいてい土曜参観となっていて、同じ日に依頼が重なり、結局のところ、一校だけの訪問となるのだ。
 ところが今年は、なんと3校からの依頼を、すべてお受けすることができた。1週間ずれての土曜参観2校を承った後、更にもう1校からの依頼が木曜参観であったからだ。
私はあえて3校、違った演題を設定した。経験上、同じお話を繰り返しすると、自分自身の中でマンネリが生じてパワーが低下すると考えたからだ。
 仕上げの3校目は講演させて頂いたその日が開校記念日で、保護者の皆さんだけでなく、5年生6年生の児童も一緒に聴いてくれた。昨年旅したインドと、今年訪れたデンマークを対比して話させて頂いた。
締めくくりはインドの神様ガネーシャ。願い事を聞き取って一気にそれらを叶える(!)と歓声が上がり、「アンコール!」の掛け声がかかった。教育講演でアンコールは珍しかろう。

   ***

 参観日の教育講演の依頼を受けた折、私は早い目に学校に到着、全クラスの参観授業を見せて頂くようにしている。こうすると全児童・全教職員を拝見でき、その後で講演するための良いヒントが得られるからだ。
 ある小学校の6年生の授業、テーマは「ちがいのちがい」。差異のある対象に対して違った対応をすることが、果たして理にかなっているのかいないのかを個々に検証しようという意欲的な人権授業であった。
まずは性別名簿。男子と女子を別々にアイウエオ順に並べる名簿は合理的か差別的取り扱いか。こどもたちの共通見解は「それは差別的」。男女分けする特別な状況、例を挙げるなら、下着になっての検診など、名簿を男女に分ける必要性のあるときは合理的だが、一般的には混合名簿を用いるべき、との判断が大勢を占めた。男女別名簿が当たり前であった私共の世代にとっては時代の変化と人権意識の進歩に感心するばかりだ。
 子供達の意見が分かれたのは、喫煙についても問題。「二十歳未満はたばこを吸うことが禁止され、二十歳になると吸っても良い、という法律の定めは合理的か差別か」。おおむね全員が、合理的、との意見。
「二十歳未満だとまだ体が出来上がっていないため、たばこの毒に負けてしまうが、大人になると体は完成しているから吸ってもいい。」
 ところがこの意見に、真っ向から反対する意見が出た。
「たばこの毒は二十歳未満か以上かに関係なく、誰にとっても体に良くないと思います。大人は自分たちが吸いたいから、こんな法律を作っているのだと思います。これは年齢による差別だと思います。」
 後者の意見を述べたのは最前列に座っている女子児童。私はいささか圧倒され、アンデルセンの童話「はだかの王様」を思い出していた。
ペテン師の仕立屋が「賢い人にしか見えない衣服」というのを真に受け、見えないというと「王様はバカなんだ」と思われてしまうのを恐れて、見える振りをする。家来達もまた、「ばかな家来はいらぬ」とクビになるのを恐れて、同じく見える振り。かくして素っ裸でパレードに及ぶ。と、ひとりの子供が大声で叫び、そして笑う。
 「あはは、大様、はだかだ!」
 はっと我に返った大人達は(やっぱりほんとうは裸だったんだ!)と、ようやく気づき、「王様は裸だ!」の大合唱、悪い仕立屋はきついお仕置きを受けた。
 ところで先ほどの喫煙の話、先生が、
 「確かにたばこは大人にだって身体に害があるのは同じだ。大人にだけ許されているのは、大人は各自の判断力にゆだねられているからだと考えられる。でもたばこは、吸っている人だけでなく周りで煙を吸わされる人にも害があることが知られているから、喫煙のルールがだんだん厳しくなっているのは君たちの知っているとおりだ。」
と説明した。
 私は他と異なる意見を堂々と発表したこの女子児童に心引かれ、授業参観に来ていた母親と一緒に下校するこの児童に声を掛けた。
「自分の意見をはっきり言えて、立派だったよ。」
すると、くだんの児童はこう言った。
「おじいちゃんが、肺がんで亡くなったの。」
母親が言葉を添えた。
「この子、おじいちゃんが大好きだったんですよ!」

〔四華(しか)〕奇穴の中でも特別に手の込んだツボの取り方をする有名な穴。
 取穴:@立って首に掛けたひもの両端をみぞおちでそろえて切る。
    A次にこのひもの中央をのど仏(甲状軟骨)にあてて両端を後ろでそろえて印を付ける。
    B鼻の直下と口角を結ぶ長さのひもの中心を印にあて、上下左右に4点を取る。
 治効:たばこは呼吸器(肺)・循環器(心臓)に害を及ぼす。その両方に効くツボ。
 《作者からの一言》「王様ははだか!」と叫ぶ勇気が私にあるだろうか。(宮本)



上は四華の取穴図/教育講演

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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