漢方つぼ物語  (55)

 

(しょう ) (きゅう)   

 

 卒業考査が終わり、和歌山県立盲学校で理療を学んだ者全員の単位が、無事に認定された。頭脳と体力を酷使した国試も済んで、結果を待つばかり。盲学校でのおごそかな「最後の授業」、それは卒業式だ。女子卒業生の晴れがましい振袖姿やりりしい袴姿が卒業式を華やかに彩った。そして卒業式の日の晩に、和歌山県庁にほど近いホテル・アバローム紀の国で、卒業の謝恩会が賑やかに催された。

 卒業生と教職員あわせて三十数名が参加、くじ引きで席に着く。まずは校長先生のご挨拶。通常の県立高校から今年度新たに着任された校長先生だ。

「すばらしい卒業式だった。」

と感激の面持ち。

次いで教頭先生が乾杯の音頭をとる。この盲学校出身の教頭先生だ。

「国家試験と卒業式に気を取られていて、入学試験を忘れるところだった。」

と笑わせる。

 乾杯と食事・歓談のあと、卒業生がひとりずつお礼の言葉を述べる。3年間、永い者では6年間過ごした思い出がさまざまによみがえるのだろう、感慨深げだ。

「はじめて盲学校で説明をきいたとき、こんな難しい勉強をしなきゃいけないなんて少しも教えてくれなかった。でも今日、ぶじに卒業できて感謝の気持ちでいっぱいです。…」

ついで参会者が順番にひとこと。

「今宵の会場は、昭和40年まで私たちの学校があった、ゆかりの場所です。」

と古株の講師先生が紹介すれば、

「昭和40年には私はまだ生まれていませんでした。」

と、若い先生がまぜっかえす。

 校長先生の、

「こういうお酒の入る席には、これからもぜひ声を掛けてください。」

との気さくな一言で、祝宴の席は一気に和やかさを増し、あちこちで卒業生を囲み思い出話の輪ができて語らいの尽きることがない。

***

 「それでは、このあたりで講師の宮本年起先生に、座を一層盛り上げていただきましょう。」

 司会者に促されて、いよいよ私の出番だ。

年起:さてここに現われ出ましたのは、かの有名なアラジンの魔法のランプ。このランプをこすって、なんでも願い事をかなえる大男・ジニーさんにご登場願いましょう。

ジニー:さあ、今日は東洋医学のふるさと・中国のなぞなぞだ。今宵ここにおられる女性方は、いずれアヤメかカキツバタ、きれいな人ばっかりなのですが、これから、ある美しいお方のお話をするから、それが誰のことか当ててね。

年起:はい、「この美しいお方はどなた?」クイズのはじまりー!

ジニー:その方は、5つ6つの頃から既に輝くばかりの美しさ。15になるとその美しさはピークに達した。ところが美人薄命の言葉どおり、30を超えて生き永らえることができなかった。

年起:はい、誰かわかる人? え? お月様? 正解! よくできました。月といえば今宵は13夜の月です。あさってが満月でその二日前の月というわけです。今日晴れて本校を卒業した皆さんは、ちょうど今夜の月のようにまだ満月にちょっと足りない。どうか目標を高く掲げて、これからも一層技術と人格を磨いてください。ご卒業、おめでとうございます。

***

 宴の締めくくりは、卒業生からそれぞれの担任の先生への感謝の花束贈呈。そして花束を受け取った先生からのお礼の言葉。いつも笑わせるのがお得意の鈴木先生がいつになく神妙だ。

「私自身が良く学ばせてもらった。私の方こそ感謝しなければ…。」

 ウイットに富んだ野尻先生も目を赤くしている。新米講師にはまだ味わうことのできない教え子と恩師の心の通い合い。かつて高校時代の恩師が教えてくれた「教えることは希望を語ること、学ぶことは誠実を心に刻むこと。」という言葉が脳裏をよぎった。「教育は共育。共に学ぶこと、共に育つこと。」というのもあったな…。

 知らず知らずに、私ももらい泣きをしていた。

「もらい泣きは、ツボでいうと『承泣(しょうきゅう)』かな。あのツボは、ちょうど泣きボクロのような場所にあったな…。」

 経穴学の講師は、どんなときも、ツボが頭から離れないものらしい。

 

〔承泣(しょうきゅう)〕手の陽明胃経の最初のつぼ。

取穴:瞳孔を通る垂直線が眼窩下縁と交わるところに取る。ここを指でさぐると線状のものを触れる。

治効:顔面神経麻痺、眼疾患(結膜炎、流涙)。



 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。
  尚、前段の物語の部分はフィクションです。


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